21.心模様(2)
「この雰囲気がいいんだよな」
いつだったかフェルが、カウンターの前の椅子に座って、店内を見回しながらそう言ったことがあった。
「俺、最近いらいらすることも多くて。出世がどうとか、家柄がどうとか、そういうことはどうでもいいのに、こう、ライバル心持たれて突っかかられたりしたり。
でも、この店に来てアッチェルがぼーっとしてるのを見ると、いらいらしてた自分が馬鹿馬鹿しくなるよ」
そう言って、にっと笑う。ぼーっとって、ちょっとこちらを馬鹿にしてるんじゃなかろうか。
最近フェルは、アッチェラードのことをアッチェルと呼ぶようになった。父や従妹が呼ぶのと同じ呼び方だ。
「そういうもんですか」
そう返すと、
「そういうもんですよ」
と言って、フェルはカウンターに肘をつく。
「この店に入ると、空気が違う。時間の流れが違う」
フェルは人との間合いが近い。カウンターに肘をついて身を乗り出すので、顔が近い。
北の国の人はそういうものなのだろうか。フェルは北の国出身で、お父さんが剣の家庭教師? をしていて、家庭教師先を変えるたびに家族で北の国の領主の城々や、西の国も巡ってきたが、最終的にこのコーダ王国に落ち着いて、王に仕えているとのこと。
剣士の世界はよく分からないが、そういう旅の剣士もいるようだ。
フェルは顔が近い上に、何か手に取っていないと落ち着かない人で、いつも話しながら、そこに置いてあるペンをいじったり、紙をいじったり、あるときはうっかりこちらの手で遊びそうになったため、アッチェルは用心のために手は膝の上に置くようになった。
もしアッチェルの髪が長ければ、髪を指にくるくる巻きつけられてしまいそうだ。
フェルは、その空気が違う理由について考え込むように、話を続ける。
「いつ来てもいつ見てもアッチェルがここに座ってる」
アッチェルはこの近い間合いが心穏やかではないため、失礼にならない程度に少しずつ身を引こうとしている。
フェルは、ふっと笑って、アッチェルの目を見ると、
「居心地が良すぎて、城に遅刻しそうで、困るよなあ」
と言った。




