40.大魔法使いダルセニオンの部屋にて(7)
その鼠にダルセニオンが今、餌をやっている。
あのときとは、まるで見た目の年齢が逆になってしまったようだ。
フェルの背はここ数年でぐんと伸びて男らしくなったし、逆にダルセニオンは何故かある日突然、十二歳の少年に見た目を変えてしまった。
フェルは鼠について詳しくないが、本来の寿命よりも長生きしているのではないか、と少し疑っている。ひょっとしてちょっと魔物化しているんじゃなかろうか、という疑いさえ持っている。だがそれはダルセニオンには伝えない。まさか自分が飼うことによって魔法を浴び続け、魔物化してしまったとは、またダルセニオンを悩ませてしまいそうだからだ。
「急ぐな。ちゃんとやるからな」
小声でぼそぼそしゃべりかけながら餌をやっている。
フェルはアッチェルが旅に行くことについて考えてもいい対策も浮かばず、飽和状態のように、ダルセニオンが餌をやる姿をぼおっと眺めていた。
今ふと気づいたのは、アッチェルも自分のことをこんなふうに眺めていたということだ。
フェルが勇気を出して、今まで縁も無かった骨董品店に入って、とりあえず棚の物でも見よう、と立っていると、アッチェルが自分のことを見ていることが目の端で分かったのだった。
今まではフェルがアッチェルを見る立場だったのに、初めて立場が逆転して視線を浴びていることに感動して、しばらくそのまま佇んでいた。そしてその日は何も話さずに立ち去り、次に来たときに初めて話したのだった。
「だって、すぐに目的を果たしてしまうのって、もったいなくありませんか?」
「あの絵が気になって」と言ったのも、嘘ではない。
絵とアッチェルが一体となっていつも目に飛び込んできたのだ。絵の中の風の精の、どこか遠くを見ている無感動な瞳の群れ。同じような目をして、一緒に連れて行かれてしまいそうなアッチェル。
そのことを思い出したときに、ダルセニオンが何でもないような感じでこちらを向いて、
「時間はいいのか?」と尋ねた。
それはとても自然で、慣れた感じだった。ダルセニオンはフェルが自分を眺めていたことを知っているに違いない。しかしなんとも思っていない。
「ああ、今日の稽古は5時からだから……」
ダルセニオンはそれを聞くと、再び鼠の世話を始めた。フェルが部屋のソファーに陣取っているのを迷惑とも思っていない。
フェルはふと思いついた疑問を口にした。
「アッチェルは、なんで男の名前なんだろう」
すると、「父親が同じアッチェラードで、父親の名前を取ったらしい」
と、思いがけず答えが返ってきた。
父親が娘に同じ名前を付けたのだろうか?
この鼠と同じように、名前通りに、望まれた姿になろうとして、あんなふうに男の格好をしているのだろうか?
彼女はそれで幸せなんだろうか……?




