37.大魔法使いダルセニオンの部屋にて(4)
そう言うと、ダルセニオンは手に持っていた、先端が渦巻き状になった杖をゆっくり回しながら、呪文をつぶやき始めた。
そして、コーダ語の古語で“炎!”と叫ぶと、斜め前方に向けた杖の先から炎が吹き出た。
「うわっぷ!」
突然の火炎の出現にフェルは驚いてソファーから飛び退くと、急いでぶつぶつと何か唱え始めたが、どもりどもりな上に言い直したりしている。
その様子にダルセニオンはため息をつく。もう炎は消えている。
「全くお前は」
いつものセリフが出た。
「それはこっちのセリフだ! いきなり危ないじゃないか。何するんだよ」
身をかばった左腕に火傷ができている。とっさとは言え、剣を持つ右腕ではなく、左腕でかばっている。
それをフェルはふーふーしながら、またぶつぶつ言って右手をかざしている。少し火傷が薄くなった。
「う~」
その様子にダルセニオンが、
「治癒の呪文の方もまだまだ修行が必要だな」
そう言って杖をかざして治癒の呪文を唱えると、火傷が消えてなくなった。
「これは能力の問題だ。俺は魔法使いじゃないし。剣の稽古でよく怪我はするから、治癒の呪文はこれ以上修行する必要ないってくらい使ってるぞ」
「まあ、元々の素質で魔法の効果が低いのは分かる。だが、魔法防御の呪文に至ってはそもそも詠唱時間が長すぎる上に間違っていたぞ。“こは幻惑の炎なりて真の炎にあらざるがゆえに恐るるに足らず。熱からずはなどか火傷も負うべきか”だろう。氷の呪文の防御と一部混同しているからまったく効かなかったんだ」
幻惑の炎は本物の炎ではないが、実際に熱く感じるし、火傷も負ってしまうのである。ちなみに、眠っていたり気絶している場合は幻惑魔法は効かない。
「ああ、そうか、氷のと間違えてたか。まあ、魔法攻撃を受けるなんてことないからな。
もっと魔法使い連中と合同で、実践的な稽古も積む必要あるかもな」
「それはそれとして、今の炎はどれくらいの大きさだった」
「これくらいだったぞ」
そう言って、フェルが示す大きさは杖の先から1mほどだった。
作者注:コーダ王国ではメートル法ではなく別の単位がありますが、毎回翻訳換算の手間がかかるためメートル法で表現します。
「ほう。なるほど。面白いな」
そう言って、ダルセニオンはにやりと笑った。
ダルセニオンは外見上はいたいけな十二の少年に過ぎないのだが、表情が大人びているというか、偉そうなので外見に全くそぐわない。
「何が面白いんだよ」
「姫と魔法の稽古をしている時には、姫は3mくらいの炎が出ていると言っていたんだ。それがお前は1mか。やはり剣士は魔法ににぶいな」
「悪かったな」
「いや、それが長所でもある。エスプリもお前と同じくらいだ。ちなみに私の実感としては2mくらいで、姫とお前の中間だ」
「そうか」
「それで、アッチェラードは幻惑魔法が全く効かないから、具象化されたわずか5cmの炎しか見えていないんだ」
「え? 5cm? 実際に出てる炎はたったの5cmなのか?」
「そうらしい。魔法を出している私の目にも見えないから、それだけだったということは知らなかったが、そうらしい」
「へえ~。アッチェルってすごいなあ。そんな能力があるのかあ」
そう素直に言ってしまった後で、フェルは黙り込む。アッチェルが旅に行く理由を実感させられてしまったことに気づいたからだ。
でもアッチェルが旅に行くことには反対だ、と何とか言おうとして、考えていると、部屋の戸をノックする音がした。
「ダルセニオン様、風見鶏の定時報告に参りました」
「入れ」




