34.大魔法使いダルセニオンの部屋にて(1)
ここで場面を変えて、そのころ王城で、大魔法使いダルセニオンが何をしていたのかを書きたい。
前述したが、ダルセニオンは“大”魔法使いという肩書きが全く似合っていない。
先代の大魔法使いは、いかにも、という風貌だった。つまり、威厳にあふれた、白髪で髭の長い、枯れ木のような老人だった。
しかし、跡を継いだ現在の大魔法使いであるダルセニオンは、威厳があるというより、ただただ硬質な雰囲気である。真面目で深刻な表情から生まれるかもしれなかったカリスマ性は、だだ漏れの独り言によって損なわれ、就任時には確かに二十代後半だった外見はなぜか現在は少年になり、伴ってもともと高くない背も少年並に低くなっている。黒髪は癖っ毛がひどいのか魔法による影響なのか、不思議と立ち跳ねている。
少年のようになった外見についても、髪についても、誰もあえて聞こうとはしない。大魔法使いという非常に高い役職にあることと、本人の性格的にもとても話しかけづらいためだ。
なので、ダルセニオンの外見上の特徴に触れられる人物といえば、王、姫といった王族、それから大学者、大剣士といった、大魔法使い含めて三大峰と呼ばれる各分野でのトップと、その他として自称友達のフェルくらいであろう。
「おおっ、今日も一段と立ってるなあ」
ダルセニオンの部屋に入って来たフェルの第一声がこれである。
ちなみにダルセニオンの部屋は王城の北東の塔にある。
位の高い貴族はたいてい王城内に自室を持っている。多くはそれに加えて市内に邸宅を持ち、自分の領地に城を持っている。
だが、ダルセニオン含め、剣・魔・学の三大峰のように能力で登用されて一代限りの貴族になった者は、世襲の財力を持たない者も多く、割り当てられた王城内の部屋以外に自宅を持たない者もいる。ダルセニオンがそうだ。いや、ダルセニオンの両親は他界しており兄弟姉妹もいないらしいが、親の遺した家が財産として手元にあるのか、それとも売ってしまったのか、誰も知らない。里帰りをしたことが無いのは確かだ。
「何か用か」
入って来たフェルに対し、ダルセニオンは無愛想だ。
部屋の真ん中に立っていたダルセニオンに対してフェルはつかつかと近づくと、単刀直入に切り出した。
「明日出発する旅に、骨董商人のアッチェラードを連れて行かないでほしい」
いつも笑っている目が珍しく開いて、青さが際立っている。真剣な目だと分かる。




