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05

更新遅れてすいません!!

待っててくれた方々、ありがとうございます!

「やっとみつけた。探したんだぞ?? 屋根なんか上って──」

「んー?ちょっち、風にあたろーかなあッてね。ニシシ」


 山脈・ユグシル。つまり、北から流れ込む風は、穏やかではあるものの冷たさを含んでいる。歩は、幸人が探している時間も考えると、かれこれ三十分以上は此処に居た事になる筈だ。寒かったに違いないが、それでもこの場所に居たい理由があるのだろう。幸人は凡その察しがつき、徐に口を開いた。


「──思い出してたのか??」


 歩が屋根の上で膝を抱えている少し前の話になる。幸人達は食卓を囲い老婆・アウテラに昔の話を、この異世界に来る前の事を与太話としてしていた。デトールでは、『彼方の世界からいずれ、互いの理《ことわり》を調和する者が訪れる』と

 遥か昔から伝えられていたらしい。アウテラは手にした書物の文字を指差し、幸人達と重ねた為に、疑いもせずに歓喜していたのだ。

 内容としては、ヤンの武術の話・日本の電子機器の話やアニメの話。だが、食卓に小さい子、──年にして、五・六歳の男女が居れば、話題は自然と家族の事となるのは必然だった。と、幸人は思い返して思う。

 アウテラの率直な疑問。


「それでも、家族達と会えないのは辛いんじゃないかい?? みんな、当然いるんだろっ?」


 その質問に、皆の箸の進みは止まった。アウテラの幸人達を憂いる表情を見れば、悪気がないのは分かる。しかし、幸人はミシェルの過去を知ってるが故に彼女が気がかりで仕方が無かったのだ。問われて答えられるほど、気持ちのいい話でもない。ましてや、年が近い子供もいれば尚のことだろう。

 ミシェルに比べれば、幸人の私情なんかは可愛く思えるほどに悲惨な物語。誰もが言い出せない中で、先陣を切ったのが歩だった。


「んじゃあ、私の話でもしよっかなぁ!? 良いかなあ?良いよねぇ!!」


 歩は、いつもの明るい笑顔、声で語り始める。テンションについていけず、圧巻されたのはいつもの事。

 しかし、内容は目を──この場合は、耳を疑う過酷なものだった。

 今もドナーを待っている入院した弟。父ははるか昔に他界、母は病院のお金や生活費を稼ぐ為に夜の仕事と昼の仕事の両立。たまの休みは、ホテルで羽を伸ばす為に家には中々帰っては来ない。

 歩の家庭は、到底──家族愛と呼べるものがサラサラと無かったのだ。

 きっと、この話は何も着飾っていない裸そのもの。それでも、彼女は笑顔を絶やさなかった。あるいは、絶やせなかったのだろう。それどころか、横に座る子供の頭を撫でて「だからね? お兄ちゃんを大切にしなきゃだめだぞー」と、周りにも気を配る。同情し、気を配る言葉を探していた幸人が恥ずかしく思える程に明るく、元気に。

 だからこそ逆に、似た境遇の幸人にとって、歩の振る舞いは心から尊敬ができる反面、心配で仕方がなかった。


「そーんなところかなっ? って、そんな心配そうにしなくてもヘーキヘーキ!!」


 歩の横顔は、笑顔を作ってはいるものの、何方かと言えば、どうにか保てている印象。無邪気に、げんきに振舞ってはいるが、時折見せる伏せた視線が作る余白が、苦しそうで悲しそうで辛そうだった。

 冷たい風が、温もりを敏感にさせる故に勝手に思い込んでるのかもしれない。

 下心だと言われたらそれまでだろう。ただ、それでも、歩を一人にさせたくないと本能が語りかけていた。


「お前は、強いな。けど、アホだ」と、歩の隣に座る途中に幸人は言った。

 単純に、近寄るまでの間を無言で居ることに耐えれそうになかったのだ。なにせ、歩から滲み出る気持ちを無視した行動でもあるのだから。


「ひっどいなあ。アホだ、なんてオナゴに言う台詞じゃないぞっ」


 幸人は、星空を見上げながら言った。


「あんな、おちゃらけて言ったら誰もお前が辛い、だなんて分からないじゃないか」

「いーの。私の辛さを、周りに感じて欲しくないんだ。皆が笑顔なら、それが一番じゃん?」

「──例え……それが例え、自分を押し殺していたとしても、か?」

「そうだよ。前にも言ったよね?喜んで、傀儡になると。私自身の人格は既に無いの。死んで、消えてるんだよ。ずっと、ずぅっーと昔にね」


 手足を伸ばし、体の緊張を解す歩は清々しい表情をしている。別段、弟の事は気にもしていないと錯覚してしまうほどだ。暗く黒く淀み濁り、誰にも辿り着けない深淵の先に歩の本心があるのかもしれない。


