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王都や様々な村や街を行き来する行商人達が、高原・ラバードで一晩を越すべく、キャンプをしていた。ここは、北の魔国と南の王国を隔てる山脈・ユグシルを一望出来る事で有名。
行商人達が集まるとなれば普段、失敗談・商売談が繰り広げられる。酒も酌み交わすとなれば、当然賑わいを見せるものだ。
と言うのも、行商人とは見た目が人当たりの良さそうな雰囲気をしてるが割に、血の気の多いい者が数いる。山賊や魔物に襲われるリスクがあるからこその習性と言っても過言ではない。
──だが、そこにはいつもの賑わいが無かった。
日が暮れ始めているのにも関わらず、焚き火の一つもない。そこにポツリと品に満ちた、女性の声が響く。
「おや、おかえりヘルウルフちゃん達」
一人の少女が、誰もいないキャンプ場、中央に立っていた。煤汚れ一つ付いていない白いワンピース。ウェーブがかかり、腰ほどに伸びた金髪。白い肌に、先の尖った耳・真っ赤な瞳・鋭い犬歯をした少女は、魔国・アペルピスィアの魔王・テロスに仕える魔族であり、イブからの転移者でもある。名をシュリと言う。
「んー、ルイン村には行けなかったの??」
彼女が、創造主・イカリから授かった力は、ビーストテイマー。よって、人の言葉を発せないヘルウルフを操る事も容易。
今回、シュリがヘルウルフに命じたのはルイン村の襲撃。戦線から離れているルイン村を襲う事によって、北上し、バベル平原へ足を踏み入れる勇者陣営に先制攻撃を仕掛ける算段だった。しかし、放った二十頭あまりが、帰還してきたのは僅か七頭。強化魔術を施しているヘルウルフが、騎士達に劣るとシュリは信じる事が出来ずにいた。
「見たことも無い者に、半数以上が殺されたのです」
「なにそれ、面白そうじゃないの。勇者陣営が居たのかな??」
「いいえ。見た感じ、仲間とも思えません……。ですが、シュリ様やブグ様と同様に見たことも無い力をつかうのです」
シュリは、ヘルウルフから詳しい話を数十分聞いた。それらを踏まえて分かったことは、毒を操り、硬い鱗を持つ者。その二人が守っていた弱々しい男と少女。
「ふうん、なるほど……ね。私、いい事を思いついちゃったー!! その二人を拉致っちゃって脅せば、仲間にもなるよね? ほーんと、私って頭が良くて困っちゃう。てへぺろろん」と、シュリはあざとくわらう。
「しかし、どうやって……?」
「それは、内緒だよんッ。ハートッ」
シュリは、口笛を鳴らす。数分も立たず、翼を翻す低い音が響か始め、大地に大きな影を作った。
高原に咲く野花の花びらを舞い散らし、その音は次第に大きさを増す。シュリは、髪を掻き分け音の正体を瞳に写しながら口を開いた。
「あ、そうそう。その小屋の中に居るのが今日の餌だよ。まあ、あんま食べすぎないで、お腹いっぱいなったなら喰い殺しといてね。私は一足先に、研究所に戻るねんッ! ピースピース」と、笑顔で指をさした後、シュリは眷属である大型の龍・ヴァサルティスに飛び乗り離脱した。




