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19.旅のしたく(10)

「……私は魔法が効かないというだけで、他に何も役に立つとは思えないんですが……」


 そう言うと、ダルセニオンが、


「ヴァルナ地方は魔物が多いからな。たとえば眠りコウモリだ。奴が魔法でお前以外全員眠らせたら、お前が起こすんだ。同様に、しびれの魔法や、混乱の魔法を使う魔物もいるから、状態回復薬は全部お前に持たせて、お前が全員の状態回復にあたるんだ」


「え、そんな、みなさんが全員眠ってしまったりしびれてしまったりしたら、私が心細いんですけど……」


 魔物を目の前にして、自分以外が全員眠った状態になり、「みなさん、起きてください!」と必死になっている自分の姿を想像すると、冷や汗が出てくる。


「たとえばの話だ」

「ですが……」


 そう言ってしぶっていると、ダルセニオンが発見したような顔で、

「もしかしてお前、行きたくないのか!?」


 とのこと。


 もしかしなくても行きたくないのだが、それを言ってしまって、『罰』とやらを受けないか心配だ。しかしここは正直に言ってみる。



「正直なところ、行きたくないですが……」


 ダルセニオンは、信じられない、という顔をしている。


「陛下が寝込んでしまっているというのにか!?」


 そんな、自分の基準で計られても困る。ダルセニオンにとって国王陛下は大事な存在なのだろう。しかしアッチェラードにとっては、パレードや式典で遠くから見るだけの存在だ。


「ダルセニオンさんはそもそも、王家を守るための戦闘要員として養成された魔法使いじゃないですか。でも私はただの商人で、王家のためとかそんなモチベーション持ち合わせていないですし」


 ここまで言ってしまって大丈夫かと思いながら、この人になら言ってもいいかな、という気もあって言ってみると、


「そうか」とのこと。やはり大丈夫だった。


「お前は砂漠の民だしな。コーダ王国に対して愛国心を持てと言っても無駄だし、国王に面識はないし、名誉を重んじる家柄もないしな」


 その通りです。


「報奨金は望みのまま出そう」


 そう来たか。


「でも、私は今までの生活で十分幸せだったので、お金のために旅に出ようとは思わないんですが」


 そう言った後で、今までの生活で幸せだったのだろうか、と、ふと自問する。


 エスプリが気の毒そうな顔をして言う。


「悪いけれど、王家の大事は王国のため、ひいては国民の平和な生活のためだからね。行きたくない気持ちは分かるけれど、ここは一緒に旅に行ってくれないかな。来てくれるだけでいいんだ。アッチェラードのお父さんも旅の商人だったよね。お父さんが旅をしていたように、ここは一つ、この機に世界を見てやろう、ぐらいの気持ちで来てくれないかな」


 そう言われると、気持ちも揺らぐ。なんにせよ、ここでいくら話しても、断るということは立場上できそうにない。


 旅に出るとなると、店を空けることになるな、と思ったら、フェルの顔が浮かんだ。フェルが店に来て、自分がいなかったら、驚くだろうな、と思った。

 フェルは、いつ来てもアッチェラードが店にいると思って何の疑いもしないでいるのだ。

 そう思ったら、止められない衝動のようにフェルを驚かせたくなった。


「分かりました。行きます」


 ぽろっと言葉が出ていた。



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