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魔力適性Eの落ちこぼれ、俺だけが武器を複製できる  作者: 狙撃犬
第1章 最下位からの始まり

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第7話 壊れるまで使え

 学校が終わると、俺はいつものようにダンジョンへ向かった。


 最近は、放課後にここへ来るのが当たり前になっている。美咲には「部活みたいなもの」と説明しているが、実際には部活よりずっと危険だ。


 それでも、やめるつもりはなかった。


 俺にはシーカーとして強くならなければならない理由がある。


 美咲との生活。


 これから必要になる学費。


 そして、自分自身が弱いままでいたくないという気持ち。


 全部ひっくるめて、俺は今日もダンジョンへ潜った。


「武装精製」


 右手に剣が現れる。


 第一層を歩き始めてすぐ、ゴブリンが二体現れた。


「二体か」


 以前なら少し警戒していた。


 今なら、それほど怖くない。


 一体目の棍棒を剣で受け流し、そのまま横を通り抜ける。後ろから迫ってきた二体目の攻撃をしゃがんで避け、足を斬った。


 倒れたところへ、一体目の攻撃。


 俺は剣で受ける。


 ガキンッ。


 刀身に亀裂が入った。


「……もう限界か」


 次の瞬間、剣が消えた。


 手元から武器がなくなる。


 以前なら焦っていた。


 だが、今は違う。


「武装精製」


 新しい剣を作る。


 そのまま一体目を倒し、振り返る。


 残ったゴブリンが逃げようとしていた。


「逃がすか!」


 俺は追いかけ、背中から斬りつけた。


 魔物が光になって消える。


 魔石が二つ、床に転がった。


 拾い上げながら、俺は少しだけ笑った。


「……悪くない」


 剣が壊れる。


 新しい剣を作る。


 また壊れる。


 また作る。


 昨日までは、この繰り返しを「能力の欠点」だと思っていた。


 けれど、考え方を変えてみればどうだろう。


 俺の武器は消える。


 だったら、壊れることを前提に使えばいい。


 強い武器を大事に使う必要なんてない。


 必要な瞬間に、必要な武器を作ればいい。


「……これ、結構いけるんじゃないか?」


 独り言を呟きながら、俺はダンジョンを進んだ。


 その日は、今までよりも多くの魔物を倒すことができた。


 学校へ戻る頃には、少しだけ自信がついていた。


 翌朝。


 掲示板の前に人だかりができていた。


「何かあったのか?」


 人の隙間から覗く。


 ランキングが更新されていた。


『一年生シーカーランキング』


 一位。


 神崎蓮。


 総合評価――94。


 相変わらず一位。


 その下には、実力者たちが並んでいる。


 俺は自分の名前を探した。


 256位。


 黒瀬悠真。


 順位は変わっていない。


「……まあ、そう簡単には上がらないか」


 少し残念ではある。


 でも、討伐数は増えていた。


『討伐数:17』


 以前の俺からすれば、十分な成果だ。


「黒瀬君」


 横から声がした。


 白石天音だった。


「おはよう」


「おはよう」


「昨日もダンジョン?」


「ああ」


「最近ずっと行ってない?」


「そうか?」


「うん。顔を見るたびに少し疲れてる」


 天音が心配そうに俺を見る。


「大丈夫だよ」


「本当に?」


「本当に」


「……ならいいけど」


 天音は掲示板を見る。


「討伐数、かなり増えたね」


「ああ。少しずつだけどな」


「でも、順位は変わらないね」


「それなんだよな」


 二人で掲示板を眺める。


 俺の隣にある数字は、ずっと256。


 討伐数が増えても、評価はほとんど上がらない。


 理由は分かっている。


 他の生徒たちも強くなっているからだ。


 それどころか、俺よりずっと速い。


 魔力適性が高い生徒は、ダンジョンで得た経験をそのまま力に変えられる。


 俺は違う。


 少し強くなった程度では、差は縮まらない。


「……まだまだだな」


 俺は掲示板から目を離した。


 その日の昼休み。


 教室では、昨日のダンジョン実習について話している生徒が多かった。


「次の実習、第二層まで行くらしいぞ」


「マジ?」


「一年生でも成績上位は許可されるって」


「神崎は当然だろうな」


 そんな会話が聞こえる。


 第二層。


 俺はまだ入ったことがない。


 学校が管理するダンジョンは、第一層より下に行くほどモンスターが強くなる。


 今の俺では危険だ。


 それでも。


 いつか行かなければならない。


 もっと強くなるために。


「黒瀬」


 突然、教師から呼ばれた。


「放課後、職員室へ来てくれ」


「俺がですか?」


「ああ」


 嫌な予感がした。


 放課後。


 職員室へ行くと、担当教師が待っていた。


「座れ」


「はい」


 俺が椅子に座ると、教師は一枚の資料を机に置いた。


「最近、ダンジョンへ一人で行っているそうだな」


「……はい」


「討伐数も増えている」


「そうですね」


「だが、一人で潜るのは感心しない」


 予想通りの話だった。


「分かっています」


「なら、どうして続けている?」


 俺は少し黙った。


「強くなりたいからです」


「それだけか?」


「……妹を養う必要があります」


