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03

 四人は、デトールに二十分ほど歩き辿り着いた。


「本当に金がなくても宿を提供してくれるのか? んな、ご都合主義、にわかに信じ難いのだけど……」


 幸人は、街を目の前に不安を吐露した。



 見た感じの外観は、ルイン村とは違い木造の建物が支流で寝心地はよさそうだ。しかし、山脈・ユグシルから連なる樹海が近い事から街の周辺は、薄暗くどんよりとしている。心なしか、空気もさっきよりも冷たい。長居をしたら気病みしそうな勢いはあるが、街の中は対義語の如く明るさと陽気な声音が揺蕩っていた。

 ──発展を捨てた街・デトール。

 自然と共に生きる事を選び、近代科学を拒む街。

『死は、無慈悲に誰にでも訪る。生もまた、残酷な呈示と共に訪れるのだ。全ては、科学の力に頼らずとも運命で決まっている』

 デトールで、受け継がれている言葉らしい。幸人は、デトールのイメージを異教徒の集まりであり、遥か過去のまま時が止まった街として捉えていた。

 ヤンは、辺りを見渡しつつ口を開く。


「ミリルカータさんも言っていただろ。此処は国と縁を切っている。ならば、国の通貨を利用するのはおかしな話だ。しかし、まあ……なんらかの条件は──あるかもしれないがな」


 幸人達には、金がない。金がなければ宿も借りれない。だが、野宿となれば動物の本能が邪魔をして幸人以外は中々眠りにもつけないはず。そこで、ミリルカータの言った提案を受け入れることとなったのだ。


 金がないのなら金がなくても泊まれる場所に行く。


「そうだにぃー。まあ、家に泊めて貰えるなら家事でもなんでもやっちゃうよん。ニシシ」


 歩の誇らしげな表情は意外だった。どうやら、活発系&体術系女子も家事は出来るようだ。正直、歩なら皿を投げて器用に棚へとしまう芸当をやってのけそうではある。想像しつつ歩の表情を伺っていると「んー? なあにかな??」と、一瞬目があった歩はわざとらしい笑みを浮かべた。

 幸人は反応的に目を逸らして街を眺め、話をそらす。


「いや、家事とかなら良いけどさ……。しかし、発展を捨てた街──ねぇ」


 黄昏に染まる街は、活気に溢れていた。街が生きているかのように、色々な声音が謳歌している。耳につく嫌な喧騒は無く、子供の和気あいあいとした笑顔や、大人の雑談、八百屋の威勢がいい客引き等に幸人の胸も踊った。

 人口は、見晴らしが良いことも考えるに多くはないだろう。にも、関わらず魅せる賑わいは祭りのようだ。

 発展を捨てたとは思えない充実に溢れたデトール。いや、もしかしたら、発展を捨てて時代から切り離されたからこそ、充実しているのかもしれない。が、幸人にはそれが眩しく見えていた。


「発展を捨てたよりも、眠らない街の方が似合ってるんじゃないか?」

「眠らない街、ねえ。案外、あってるのかもしれねぇな。ほら、ミリルカータさんも言っていたろ?」


 ヤンが幸人の言葉に納得し、幸人もまた記憶をたどる。

『デトールは、静まることがない。幻想郷の如く、明るい光は消えること無い。人の声は遠方まで届き俺達に恐れを抱かせる。──いや。もしかすると、彼等は、何かを待っているのかもな』

 少し言い方がオーバー過ぎたので、聞き流してはいたのだが、デトールの賑わいようはミリルカータの発言を真へと近づけていた。


「おやおや、ご客人かいな? こんな場所に珍しい」


 紫陽花色をした、着物のような衣装を身に纏う猫背の老婆が、垂れた瞼から優しい瞳を覗かし話をかけてきた。

 嗄れた声に、シワのよった顔。白髪で団子を作った髪型は、何故だか親しみやすい雰囲気を漂わせている。

 それに、幸人は勝手に異文化交流を求めない、少数派の民族と思い込んでいた節があった。そのため、気さくに話を掛けてきた事に衝撃が走り数秒、反応が遅れた。


「はい、そうなんです。我々、どーやら道に迷ってしまったみたいで……」


 一番に口を開いたのはヤンだった。腰の低い物言いは流石、大人の対応。幸人も、老婆と目が合ったので軽い会釈をした。つられたのか、ミシェルも歩も頭を下げる。


「おやおや、礼儀正しい可愛い子達だねぇ」


 人当たりの良さそうな老婆で良かったと、幸人は安堵を浮かべた。


「いえいえ、そんな事は……」

「謙遜しちゃって。子供は、素直が一番よ?その小さい子のお腹みたいにね??」


 老婆は、ミシェルのお腹が鳴らした空腹の合図を聞き逃さなかったようだ。

 方やミシェルは、恥ずかしそうに俯き、顔を赤らめる。


「そうだわ!!」と、老婆は何か閃いたのか、手を一回叩いて笑顔を崩さずに口を開いた。


「ここであったのも、何かの縁よね。食事をご馳走したいのだけれど、どうかしら??」

「気持ちは有難いのですが──なにぶん、お金が……」


 ヤンが申し訳ない雰囲気を漂わせて答えると、老婆は首を左右に振るった。


「いいのよ。私達は、話を聞くのが好きなの。だから、代わりにあなた達の話を聞かせてくれないかしら??あなた達の物語を──」

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