44.謎な宝石の鑑定(3)
ゴンゴン、ゴンゴン、
初めは遠慮がちだったノックの音が大きく早くなっていく。
宝石屋が中に居ることを確信しているように、真夜中のノックは執拗に続く。
ゴンゴン、ゴンゴン、
ゴンゴン、ゴンゴン、
血が凍りつく思いで、宝石屋はそのサファイアのついた骨貝を毛皮の袋の中にしまい、スケッチと一緒に引き出しにしまった。
そうしていると、ノックが止み、低い声で何やらぶつぶつと呟いている声が聞こえる。
こちらが息を潜める一方で、早口でぶつぶつ、ぶつぶつと呟き続けている。
恐ろしさに耐えかねた宝石屋は、逃げようか隠れようかと思ったが、そうする間もなく、
ガチャリ
と、鍵をかけておいたはずのドアが開く音がし、真っ暗な店頭の方から
カツカツカツカツ
と誰かが早足で近づいてくる。
宝石屋は気を失って倒れた。
「おい! どうした! 大丈夫か!」
気を失ったのもつかの間、肩を揺さぶられて目を開けると、黒いフードをかぶった黒い目とぶつかった。
「うわあっ!」
恐怖にまかせて後ずさりすると、
「何度もノックしたのだが、寝ていたのか。大事がなくて良かった」
そう言う男は、口調に似合わずよく見るとまだ少年のようだった。
その、黒いローブをまとって黒い金属製の長い杖を持った少年は、宝石屋の仕事場を一回りした。闇から出て来た亡霊が歩いているようで、薄気味悪かったが、自分に危害を加えるでもない。
「嫌な気配がしたので来たのだが……」
来たとはどこから来たのだ、と宝石屋は思う。闇の世界からではなかろうか。
「どうやら魔物ではないようだ。少し前までは確かにここにあった強い魔法が今は無い。恐らく悪い風凝だろう。宝石屋にはたまりやすいからな。空気の入れ換えを頻繁にした方がいい。体に毒だ」
「……」
「今までこんなことは無かったが、宝石屋にはあり得ることなのかもしれない。淀んだ空気がたまたま渦を巻いて埃のようにひとところに集まって風凝になってしまって、私がドアを開いたから霧散したのかもしれない……。まだ魔法の匂いは残っている。しかし強い風凝だった。城からでも分かるほどだったからな」
「城から!?」
城からこの宝石屋まで歩いて30分はかかる。
「ここだと付きとめるのに時間がかかってしまった。街は空気が悪いからな……。しかし、何事もなくて良かった」
宝石屋はこの人物が何者なのか分かりかけていた。恐らく、城に常駐している魔法使いだろう。
「夜分騒がせてすまなかった」
「いえ、ご心配をおかけして……」
「……床で寝ると風邪をひくから気をつけた方がいい」
「は、あ、その通りですね」
去り際にその人物はもう一つ謝った。
「そうだ。鍵を壊してしまったのだった。あまりに返事がなかったので。店主の身に何かあったのかと思ってな。思い違いで悪いことをした。弁償したいが持ち合わせが無い。後で送らせるが、いいか?」
「はいはい、そんな気になさらずに」
「夜分すまなかったな」
「はい、お気をつけて」
店主がドアの外まで出て見送ると、その黒い固まりのような後ろ姿が遠くなり、闇に完全に紛れて見えなくなっていった。
橋の付け根にある塔の衛兵が敬礼をしたように見えた。
ほっと一息ついて店内に入り、ドアを閉め、いつもの癖で鍵をかけようとしたが、
「そうだった。壊してしまったと言っていたな」
と思い、ランプで照らすと……、錠が切断されており、半分はドア枠の方にあり、半分は扉の方に引っかかっていた。
「……」
足元には溶けた真鍮の固まりが……。




