26 辺境の町・新しい仲間 13
「あっ?」
思わぬところからの声に、グストが驚きマルチナに目を向ける。
マルチナは両脇をしっかり掴まれたままではあったが、グストを眺める目は明らかに見下した様子。
「脳みそないの? あんたができるのは、取引じゃなくて命乞いってことよ」
「何言ってんだ、女。状況を分かっているのか?」
「分かってないのはそっちでしょ」
マルチナはユージに向かい声を上げる。
「ユージ、そろそろ行かないと別ルートで迂回した後発部隊の攻撃が始まっちゃうよ」
ユージも突然のことに返事を返せない。
無視された格好になり、グストは怒りの表情で怒鳴りつけた。
「おまえ、何言ってやがる。死にたいのか?」
グストの怒声をマルチナは無視したまま。ユージとの話しを続ける。
「後はこっちでやるからね」
そう言うと、マルチナは黒翼を展開する。
マグナスの治癒ポーションのおかげで翼も完全に復活していた。
マルチナは黒翼をひとはばたきさせ、両腕を掴んだ二人の男達もろとも宙に浮かび上がる。
男二人の重さはマルチナにとって全く障害になっていない。そのまま一気に上空へと加速していった。
グストは呆然とマルチナを見上げた。
マルチナはぐんぐん高度を上げ、地上にいるユージからはマルチナが黒い点のように小さくなった。
次の瞬間、黒い点が三つに分かれたと思うとうち二つが急に大きくなった。
それとほぼ同時、地面を叩く二つの鈍い音と振動が響いた。
二人の男の体が地面にめり込んでいた。人間としての原形は留めているが、もはや二人とも息はない。
その死体となった男達の側にマルチナがゆっくりと降り立った。
「ちゃんと掴まってないと危ないよって言ったのに……」
マルチナは動かなくなった二つの死体に向けて呟いた。
そのとき、グストの隣りでマルチナに剣を向けていた男が森の中へと走り出した。
マルチナは面倒くさそうに右手を挙げる。
森の手前でグストの配下の男をマルチナの鋼の爪が背後から貫いた。男は悲鳴を残し絶命する。
マルチナは爪を引き抜き、血に濡れた鋼爪をグストに向けた。
配下三人が目の前で斃れ、グストはようやく自分の置かれた状況--死がすぐそこに迫っていること、それを自覚する。
「待て、待て、俺は止めろと言ったんだ。でもマグナスが無理矢理……」
「なすり付け合い。まさに下種らしい」
「待て、殺すことはないだろ」
見苦しく弁解するグスト。
それを醒めた目でグストを見るマルチナは思い出したように呟いた。
「さっきは、お尻が重いとか言いたいように言ってくれてたけど」
「いやいや、怒らせたなら謝る。取り消す。許してくれ」
「一度吐いた言葉を今さら取り消すとか、できるわけないでしょ」
「じゃあ、あれだ、あれは褒め言葉だ。大きい方が魅力的って意味だ。俺もそっちが好みだ」
「あんたの趣味なんか知らないわ」
マルチナがグストの顔面に向け、右手を上げる。
それを見てさらに弁解を続けるため、グストは口を開く。
しかし、グストの言葉が音になる前にマルチナの鋼の爪は短い風音をたてた。グストの口をこじ開けて舌を切り取り、そのまま後頭部を突き抜いた。
う゛ぅぅ、と言葉にならない悲鳴を洩らし、グストも地面に斃れた。
先程のまでの男達の喧噪が一瞬のうちに消え去った。
あたりは風が木を揺する音と腹を刺され押さえた指の隙間から血を地面に垂らたマグナスの苦痛の声が僅かに聞こえるのみ。
「ニコ、頼む。ポ、ポーションをくれ」
苦痛に喘ぎながらマグナスがユージに懇願した。
グストも殺され、マグナスは戦うことを放棄していた。生き残るためには命乞いをするしか途はない。すがるような目でユージを見つめる。
「いまさら……ふざけるな」
吐き捨てたユージに向かい、なおもマグナスは懇願を続ける。
「ユージ、騙したのは悪かった。生きるため仕方なかったんだ。謝る。この通りだ」
「そんな都合の良いこと……」
「思い出せ、ハンナちゃんにポーションをあげたのは誰だ? そのおかげで助かったろ。その恩はあるだろ」
確かにマルチナは元気にはなった。でも、それは恩を売るためとさっきマグナス自身が言ってたはず。
返す恩なんかあるわけないだろ……。
マグナスの都合の良い弁解を苦々しく思いながら、ユージはマルチナに目を向ける。
その時マルチナとは思えない言葉がユージの耳に届く。
「なるほど、一理あるわね」