 教師の表情が変わった。


「妹?」


「中学三年です。俺と二人で暮らしています」


 余計なことを話した気もした。


 教師はしばらく黙っていたが、やがて資料を閉じた。


「事情は分かった。しかし、死んだら何も守れない」


「はい」


「君の能力は珍しい。だからこそ、無理をしてほしくない」


「……珍しい?」


「武装精製系の能力自体が少ない」


 教師は少し考えてから続ける。


「だが、君の能力はまだ評価できる段階ではない。今のところ、一般的な武器を作れるだけだ」


「分かっています」


「なら、焦るな」


 俺は頷いた。


 職員室を出る。


 焦るな。


 その言葉が頭に残った。


 俺だって、できれば焦りたくない。


 でも。


 時間は待ってくれない。


 美咲が高校へ進学するまで、あと一年もない。


 学費。


 生活費。


 できれば進学先も選ばせてやりたい。


 俺には時間が必要だった。


 だからこそ、強くならなければならない。


 その日の夜。


 俺は帰宅してから、自分の能力について調べていた。


 インターネットで「武装精製」「武装複製」と検索する。


 だが、これといった情報は出てこない。


 武器を作る能力。


 武器を強化する能力。


 そういったものはいくつかある。


 しかし。


「特殊武装を複製する能力なんて……聞いたことないな」


 俺は昨日手に入れたシャドウダガーを思い浮かべた。


 あれ以来、まだ試していない。


 机の上に手を置く。


「武装精製・複製」


 黒い光が集まり、短剣が現れた。


 シャドウダガー。


 以前と同じだ。


 だが、今回は少し違った。


『複製率――55%』


「……上がってる?」


 昨日は52%だった。


 わずか三%。


 でも、確かに上昇している。


 使えば使うほど、複製の精度が上がるのか?


 俺は短剣を眺めた。


 すると、刀身に小さな文字が浮かんだ。


『登録武装』


『熟練度:1』


「熟練度?」


 昨日はなかった。


 俺は試しに短剣を握った。


 身体から気配が薄くなる。


 どうやら能力を使うことで、武器そのものが成長しているらしい。


 そのとき。


 玄関から物音がした。


「お兄ちゃん?」


「美咲?」


「まだ起きてるの?」


「ああ」


 俺は慌てて短剣を消した。


「何してたの?」


「勉強」


「絶対違うでしょ」


「……」


「まあいいけど」


 美咲は眠そうに欠伸をした。


「明日も学校だから、早く寝なよ」


「美咲もな」


「うん。おやすみ」


「おやすみ」


 美咲が部屋へ戻っていく。


 俺は一人になった。


 そして、もう一度能力を確認する。


 武装精製・複製。


 能力レベル2。


 特殊武装複製。


 登録武装。


 熟練度。


 まだ分からないことが多すぎる。


 だけど。


 俺の能力は、少しずつ変わっている。


 翌週。


 学校では、次のダンジョン実習について発表された。


「次回の実習では、希望者のみ第二層への進入を許可します」


 教室がざわつく。


「ただし、条件があります」


 教師がモニターを操作する。


「第一層での討伐実績が一定以上であること。そして、担当教員から許可を得ること」


 俺はモニターを見る。


 必要討伐数は五十。


「五十……」


 俺にはまだ届かない。


 だが。


 ここ最近のペースなら、そう遠くない。


 実習まで一週間。


 俺は決めた。


「行く」


 第二層へ。


 今までより強い魔物。


 今までより危険な環境。


 それでも、行く。


 その日の放課後。


 俺はいつものダンジョンへ向かった。


 そして、いつもとは違うことを一つ試した。


 剣を作る。


 ゴブリンを倒す。


 剣が壊れる。


 すぐに次の剣を作る。


 また壊れる。


 また作る。


 武器が消えることを、もう欠点だとは思わない。


 むしろ。


「壊れるまで使えばいい」


 剣が壊れた瞬間、俺は次の武器を作った。


 その動作に、無駄がなくなっていく。


 敵が右から来れば、剣。


 距離が開けば、槍。


 懐へ入られたら、短剣。


 必要なら、もう一度剣。


 作って。


 使って。


 壊す。


 そしてまた作る。


 少しずつ、自分の戦い方が見えてきた。


 その日。


 俺の討伐数は、五十を超えた。


 帰り道。


 スマートフォンに学校から通知が届いた。


『黒瀬悠真』


『第二層実習参加条件を達成しました』


 俺は足を止めた。


「……やった」


 小さく拳を握る。


 最下位は変わらない。


 魔力適性Eも変わらない。


 それでも。


 俺は確実に前へ進んでいる。


 だが、その夜。


 学校の管理システムに、奇妙な記録が残された。


『黒瀬悠真の討伐記録を確認』


『一部データに不整合があります』


『討伐対象――未登録』


『該当個体の存在記録――なし』


 そして。


 管理者だけが閲覧できる画面に、一つの警告が表示された。


『第零階層との関連性を検出』


 誰も知らない。


 黒瀬悠真がただの落ちこぼれではないことを。


 そして本人すら知らない。


 彼が一匹の魔物を倒すたび、眠っていた何かが少しずつ目を覚ましていることを。

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