03
「やはり……もぬけの殻か」
リベルは、肩を上下させ、乾いた喉を僅かな唾で潤してから瞳に写したのはルイン村。たった二日で、この村は過去の物となっていた。
「何故……村人が戻ってきていないんだ? 騎士の奴らもこぞって──まさか……な」
村の中を歩き回り、手掛かりを探すも見つかりはしない。戻ってきていてもおかしくはない、ルイン村の民の姿すら無いのだ。嫌な予感を、全身で覚えながらも、苦しむ仲間を思い出す。
期限が設けられた、グランの余命。無駄な時間の浪費は避けたい事なのだが、全てを見越してルークスは言ったのだろう。
王の側近たるだけあり、頭の回転は早い。
静寂を燻る、微風の冷たさは徐々に増してゆく。リベルは、焦りと恐怖を舌打ちで誤魔化し村、中央に足を運んだ。
──嘗て、ソフィアが戦った地。もしかすると、負傷はしていても何食わぬ顔で腰を掛けているかもしれない。浅はかな期待は、何故だか現実に起こりそうで、リベルの足並みは速くなる。
「そりゃあ、そーなるわな……でも」
目の前には、花が手向けられ微妙に盛り上がった砂の山があった。心のどこかで目を背けていた、現実を目の当たりにし、リベルが感じた感情。
それは、恨みや怒りではなく──感謝だった。
供養をされ、名まで記されている。自分の強さを知ら占める為、敗者を晒し死んでも尚、侮辱する勇者達とは天と地の差。確かに、三人は仇の存在ではある。だがしかし、消えつつある騎士道を騎士団ではない、他者に感じたのも初めてであり、故にリベルから零れたものは。
「──ありがとう」
感謝の気持ちだった。
リベルは膝をつき、安らかに眠るソフィアの墓標に手を触れる。苦しみ、のたうち回っていたグランに触れた手と一緒の手で。
「隊長……。貴方は、勇敢でした。前線に──北上しないのは、逃げだと影で言われながらも、民を一番に考え、勇者達を信用しなかった洞察力。本当に恐れ入ります。その力を、少しだけ俺に分けてください」
時間が無いのは分かっていたが、思い出は容赦なく走馬灯の如く脳内を駆ける。目を瞑り、そこにある世界に生きているソフィア・グラン・リベルは暖かくも切ない。
──土を握り、右頬から男の恥が伝う。
暫し、リベルは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をして目を開いた。
「また来ます。今度はグランも連れて」
立ち上がり、一礼し村を出る。
月は未だ、天辺に到達していない。顔を仰ぎ、夜空を見上げると目に力を込めた。
「俺は、絶てぇ屈しねぇ!! ──とは、言ったものの……こっから何処に……。まさか、王都に向かうとは思わない……。なら、北か??」
方角を間違えれば、グランの死を意味する。
「あれは??」
ふと、リベルの目に止まったのは荷馬車。色々な地域を行き来する商人ならば、あるいは見掛けた可能性もある。
「あれだけ、目立つ服装をしていれば可能性は零じゃない」
リベルは、商人に近寄ると大声でさけんだ。
「すまない!! 少し、聞きたい事がある」
進む方角に先回りし、道を塞いだ。これは、悪手かもしれないが、逃げられてはかなわない。
商人は、轡を引くと驚いた表情でリベルを見つめる。
「な、何ですか?? 貴方は」
少し怯えた声に、リベルは自分の服装を思い出し納得した。
「すまない。俺は、騎士団・エピメレイア・ソフィア隊に属するリベルという者だ」
皮の羽織り物を脱いで、リベルは顔を月明かりに晒す。緑色の髪は、平原に伸びる草のように風に靡かれ、翡翠色の瞳は宝石のように月夜で輝く。
リベルの姿を見て、初めは驚いていた商人も落ち着きを取り戻したのか肩を撫で下ろした。
商人が、疑いもせずに信じたのはリベルの人相や人柄では無く胸元に刺繍された紋章だろう。
「これは、ご丁寧に……。私は、ミリルカータ=アウテラと言います。どうかなされましたか?」
「アウテラ……か。これはまた、いい名を貰いましたな。──一つ訪ねたい事があるのだがいいか?」
「私に出来ることなら、なんでも致しますとも」
ミリルカータの言葉を聞いて、リベルはグラン達の事を伏せた上で詳細を説明した。
「ああ、彼等なら私が送りましたよ?昨日」
「それは、本当か!?」
食い入るリベルに、ミリルカータは顔を引き攣らせながら頷く。
「え、ええ……。このまま北に向かった場所にある街・デトールに」
「デトール?? そ、そうか、助かった。では先を急ぐので失礼する。止めておきながらすまない」
「そうですか……。と言っても、私もまだやるべき事があるので、気にしないでください。頑張ってくださいね──風に愛された者よ」
ミリルカータは、アウダースに指示を出し闇に消える。リベルは感謝を込めて、去るミリルカータの背に頭を下げた。礼を尽くすのも立派な仕事。ソフィアから、頭を叩かれ教わった大切な教訓を思い出し、心が温まるのを感じる。
「さ、行こうかね。と言っても……デトールなんか、地図には記載もされていないし、行ったこともない──一体、どんな街なのだろうか」




