38.大魔法使いダルセニオンの部屋にて(5)
入って来たのは、魔法使いの部下らしい。
魔法使いのローブは自由な色が選べるが、ダルセニオンが漆黒のローブをまとっている以上、部下は皆遠慮して違う色を選んでいる。今入って来た部下は深い緑色のローブだった。
渡された羊皮紙をダルセニオンは難しい顔をして眺めた。
「やはり変わらぬか」
「はい」
「私は明日の早朝には出発する。以降は向きを変えた場合のみ報告に来い」
「はっ」
部下は礼をして下がって行った。
「今のはなんだ? 風見鶏って、あれだろ。魔法探知だろ」
黙って報告の様子を見ていたフェルが尋ねる。
王城の塔の先には風見鶏が付いているが、それは普通の風の吹く方角を示すのではなく、魔法の風が吹く方角を示している。つまり、より濃い魔法が流れて来る方角を向くのだ。
ダルセニオンはフェルの方をじっと見て、何も答えない。
「何だよ。何か異常があるのかよ」
フェルが聞くが、ダルセニオンはフェルをじっと見たまま答えない。
フェルはいらいらっとするが、これもよくあることなので、ソファーにもたれながら、
「あ~、分かったよ。ぼろが出るといけないから何も言えないんだろ」
と、理解を示す様子を見せると、ダルセニオンがほっとした様子で、
「悪いな」
そう言った後、檻に入っている二匹の鼠に餌をやりながら、
「まさかずっと南を向いているなんて、言えないからな。余計に心配させるだけだ」
そうつぶやいていた。
フェルは黙ってダルセニオンを見ていた。
(南? 魔法が南から流れて来ているのか)
フェルの胸はざわついた。
ダルセニオンは鼠に餌をやっているが、餌をやり始めたのではなく、餌やりを再開したのだ、ということにフェルは気づいた。
フェルが入って来たとき、ダルセニオンは部屋の真ん中に立っていたが、恐らく鼠の餌をやっている最中だったのだ。