「世界って、残酷だよな」


 傲慢だし、ワガママな発言だと幸人は分かっている。自分の人生を誰かが歩んで、自分が他の誰か──幸せな人生を歩んでいたのなら世界の色は、もっと繊細で鮮明で艶やかだっただろう。自分勝手な逆恨みだとしても、灰色に染まる世界を生き続けるのは苦しかったのだ。

 風は、幸人の気持ちを宥めるかのように、優しく靡き髪を撫でる。歩は髪をかき分け、空を見たまま口を開いた。


「──残酷、と言うか……。元々、私達に興味がないんじゃないかな。あるようにしてある、収まるように収まり、全ては収束する。誰かが死んでも、誰かが生き返っても、世界がそこにあるのなら、つまりは結果論としてしか残らない」


 淡々と話す歩からは、いつのまにか笑顔は消えてどこか遠くを見る表情をしていた。彼女が何を感じ、何を訴えているのか、理解がし難い内容に眉頭を顰めて、幸人は聞く耳を立てる。


「この星みたいに、私達は世界からすればちっぽけ。誰かが不幸で誰かが幸せだなんて気にもしないさ。神様は、罪人も善人も平等に愛する──とか、言うけれど実際は興味がないんだよ。どうでもいいんだよ……きっとね」


 言い切った後に、横目で見てきたのを視線で感じた。彼女は、返答を求めているのだろう。当たり前な話しだ。この話題を持ち出したのは幸人であり、歩は話に乗っかったにすぎない。

 しかし、予想の斜め上を行く発言に対して満足に応えれる答えを思い浮かばない。浮かぶはずもない。頭は真っ白となり、でも何かを喋ろうと口は徐々に開口していく。


「あー、んだよな」


 数秒かかり完全に開いた口から出た言葉は、意味もなさない共感。気の利いた言葉一つでない為の天罰か、肩に衝撃が走った。ヒリヒリとじんじんと未だ止まぬ打撃に翻弄されながら幸人は、笑顔の歩を瞳に写した。


「ぷはっ。ほーんとに、チミは駄目駄目だあね。そんなんじゃ、私は口説けないぞっ」

「ちょ! ばっ、誰も口説かねぇよ! 命がいくつあってもたりゃあしねぇよ。つか、いてぇし、つえーよ!!」


 肩を数発、容赦なく叩く。視界が叩かれる度にぶれる辺りから強さが明白だろう。歩は言いたいだけ、やりたいだけやって満足したのか立ち上がり幸人の後ろを歩く。


「──って、え?」

「見ちゃダメ」


 背中から伝わるのは体温。そして耳に吹きかかる吐息。


「あっと、お、おう」

「──でもね、探してくれてありがとう。嬉しかったんだよ? 本当は……ね。幸人は優しいんだね」


 甘くか細い声は、女性らしさを異端なく幸人に知らしめる。高鳴る動悸と、手に滲む汗を必死に隠し言葉無く、幸人は相槌をうった。


「幸人の背中……暖かい。ねぇ、ゆきと??」

「な、なんだよ」

「動揺しーすぎ!!」

「ちょ! おま! なっなんなんだよ! 背中押すなよ、転がって落ちたら骨折れるし、下手したら死ぬぞ!!」

「ニシシッ。だあって、幸人が全然男らしくないんだもん。まあ、だから怪我したら私が仕方なく──仕方なーく看病したげる。じゃあにい」


 あざとく歩は、いつもの笑みを浮かべそそくさと、部屋へと戻る。一人になり、こぼした深い溜息は、どんな思いが篭っていたのか幸人自身にも分からなかった。


「だが、まあ……白い発光は皆の共通点か……」


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