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30.過去からの誕生日プレゼント(1)

「……考えるのは、やめだ」


 考えたり、悩んだりして、ろくなことが起こった例が無かった。


 暇な店主のアッチェルは、何かを考え続けようと思えば、考え続けることができる職業なだけに、自分で意図的に気持ちを早く切り替える必要があった。


「考えるだけ損だ」


 アッチェルは再び屋根裏部屋にこもって、父の書物を読むのを再開していた。


 アッチェルはこうやって問題を棚上げするのが得意だった。悩み事があっても、年中悩んでいるということはない。本能的に、悩みの原因自体や、悩むという状態を回避して生きて来た。

 そうやって、困ったときでも「大丈夫」、嫌なことは「仕方ない」、考えたくないときは、「どうとでもなるさ」、悲しいときでも「平気」、と心の中でつぶやいてきた。


 アッチェルはこの時も、いつものように自分の感情に蓋をして本を読んでいた。


 “考えるだけ損だ”という考え方は、一見合理的かもしれない。だが、アッチェルの心にはその考えによって押し込められた物が蓄積されていて、自分の感情さえも自分でよく分からなくなってしまっている。


「私は平気だ。私はアッチェラードだ」

 そうやって、父と同じ名前の自分を奮い立たせてきた。そのアッチェルの心の中で、悲しみや寂しさや何やらが染み付いて、“無意識”が許容量を超えてきそうだ。

 それがアッチェルの心の世界の片隅で、小さく点滅する灯りになっている。

 その灯りにかきたてられて、訳も分からないままに、アッチェルは動こうとしている。動こうとしているが、理性では何もわかってはいない。普段と同じ顔をして対応しているだけだと自分では思っている。


 アッチェルは屋根裏部屋で本のページをめくっている。

 旅に役に立つように、というよりも、何か作業をしていないと考え事をしてしまう、というのと、父の目を通した物を自分も読んで、父に近づきたい、という恋しさとが強かった。


 さて。おかしなことに気がついたのは、本棚の一番下の段、一番端に、パラパラと目を通した本を戻したときだった。

 一度棚に入れたが、本を持つ手を離さずに、引き戻した。


「――あれ……?」






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