23.旅立ち前日の朝のこと(1)
翌朝、旅に出る前日だ。アッチェルはいつもより早く起きると、同じ東地区で絨毯屋を営んでいる叔父の家へ行った。
事情を話すわけにはいかないので、フィオーナ姫がルステムル殿にしていた説明を拝借する。
ヴィオラ伯の城の美術品を、お姫様方のお暇つぶしのために鑑定や説明するために滞在する。3週間から、長ければ一ヶ月ほど滞在することになりそう。
だが、ここでもアッチェル本人と同じ疑問を投げかけられた。
「話は分かったが……、なぜアッチェルなんだい?」
叔父は普通の常識人だ。その質問はしごく当然だ。
ここでアッチェルは、魔法が効きにくいという理由は話せなかった。魔物が多いヴァルナ地方へ行くからこその理由だ。
そこで、フィオーナ姫がアッチェルに初めて会ったときの感想を引っ張りだした。
「姫が、年の近い骨董商人がいいとおっしゃったそうで」
「へえ。年の近い骨董商人ね。そう言われたらもう、アッチェルしかいないねえ」
よし。納得してもらえた。王都に店を出している骨董商人の中で、17歳のアッチェルは群を抜いて若い。
「店の合い鍵を預かってもらいたくて持って来たんですが……」
何かあれば店を開けてもらえる。大雨や大風の後の点検修理など。
「うん。分かったよ。あと、店の前に旅に出る旨を書いて看板を出しておくといいよ。そうしたら駆け込みでお客さんが来るかもしれないから。レーカはもうお城に行っていないけど、帰ってきたら伝えておくよ。きっと夕方行くと思うよ」
従妹のレーカに夕方会えると思うと、それも嬉しい。レーカは通いで城の台所に勤めている。
「叔父さん、ありがとうございます」
「うん。気をつけて行っておいでね」
頭を下げてから、ちらっと店の中を見ると、叔母さんと目が合った。
目が合った叔母さんも店の入り口まで出て来た。
「驚いた……。大丈夫? 気をつけてね」
叔母さんは内気なたちなので、実の姉の子であるアッチェルに対しても遠慮がちだ。でも決して悪い人ではない。
「叔母さん、ありがとうございます」
アッチェルはにっこりと笑ってあいさつを返すと、自分の店へと戻った。




