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60.呼び出し (4)

 こんな風に話していると、フェルに対して素直に、正直に話そう、と思いながら、それでも「フェルのことが好きだから」という一言だけは言えなくて、でも言いたくて、喉がぎゅっと締め付けられるように込み上げてくる。

 だって、それは、フェルのことが好きだから。好きになってしまったから。

 でもその後のどんな関係も望んでいない。男の恰好をやめて、女になる、という気はない。だから、ただ好きなだけ。それ以上の、恋人になりたいとかいうことは、ない。そもそも、自分なんかを好きになるはずはないと分かっている。

 でも、言ってしまいたくて仕方がない。アッチェルは胸が苦しくなってきてしまった。


 フェルはそんなアッチェルの気持ちなど知らず、続ける。

「なんか、この旅は変なんだ。南は魔物が多いから危険なんだけど、だからと言って普通に人が行き来する街道上にそんな危険な魔物がばんばん出るわけじゃない。

 アッチェルにとっては危険だと思うから行ってほしくないけど、ダルセニオンは大魔法使いで、ちょっと見ただけじゃ分からないと思うけどすごく強いから、魔物が出てもよっぽど退治できると思うんだ。なのに、そのダルセニオンが、まるで今回の旅で自分が死ぬくらいの勢いで、真剣に挨拶されたんだ」

「……真剣に挨拶?」

「今までありがとう、さようなら、って感じで」

「??」

「陛下に悪い魔法がかかって一大事だからってのは分かる。ダルセニオンは陛下“命”だし」


 アッチェルは「陛下“命”」と聞いてなんだか意外で面白く、そこを突っ込みたかったが本筋からそれてしまうため、フェルに話を続けてもらうことにした。


「だから、命をかけるくらいの覚悟でっていうのは分かるけれど、なんか俺にあんな挨拶をしたりすることに違和感があって」


 フェルは言わなかったが、アッチェルを旅に連れていくことに対して、真剣に申し訳ないと謝ってもいた。


「黒魔女の館って言っても、今は誰も住んでいないし、ただ禁止した黒魔術関係の資料がそのままになって、まるごと立ち入り禁止になっているだけなのに。ダルセニオンは何か隠しているんだ」


「まあ、たとえばそこに、強大な魔物が棲みついてしまっているけれど、なんとか封印してあって、立ち入り禁止にすることで誰も知らないけれど、大魔法使いのダルセニオンさんは知っている、とか……」


「こんなことになるなら、黒魔術も全面禁止にするんじゃなくて、城では研究を進めていれば陛下の魔法も解けたかもしれないのに」


 そう言っても後の祭りである。


 アッチェルの父は黒魔術関係の本を隠し持っているが、それを話してしまってはアッチェルが罪に問われるし、黒魔術に関する物品を見分ける知識を得るための本なので、実際の魔術の方法論に関する本は無かったと思う。


「あの、ところでさっきから、ダルセニオン様のこと呼び捨てにしているけど、もしかしてフェル、ダルセニオン様とも友達なの?」

 アッチェルが聞くと、

「ああ、俺、ダルセニオンと友達だよ」とフェルは言って、屈託ない笑顔を見せた。


 大魔法使いと友達と言ってしまえるのはなかなかすごいことだと思うが、個人的にあの奇矯なダルセニオンと友達であることがどうもアッチェルには想像つかない。


「友達多いんですね」

「どうだろう。多い方でもないと思うけれど……」


 あんなにタイプの違うダルセニオンとも友達と言えるなら、友達が多いんだろう、とアッチェルは思う。そして、自分もその一人に過ぎないのだろう。


 フェルにとって“友達”は、意味が軽いのかもしれない。


 自分も、フェルから友達だと言われたからと言って、旅に行かないでほしいと言われたからって、変に意識しない方がいい。


「そうだ。レーカは私の従妹なんだけど、知っていた?」

「ああ、レーカさん。さっき初めて従妹だって知った。言われてみると少し似ているよな」

「レーカは本当にいい子で、私は大好きなんだ。優しくて明るくていつも笑顔で、励ましてくれて。料理も上手だし可愛いし。男の子はああいう子のことが好きなんだろうなあ、って思うよ」

「ああ、確かに。でも、同じ東方系の恋人がいて、よく城まで送ってくるらしいって噂されてたぞ」

「……それ、私のことだ。レーカに恋人はいないよ」

「あ、そうだったのか。それ教えてやったら喜ぶやついるだろうなあ」


 フェルも、レーカに恋人がいると思って、対象外だと思っていた一人なのだろうか。いないと分かれば、意識し始めるだろうか。

 私と似ているのであれば、もしどちらかを選べと言われたら女の子らしいレーカの方を選ぶに違いない。


「フェルも友達になったら」

 そう言われてフェルは今までのレーカの態度を思い返すが、「女の敵!」と責められないまでも、冷ややかな態度を取られることが多かった気がする。しかし、


「(アッチェルの大事な従妹だし友達になれるよう)頑張ってみるかな」と言った。


 それを聞いたアッチェルは、自分が旅に出ている間にでも二人が友達かそれ以上になるんじゃないかと思った。友達を作るのが得意だと思われるフェルが「頑張る」と言ったということは、友達以上になれるように、という意味がこもっているのかと誤解したからだ。


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