46.謎な宝石の鑑定(5)
「アッチェルは大戦やヴァルナ公の反乱について知っているかい?」
「学校で習いました。大戦は30年前で、隣国やヴァルナ地方との間で大規模な戦いがあったって。
砂漠地方はそのときにコーダ王国に併合されたんですよね?
ヴァルナ公の反乱は10年前で、禁止されている黒魔術を復活させようとしたヴァルナ公がコーダ王軍によって鎮圧されたんですよね」
「まあ、そう習っていると思うけどね。
南は、ヴァルナ地方は元は独立した国だったんだよ。
ヴァルナ公国といって、ヴァルナ公爵が治める、コーダ王国とは別の国だったんだ。
それを大戦時に砂漠と同じようにコーダ王国に併合したんだ。
ヴァルナ公は名前は残ったが、一国の統治者ではなく、コーダ王国の支配に組み込まれた形になった。
ヴァルナ公国は魔法がとても発展していてね、コーダ王国も負けじと魔法使いを育成していたんだが、ヴァルナ公国には敵わなかった。
そこである年、発展し過ぎるほど発展したヴァルナの魔法を脅威と感じた先代のコーダ王が、その魔術を悪と決め付けて、“黒魔術”と呼んで大戦をしかけて、ヴァルナ公国を併合したんだ。
ヴァルナ公国は魔法は発展していたけれど、全体的な軍事力で見たらコーダの方が上だったからね。
そして、コーダ王国はヴァルナ地方の魔術を一切禁止したんだ。その後も、コーダ中央政府による魔法使い狩り、魔女狩りや圧政が続いたので、10年前のヴァルナ公の反乱に繋がったわけだよ」
「そうなんですね……。そんな政治的な背景は知りませんでした。ただ、黒魔術は大気を汚染するから禁止された、と習ったので」
「いま、私たちが黒魔術と呼ぶものも、コーダ王国の魔法と原理は同じだと
思うよ。
まあ私は魔法感受性も無いし、詳しくはないがね。
結局のところ、黒魔術は進歩し過ぎたんだ。大気を汚染してしまうほど力が強くなってしまったんだ。コーダ王国の“白”魔術だって、力が弱いだけで大気を汚染しているのかもしれないよ」
「……そうなんですねえ……」
「まあ、ヴァルナの魔法は進み過ぎたと言えば進み過ぎたのかもしれないね。人間が踏み入れていい範囲を超えて、神や精霊のみが介入して良い自然の節理に反するまでになってしまったのかもしれない。
この骨貝にしたって、10年以上も前にかけられた魔法がいまだに人に害を及ぼしているなんて、ちょっと普通の生活からしたら考えられないほどだろ。
だから、ヴァルナ公国が無くなって、ヴァルナの魔法が禁止されたことは結果的には良かったのかもしれない。人の世全体にとってはね。ただ、コーダ王国のやり方は気に食わないがね」
この店主はコーダ人なのに、こんなふうに政府の批判を口にしてしまっていいんだろうか。思わずアッチェルは誰も立ち聞きしてはいないか、店の入り口を振り返ってしまった。アッチェルの父と一緒に秘密裏に黒魔術の勉強をしていた会では、こんなセリフも飛び交っていたのだろう。




