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魔力適性Eの落ちこぼれ、俺だけが武器を複製できる  作者: 狙撃犬
第1章 最下位からの始まり

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第4話 存在しないダンジョン

 巨大な魔物が咆哮した。


 耳を塞ぎたくなるほどの音だった。空気そのものが震え、足元の砂埃が舞い上がる。


 俺は反射的に一歩下がった。


 目の前にいるのは、これまで戦ってきたゴブリンとは明らかに違う。


 全身を黒い甲殻に覆われた三メートル近い巨体。その頭には一本の角が生え、右手には青白い炎を纏った剣が握られている。


 問題は、その強さが全く分からないことだった。


 普段なら、モンスターを見ればなんとなく動きや危険度を予測できる。


 だが、こいつは違った。


 近くにいるだけで身体が勝手に警告を出している。


 逃げろ。


 戦うな。


 今のお前では勝てない。


 そんな声が聞こえてくるようだった。


「……だったら」


 俺は剣を握り直した。


 逃げる。


 それが一番正しい。


 こんなところで死んだら、美咲を一人にしてしまう。


 分かっている。


 分かっているのに、俺は魔物の手にある剣から目を離せなかった。


 青白い炎。


 刀身を覆う光。


 あれが何なのかは分からない。


 でも、俺の能力が反応している。


 頭の奥で、さっきから警告のような文字が浮かんでは消えている。


『特殊武装を確認』


『解析中』


『武装情報の取得に失敗』


『複製条件――未達成』


「複製……」


 俺は呟いた。


 能力名は『武装精製・複製』。


 これまで俺は、その名前をほとんど気にしていなかった。


 剣やナイフを作れる。


 それだけだと思っていた。


 でも。


 もし、この能力に本当に「複製」という意味があるのなら。


 目の前の剣を複製できる可能性がある。


 ただし。


 その前に、こいつを倒さなければならない。


 魔物が動いた。


「っ!」


 速い。


 巨体からは想像できない速度だった。


 青白い剣が振り下ろされる。


 俺は横へ飛んだ。


 直後、地面が爆発した。


 石畳が砕け、破片が頬を切る。


「うそだろ……!」


 まともに受けたら、一撃で終わる。


 俺は距離を取った。


 剣を構える。


 相手の動きを見る。


 右足が前。


 剣は右手。


 なら、次は――。


 魔物が再び踏み込んできた。


「そこ!」


 俺は左へ移動する。


 剣が頭上を通り過ぎた。


 今だ。


 俺は魔物の懐へ飛び込んだ。


 狙うのは足。


 巨体なら、動きを止めれば戦える。


 剣を振る。


 ガキンッ!


