04
「だーるーまーさーんがぁーこーろーんだっ!!」
和気あいあいとした、楽しげな声が小さい街に響く。スーとアムは、さながら夏の炎天下に満開を魅せる、向日葵の如く明るい笑顔だ。
幸人は笑顔を魅入ってか、はたまた、ブランクか、一番最初に動いてしまいリタイアとなっていた。
「あの子達は可愛いですね、アウテラさん」
「あの子達──では無く、私はこの世界で未来を歩く許可を持った子達が可愛いわ」
「そーいうもん、ですかね??」
見た目は、八十を超えていそうな老婆。故に、幅広い視野を持っているのかもしれない。それ程の包容力を感じても尚、幸人には理解がし難いものだった。
嗄れ、優しい声が鼓膜を叩く。
「そーいうものよ。私は──特にね??」
隣に座る、アウテラからはいい匂いがする。少しホコリ臭く、何処か懐かしい。幸人はゆっくり、ゆっくりと、懐かしき夏の日を思い出しながら息を吸いこんだ。自然と、幸人の口調も穏やかになり微風に乗せて言葉を囁く。
「アウテラさんは、優しいのですね」
「優しい?? そう、見えるのかい??」
優しい。そう、アウテラは恐ろしい程に優しい、優しすぎる。優しすぎて、寛大で、幸人はアウテラを見る事が出来ない。
──出来るわけがなかった。
気を滾らわすために、眼前で繰り広げられている競技に目を向けると、たった今試合が動いたようだ。
「はい!! あゆねぇ、動いた!!」
二人の息ぴったりとした踊る声に、歩は引きつった笑顔を浮かべながら頭をポリポリとかく。
「いんやぁー。バレちったあー」
──地球チームの残りは二人である。
真剣な目をして、微動だにしないミシェルも思いのほか、楽しめているようだ。
それもその筈かもしれない。彼女には凡そ、友達と呼べる人間が一人として居なかったのだから。一方、ヤンは事ある度に奇抜なポーズで静止している。さながら、修行の一端だというが如くだ。
アム達は、しかし、次なる行動が気になるのか目をキラキラさせ、一番初めに瞳に写すのは決まってヤンだった。
「お疲れ。そりゃあ、走ろうとすればバレるにきまってるじゃんか」
「いや、ホラ? 速攻って大事じゃん??」
「なんの試合だよ!!」
「にししっ。いんやあ……一番初め、バレそうだった時は、幸人を押したから大丈夫だったんだけどなあ」
幸人は、立ち上がり顔を強ばらせる。真剣そのものだ。
「えー? なに、そのクワッとした表情。気持ち悪いなあ」と、歩は言って幸人の頭を撫でる。
「俺は、犬か!!」
「お、いいねぇ! じゃあ、これからは私のペットだ!! 名前は……そーだなあ……ジャックザリッパーかな」
「ふっざけんな!! 連続殺人鬼、通称・切り裂きジャックなんて物騒な名前やめろや!!」
歩は笑を浮かべ、アウテラは二人を我が子を見守る母のような眼差しと笑顔で見つめている。
凄い言われようの幸人ですら、正直、この時が心地いい──とさえ思っていた。
「おー、良く知ってるねぇ!! でも、ジャックのが幸人よりイケメンだったんじゃん?? 出身はイギリスだし。きっと、目鼻立ち良かったよ?」
「おい、なに遠まわしにディスってんだよ! 売春婦を相手にする自体で俺の方がイケメンだ!!」
幸人は、頭を撫でる歩の手を払いながら堂々と答える。
そんなこんなで、長きに渡る競技も終わりを迎え七人はアウテラの入れてくれた紅茶、みたいなものルグレを飲みながら談話を続けていた。
「ユキにぃ達は、この世界、大好きッ?? この世界に、ずっと居てくれるかな??」
アムの透き通り、凛とした女の子の声が響く。
淀みない、美しい瞳はぶれること無く力強い眼差しで幸人を捉えていた。
目が合うと、無邪気な笑顔を浮かべるアム。
「俺は……俺達は……」
嘘を付けばいい、簡単な事だ。幸人は机の下で作った握り拳をより一層強く握る。
歩とヤンは、幸人の考えを甘いと言ったが、それでも悩みが晴れるわけではなかった。今でも幸人の背後には、疑念がヘドロの如くこびり付いて離れない。
目を背けた幸人の、握り拳に震え少し冷たい手が覆いかぶさる。横を、瞳だけを動かし見るとアウテラが、ふと囁いた。
「貴方は本当に優しいのですね。流石、妹の創った世界に生を持った子達」
「え──?」
「だからこそ──そんな貴方達に頼みたいのです。どうか、この世界を救ってください」




