29 辺境の町・新しい仲間 16
「後ろっ?」
ケニーが慌てて振り返る。
そこには予想だにしない光景があった。
アンデッドが二〇〇体ほどが隊列を組み、投げ槍を投げ掛けている。さらにアンデッドを挟むようにオークも一〇〇頭ずつが左右に隊列を組んでいた。
つぎつぎと飛んでくるアンデッドやオークの投げ槍に背後を取られた魔道士が背中を貫かれ倒れる。
「なぜアンデッドが後ろにいる?」
アンデッドなど事前の情報にはなかった。しかし、オークの当初の想定は五〇〇前後。防衛陣地に二〇〇しかいなければ、残り三〇〇はどこか別の場所に展開していることは当然予測できた。
しかし、たかがオークという侮りが、できたはずの予測を阻んだ。
その結果が敵の設定した死地に自ら入り込んだのだった。
ケニーは自分の甘さに舌打ちをした。
「挟撃を狙うのは自分たちだけなわけなでしょ」
トロールの肩に乗った指揮官らしき魔族がつぶやく。その声は意外にも高音だ。
アンデッドの隊列の背後には3匹のトロール。その一隊のトロールの肩に女の魔人が座っていた。
指揮をとるのは魔人の女だった。まだ若い。一七,八歳。
黒のローブを羽織り、栗色の髪は肩の辺りで切り揃えられ、風になびいている。
ローブの下には白い足が伸びていた。
女の魔人の命令を受け、アンデッドの両脇のオークはケニーらの部隊をとり囲むように左右に展開しだした。
さらに、グリフ達と睨み合いをしていたはずの防衛陣地を守るオーク達も指揮官の命令の声に従い、振り返えるとケニー達に向かって槍を投げつけた。
前後からの槍の雨に挟み撃ちとなり冒険者が傷つき倒れる。
個々の冒険者たち能力は帝国の軍団兵のベテラン兵にまさる。しかし、隊としての戦闘の訓練は受けていない。
いわば兵が大勢集まっただけ。有機的な防衛行動を取ることができない。
奇襲に対応できず単なる烏合の衆と化した。
個々に奮戦するもオークの攻撃になされるがままに削られていった。
「コリン! 防殻魔導だ。投げ槍を防いで立て直すぞ」
前方のオークに向けて防殻魔導を発現しながら、ケニーが叫んだ。
コリンは慌てて背後のアンデッドに向けて防殻魔導を発動する。
後発隊全体をカバーできる広範囲に防殻が前後に形成された。その防殻を槍が高い音をたてて叩く。
しかしゴールド、シルバー級の発動した防殻、アンデッドの投げ槍程度では破ることはできない。コリンの目論見どおり槍は防殻に跳ね返されてバラバラと地面に落ちた。
攻撃が止った。
この隙に修道士達がまだ息のある魔道士に治癒魔導を発動する。
回復した魔道士は立ち上がり魔導杖を構え攻撃の態勢を取る。
「防殻など粉砕しろ」
敵の司令官の命令に反応して、トロールが足下に積んであったスイカ大の石を拾い、防殻に向かって大きく振りかぶり投げつけた。
ブゥーン、と空気を振るわせながら石が飛び防殻にぶち当たった。
コリンの張った防殻は石の勢いに押され一瞬歪みながらも石を跳ね返した。
「休むな!」
指揮官の命令に三体のトロールは次々と石を投げつけた。
対するコリンは体中の魔力を絞り出し防殻に注入する。コリンの防殻は石を跳ね返し続ける。
しかし、コリンの魔力も無限ではない。とくに部隊全体をカバーすべく広範囲に防殻を発動させている。魔力の消費量は膨大で時間とともに苦しくなりだす。
コリンの発動した防殻にはところどころ微細な亀裂が生じ始めた。
一方、トロール達は疲れを知らないかのように構わず石を投げつける。
投石は轟音を響かせ防壁に激突すると小さな亀裂をつくり出す。いくつもの亀裂が生まれ、その亀裂は他の亀裂とつながり、より大きな亀裂へと成長していった。
くっ、とコリンが呻く。
防殻はトロールの投石に耐えきれず、ついに砕けて落ちた。
「シルバー級だとこの程度か」
背後でコリンが発動した防殻がくだけ落ちていく様を横目で睨みながらケニーは吐き捨てた。
しかし、自らも防殻で前方のオークからの投げ槍や投石を防がなくてはならない。後ろにまで防殻を発動して二面の防殻を維持するだけの余裕はない。
「突撃だ!」
防殻が崩れたのを見て取った女が叫ぶ。その声に、アンデッドが一斉に駆け出した。
アンデッドには痛みや死に対する恐怖はない。獲物に向かう本能のみで動く。なんの躊躇も迷いもなく猟犬の如く全力疾走で冒険者達に突進してきた。
かろうじて体勢を立て直しつつあった魔道士たちはファイヤーボールを発射し反撃を試みる。しかし、森の木々を縫って駆けてくる敵に命中させること自体が困難である。
しかも、ゆっくり狙いを定める程の余裕もない。必然、精度も落ち思うようにアンデッドに命中させられない。
多くのがファイヤーボーリが森の木に当たり虚しく火の粉を散らした。
ついにアンデッドの集団が駆け込む勢いそのままに冒険者たちに切りかかった。
二〇〇対五〇。
数と勢いの差がそのまま形勢に現れた。
しかも後発隊は魔道士中心で編成されている。近接しての乱戦はそもそも不向きである。
わずかに帯同していた剣士も、森の中しかも敵味方入り乱れての戦闘では仲間を傷つけないよう配慮しながらの斬り合い。思いっきり剣が振れず本来持っているはずの攻撃力を発揮できない。
一方アンデッドは同士討ちを恐れない。剣先で仲間を引っ掛けようが気にする様子はない。
両者は置かれた状況が違いすぎた。
一人また一人と冒険者がアンデッドの剣に腹を貫かれ、またオークの戦斧で背中を割られ、血を地面に撒き散らし倒れていった。




