43.謎な宝石の鑑定(2)
余談だが、この王都には川が通っている。
王都全体を城壁が取り囲んでいるのだが、川の上も例外なく城壁が通っている。
城壁と言うより、城壁から続く大きな橋と呼ぶべきか。橋の上には見張りの兵が常駐している。
その橋の下を船が航行しているが、中洲の橋げたにあたる部分に水門兵が常駐しており、通門証の確認を行っている。
また、敵が攻めて来た際には、鉄柵でできた水門を吊ってあるロープを切るというのも水門兵の大事な役目だ。
ロープを切ると、滑車ががらがらと回って水門が落下し、船が通行できなくなるのだ。
もっともそんな事態になったことは大戦時も無く、もっと昔の群雄割拠の時代にまでさかのぼらないと無いようだ。
夜には、水門を落下させるのではなく、ロープの巻きついた滑車のハンドルを平和的にがらがらと回して、水門を閉じるのである。
さて、アッチェルはそんな川沿いの道を歩いて、流れの上に石のアーチを描く小さな橋に着いた。人が通るところは平らになっている。
橋のたもとには小さな塔が建っていて、衛兵の詰め所になっている。
この橋には宝石商が集められており、橋の両脇に二階建ての宝石屋の建物がずらっと並んでいる。
アッチェルは橋の真ん中あたりの宝石店に入った。
「こんにちは、お久しぶりです」
丸い鼻眼鏡をかけた店主が「おや」とアッチェルを見る。
「いや、いやいや、アッチェルじゃないか。久しぶりだなあ」
海老茶色のフェルト帽の下、髪に白髪が増えた、とアッチェルは見る。
アッチェルが店を継いだ後で宝石のついた商品の取り扱いが無かったので、アッチェルの仕事として宝石の鑑定に来たのはこれが初めてだ。
店主に会うのは父の葬儀以来か。父の葬儀も遺体が無い中でこじんまりと行ったので、葬儀をしたという実感が家族にとっても来客にとっても薄い葬儀だった。
「まあそこに座って」
示された腰かけに座る。
「実は、父の書棚の奥からこんな物が出て来たのですが……」
アッチェルは黒い毛皮の袋を取り出した。黒革の紐を解こうとしたところで、店主が手で制止した。
「中身は?」
「骨貝みたいで……、あの、サファイアがついていて――」
店主はちらりと店の外を警戒するように見た。
「ちょっと来てくれるかい」
「はい」
店主について店の奥に入ると、店主は引き出しの書類をかき回しだした。
アッチェルは少し緊張する。
「あった。これだ」
店主が取り出した一枚の羊皮紙には、骨貝のスケッチが描かれていた。周囲に丁寧に細い文字でコメントが付けられており、寸法も縦横高さ、細かく記されている。
「君のお父さんが持っていらしたときに書いたんだよ」
アッチェルの父がこれを持って来たのは、消息を絶つことになる旅に出る少し前のことだという。
アッチェルの父アッチェラードは南西の谷間の村でこれを発見したとのこと。
以前、この骨貝を持って村を訪れた旅人が原因不明の病気で死に、その旅人の持ち物が村の共有物になった。
しばらくして、村の有力者が、この骨貝と金づちの上にかぶさるように倒れて亡くなっているのが発見された。
心臓発作のように見えたが、胸に手を当てるのではなく、かの旅人と同様に、なぜか窒息したようにのどに手を当てた格好で見つかった。
家族の話によれば、その有力者は旅人の身内が宝石を取り戻しに来ることを恐れていたという。
ガラス部分を壊して宝石だけ取り出し、売却しようと考えていたのかもしれない。
そしてアッチェラードが噂を聞きつけてその村へ行って、この骨貝を譲ってもらったという。
村人たちは、旅人の持ち物を着服しようとした祟りで、村の有力者が旅人と同じ姿で死んだのだと言って畏れ、旅人の呪いのかかった骨貝をただ同然で譲ってくれたという。
父アッチェラードは、旅人の祟りではなく黒魔術がかかっているに違いないと踏んで、この店に鑑定を依頼したのだそうだ。
毒は少しずつ服用していると耐性がついて効かなくなるそうだが、この宝石屋もそういう意味で魔法に対して耐性がついているのかもしれない。
また、代々宝石屋を営んでいるため、骨董商人のアッチェラードの一族と同様に、魔法によって命を落とした宝石商人が淘汰された結果、魔法に強い一族になっているのかもしれない。
この宝石屋も父アッチェラードの行きつけの店で、今までもいわくつきの宝石を多く鑑定してきた。この宝石はかなり“毒”が強そうだが、自分なら大丈夫だろう、と思ったそうだ。
その夜、寸法を測り、スケッチし、観察をしていたり、資料を引っ張り出して骨貝の形について調べなどしていたところ、
コン、コン
と真夜中にも関らず、ドアノッカーを打ち鳴らす音がする。ドアに取り付けてある真鍮製の輪のノッカーだ。




