47.謎な宝石の鑑定(6)
もっと父についての話をしたい気持ちは山々だったが、明日から旅に出るということもあり、アッチェルは話を切り上げて自分の店に帰ることにした。
暇をつげて立ち去ろうとするアッチェルに、店主は何か言いたげに手を伸ばした。
「? なんですか?」
明るい表の通りの逆光になった、アッチェルのすらりと伸びた背と、無造作に束ねられた髪の束から細長い首すじに散りかかる黒髪。
娘らしい媚びや恥じらいは無く、物腰がさっぱりし過ぎているきらいはあるが、澄んだ大きな目や、優しげなアーチを描く眉付き。
男と言っても通用するが、娘の格好をしたらどんなに美しいだろうか。
はっとするような美貌だった父と比べると、子のアッチェルは少し見劣りがすると言われるが、それは男にしては柔和すぎる、男にしては線が細すぎる、という、男の容貌の望ましさと比べて見劣りがすると言われるのだ。
アッチェルは昔から男の格好をしているので、本当に男だと思われていたり、本当は女だと知っていても忘れられていることが多いので、なぜか男の基準で父と比べて見られるのだ。
だがもし、女の格好をしたら、文句なしの美人になるだろうに。
東地区の表通りに店を持っていることだし、求婚者も多く現れるだろうに。
もったいない。
でも店主はぶしつけにそんなことをいきなり口に出して言えなかったので、引きとめたものの黙ってしまったのだ。
アッチェルは不思議そうに向き直る。
店主は何か言わなければと思い、
「あの、背が伸びたなと思って」
小さい少女の頃はまだ気にならなかったが、こうして成長して結婚してもおかしくない年になって、男の格好をし続けているのが気にかかる。
「私ももう17になりましたから」
さらりとアッチェルは答える。しかし、そう答えてすぐ、にこり、と営業スマイルを見せたのは、その後に続くだろう質問なり感想なりを予想して仮面をつけたように思われた。
その頑なな態度に少々ひるんだが、父の友人として、少し年長者らしく出ようと思い、言葉を続ける。
「あの、ドレスを着てみる気はないのかな? きっと似合うと思うんだが」
そう言うと、アッチェルはぷふーっと噴き出した。
「ドレス!? ドレスですか!」
「いや、まあ」
「ドレスなんて着る機会ないですよ!」
そう言われると確かにおかしい。失敗した。宝石屋をしていると、お客はドレスを着て着飾った貴族の女性ばかりだ。そのため、うっかりドレスと言ってしまった。
「いや、その、ドレスでなくても男の服ではなくて、女の服を着たらどうかと思って」
「……どうしてですか?」
「いや~、そうしたら、アッチェルと結婚したいって男がきっとたくさん来るよ」
「結婚する気はないですよ」
「そんな、どうして」
帰ろうとして立ちあがっていたアッチェルは、小さくため息をつくともう一度店主の前の椅子に座った。




