45.謎な宝石の鑑定(4)
「まあ、そういうことがあったんで、それからは長い時間袋から出さないように気をつけたよ。その袋に入れると、宝石から出てる魔法か何かが遮断されるんじゃないかな」
アッチェルはそれを聞いて、家でこの宝石付き骨貝を発見したときに、すぐにしまって良かったと思った。
もしそのまま放置しておけば、察知したダルセニオンが城からやって来てしまったかもしれない。
「それで、鑑定した結果、これは一体何なんですか?」
「南方のヴァルナ地方で10年以上前に作られた物だろう。青い骨貝は先代のヴァルナ公が復活させようとしていた、黒魔術のモチーフの一つだ。海の精霊の持ち物として青い骨貝が描かれることが多いんだよ。
10年前の先代のヴァルナ公の反乱以降は黒魔術が再度厳しく取り締まられたから、こんな黒魔術のモチーフはヴァルナ公の反乱以前に作られた物だろう。大きなサファイアで、非常に高価だ。先代のヴァルナ公自身の持ち物かもしれない」
先代のヴァルナ公と聞いて、一瞬アッチェルはどきっとした。
明日から出発する旅の目的地は、先代のヴァルナ公の居城で、反乱によって廃城となった“黒魔女の館”だ。
だが、その目的地は他言無用なため、ここでそれを口に出すことはできない。
「……そんな品物を父は手に入れていたんですね」
「ただ、これが何のために作られた物なのかが、どう考えても分からないんだ。強力な魔法がかかっているだけじゃなくて、形としても奇妙な形をしているだろう」
それはアッチェルも気づいていた。
桃の実を半分に切ったときの、種の残った片側のように、綺麗な断面にサファイアが半分埋まったような形状をしている。
「これが置物だとしても、サファイアを下にして置いても安定しないし、おかしいだろう? 逆に置くとしても、骨貝のでこぼこの突起や模様がついている部分が下になって、安定もしない。断面を調べてみたんだが、何かの拍子に割れてしまってこうなった物ではなくて、元々こういう形に作られている。何のために?」
「たとえば、道具ではないんですか?」
「ああ、それも考えたんだけどね。サファイアを使って何かするなんて考えられるかい? 何か硬い物を加工するためとしても、持ち手がガラスというのが解せない」
「そうですよね……。持ち手は金属にしますよね」
「それにしても、これがまだ店にあったとは知らなかったなあ。アッチェラードさんが肌身離さず持っていて、一緒に行方不明になったとばかり思っていたよ」
店主とアッチェルは、自然と父アッチェラードの思い出話を始めた。
そしてアッチェルは、自分の知らなかった父の一面を知った。
特に、父が黒魔術に傾倒していたのは、単なる趣味ではなかったのだと聞かされて驚いた。黒魔術について調査する秘密の会のリーダーだったという。
商人は品物に魔法がかけられていても、体質的に耐性があるために、それに気づかずに売りさばいてしまい、結果として買い手が病気になったり、事故があったり、最悪の場合死亡してしまうケースもある。
そのことによって売り手が法的責任に問われることは無いが、トラブルに発展してしまうし、何より人道的な意味で避けたい事態だ。
だが、魔術、特に黒魔術に対する知識が無ければ、怪しい品物を見分けることができない。しかし、黒魔術に関する本は焚書の対象になり、持っているだけで罰せられる。
そこでアッチェラードは秘密裏に会を作り、焚書を免れた黒魔術書を収集し、新しい情報が手に入るたびに情報共有のための勉強会を開いていたという。
「全然知りませんでした……。ただの趣味だと思っていて……」
「お上にばれるといけないからね。黒魔術について調べていたことが分かったら罰せられるから、仲間に類が及ばないように会のことは隠していたんだろう。私たちは人のためになる良いことをやっているつもりなんだがね。そういったことにつけても、君のお父さんはお上を嫌っていたよ」
幼い頃から隊商と一緒に国境を行き来し、様々な国や民族を見て来た父には、法の柔軟性の無さにうんざりさせられることが多かったという。根っからの反体制人であった。
体制以外にも、規則やきまりが嫌いで、モラルに欠けていたといえばそうだったかもしれない。




