22.心模様(3)
「さてと」
わけもなくかけ声をかけてみた。外は真っ暗。家の中は一人。
買い物リスト中の『庶民』が自分だったとは驚いたが、必要な物の買い出しは終わっているし、他に持って行く荷物といえば自分の衣服くらいだった。深夜になってしまったが、旅のしたくは終わった。
あまり夜に活動するのはろうそくがもったいないので、もう寝ることにする。
ベッドの中で、今日あったことを振り返っていた。
まず、朝に大魔法使いダルセニオンがやって来て、旅のしたくの注文をして行く。どうやらこの時点でテストに合格しており、一緒に旅に出ることがほぼ決定していたらしい。
父のらくだ仲間に相談した後、その足で王城へ行き、旅のしたくの確認をする。そこで大学者のエスプリ様とフィオーナ嬢にも会い、一緒に旅に出ることを知る。もう一人は大剣士のリゾルーテン様という方らしい。
そこでヴァルナ公の次男というルステムル殿という貴族にも会い、今回の旅の発端が彼の持ってきた贈り物なのだと知る。
旅の目的は王にかかった悪い魔法を解く方法を探すこと。表向きは王は風邪ということになっている。自分たちはヴィオラ伯の娘のドルチア嬢の誕生日お祝いの一環としての姫の滞在に同行して、ヴィオラ伯の城へ向かうことになっているが、本当の目的地はヴァルナ地方の黒魔女の館である。
あれ、本当にヴィオラ伯の城も経由するのかな。位置関係を調べないと。そのへんを聞き忘れてしまった。
考えているとなかなか眠れない。
アッチェルは布団から自分の腕を天井に向けて伸ばしてみた。窓から射し込む月明かりに照らされて、細長い腕が青白く見える。
女の腕だな。
昼間、そろそろ通用しなくなる、と、らくだ仲間の人に言われたのを思い出す。
自分を男だと思ったことはなく、女だということは分かっている。でも父と同じ男の名前だし、父に似るのを母が喜んだため、自然と父のような人になろうと思ってきた。
男になろうと思ったわけじゃない。でも女くさいのは違うと思う。
フェルマーテンを思い出す。
あの人はいったい、どういうつもりなんだろう。
なんであんな、屈託のない笑顔をするんだろう。
アッチェルは胸が苦しくなって、月明かりに背を向けて丸まった。
あんな明快な笑顔をする人は、憎らしい。
私が旅に出たら、せいぜい驚けばいいんだ。
驚いたら、見合うだろうか。
何に何が見合うのか分からない。
ただ、憎らしいことは確かだ。
「フェルのばかやろう」
声に出してつぶやいてみた。
少し気持ちが収まった。
フェルのことを考えると眠れなくなりそうなので、別のことを考えることにする。
ダルセニオンは、なぜ年齢を偽っているのだろうか。
黒曜石のような目をして、色白な綺麗な顔をしている。
子供に見えたら、きっととても可愛いのだろう。見てみたい。
そのダルセニオンが、今朝、恐怖に満ちた顔をしたのを思い出し、思わずにやりと思い出し笑いをしてしまう。
だめだ。ダルセニオンさんのことを考えても眠れなくなりそうだ。
「なぜ私なのですか」
自分のセリフを思い出し、どこかで聞いたことがあると思ったら、母のセリフだった。
アッチェルの父のアッチェラードは、はっとするような美貌の持ち主で、人を見下すような目をしてにやりと笑うような若者で、賭け事やどんちゃん騒ぎが好きで、もうけ話があれば必ず乗り、祭ではしなやかな身のこなしで夜通し踊り、女性陣に大人気で、酒場では金の放出源だったという。
そんな父がある日、地味で目立たない母のところへ来て、真面目な顔をして愛の告白をしたというのだから、
「なぜ私なのですか」
と言いたくもなる。
アッチェルはその場面を想像すると、おかしいような嬉しいような気持ちになる。
ようやく眠れそうだ。