「なっ……」


 弾かれた。


 まるで鉄の壁を斬ったような感触だった。


 魔物の甲殻には、傷一つない。


 俺は慌てて後ろへ飛ぶ。


 その直後、拳が目の前を通り過ぎた。


 風圧だけで身体が吹き飛ばされる。


「ぐっ!」


 壁に背中を打ち付けた。


 息が詰まる。


 痛い。


 身体が動かない。


 それでも、俺は立ち上がった。


「……まだだ」


 剣を見る。


 刀身にヒビが入っている。


 あと少しで消える。


 能力レベル1。


 俺が作れる武器には限界がある。


 普通の剣では、こいつに傷をつけることすらできない。


 なら。


「武装精製!」


 手の中の剣を消す。


 すぐに新しい剣を作った。


 そして、魔物が再び迫ってくる。


 今度は正面からではなく、横へ走った。


 逃げる。


 斬る。


 逃げる。


 斬る。


 何度も繰り返す。


 甲殻を斬れないなら、別の場所を狙う。


 目。


 関節。


 喉。


 足首。


 どこかに弱点があるはずだ。


 魔物が剣を振る。


 俺は避ける。


 拳が来る。


 しゃがむ。


 蹴りが来る。


 後ろへ飛ぶ。


 少しずつ。


 本当に少しずつだが、相手の動きが見えてきた。


「右から来る!」


 魔物の剣が振り下ろされる。


 俺は左へ避けた。


 そして、そのまま腕の内側へ潜り込む。


「ここだ!」


 剣を突き出した。


 今度は違った。


 手応えがあった。


「入った!」


 黒い甲殻の隙間に剣が突き刺さる。


 魔物が初めて苦しそうな声を上げた。


 俺はすぐに距離を取った。


 やっぱり、傷つけられる。


 なら勝てる。


 そう思った。


 次の瞬間。


 魔物の目が赤く光った。


「……え?」


 空気が変わる。


 青白い炎が、剣から一気に噴き出した。


「まずい!」


 直感で叫んだ。


 俺は走った。


 炎が壁を舐める。


 逃げる。


 逃げる。


 それでも炎は追ってくる。


「くそっ!」


 逃げ場がない。


 前は壁。


 右も壁。


 左から炎。


 俺は咄嗟に床へ飛び込んだ。


 轟音が響く。


 熱風が背中を通り過ぎた。


 数秒後。


 俺は恐る恐る顔を上げた。


 目の前の壁が真っ赤に焼けている。


「……あれを食らったら、終わってたな」


 息を整える。


 身体は限界だった。


 剣を作るための魔力も、ほとんど残っていない。


 ここまでか。


 そんな考えが頭をよぎった。


 そのとき。


 魔物の足元に、小さな光が見えた。


 俺がさっき突き刺した場所。


 そこから黒い液体が流れ落ちている。


 傷は残っている。


 俺の攻撃は効いている。


 だったら。


 あと一回。


 あと一回だけ、同じ場所を狙えばいい。


 俺は立ち上がった。


「……やるしかない」


 魔物がこちらを見る。


 俺も剣を構える。


 残り時間は分からない。


 体力も限界。


 魔力もほとんどない。


 それでも。


 俺は走った。


 魔物も走る。


 距離が縮まる。


 剣が振り下ろされる。


 俺は踏み込んだ。


 刃が肩を掠める。


 血が飛ぶ。


 痛い。


 それでも止まらない。


 魔物の腕が迫る。


 俺は身体を捻った。


 そのまま懐へ入る。


「これで……!」


 剣を突き出した。


 さっきと同じ場所。


 甲殻の隙間へ、刃が深く入り込む。


 魔物の動きが止まった。


 俺も止まった。


 数秒。


 何も起こらない。


 そして。


 魔物の身体に亀裂が走った。


 黒い甲殻が崩れていく。


 巨体が膝をついた。


 最後に一度だけ、俺を睨む。


 赤い目の光が消えた。


 その身体が無数の光となって砕け散った。


「……勝った?」


 俺はその場に座り込んだ。


 手が震えている。


 怖かった。


 本当に死ぬと思った。


 それでも。


 俺は生きている。


「……よかった」


 胸を撫で下ろす。


 その瞬間だった。


 頭の中に、聞いたことのない音が響いた。


『討伐条件を達成しました』


「……え?」


『経験値を取得』


『レベルアップします』


 目の前に、青白い文字が浮かび上がる。


『黒瀬悠真』


『レベル1 → レベル2』


「レベル……アップ?」


 思わず声が出た。


 学校では聞いたことがない。


 そもそも、シーカーのレベルというものは確認されていない。


 魔力適性。


 固有能力。


 技能。


 それらは数値化されている。


 だが、人間そのものがレベルアップするなど聞いたことがなかった。


 なのに。


 目の前には、確かに表示されている。


『固有能力:武装精製・複製』


『能力レベル:2』


『新たな能力を獲得しました』


 俺は息を呑んだ。


 そして、次に表示された文字を見て目を疑った。


『能力:特殊武装複製』


『解析した武装を一時的に複製できます』


「……複製?」


 俺は魔物が消えた場所を見る。


 そこには、一本の剣が落ちていた。


 青白い炎を纏った、あの剣。


 俺は恐る恐る手を伸ばした。


 触れた瞬間。


『特殊武装を確認』


『武装名:フレアブレイド』


『属性:炎』


『特殊効果:魔力を炎へ変換』


『複製可能』


 俺の心臓が大きく跳ねた。


「これを……作れる?」


 右手を前に出す。


 頭の中で、さっきの剣を思い浮かべる。


「武装精製・複製」


 光が集まる。


 普通の剣ではない。


 青白い炎が渦を巻き、一本の剣が形作られていく。


 俺はそれを握った。


 熱くない。


 むしろ、不思議なくらい手に馴染む。


「……すごい」


 俺は剣を振った。


 青白い炎が軌跡を描く。


 さっきまでの俺には、絶対に作れなかった武器。


 それが今、俺の手の中にある。


 だが。


 その直後。


『警告』


『特殊武装の維持には高い魔力を必要とします』


『現在の魔力では、維持可能時間は――』


 表示された数字を見て、俺は固まった。


『約三十秒』


「……短っ」


 思わず呟く。


 せっかく強い武器を手に入れたのに、三十秒しか使えない。


 俺は思わず笑ってしまった。


「まあ……俺らしいか」


 それでも。


 最初の剣とは全然違う。


 これなら戦える。


 そう思った瞬間。


 ダンジョンの奥から、再び地響きが聞こえた。


 俺は笑顔を消した。


「……まだ何かいるのか?」


 暗闇の先。


 さっきの魔物がいた場所のさらに奥に、一つの階段が現れていた。


 その先から、冷たい風が吹いてくる。


 普通のダンジョンに、こんな階段はない。


 俺はスマートフォンを取り出した。


 圏外。


 当然だ。


 それでも学校の管理システムには、このダンジョンの構造が登録されている。


 第一層。


 第二層。


 第三層。


 ここは初心者向けダンジョン。


 本来なら、地下三階までしか存在しない。


 なのに。


 目の前には、地下へ続く階段がある。


「……行くなってことだよな」


 頭では分かっている。


 ここまででも十分危険だった。


 今すぐ戻って、先生に報告するべきだ。


 だけど。


 俺は階段を見つめた。


 この先に何がある?


 どうして俺の能力は、あの剣に反応した?


 どうして、存在しないはずの場所が現れた?


 そして。


 なぜ俺が、この場所に入れた?


 疑問が次々と浮かぶ。


 俺はしばらく迷った。


 そして。


「……少しだけ」


 階段を一段下りた。


 その瞬間。


 背後で扉が閉じた。


「……え?」


 振り返る。


 さっきまであった入口が消えている。


 完全な暗闇。


 俺は剣を握った。


 青白い炎が周囲を照らす。


 階段の先に、巨大な文字が浮かび上がった。


『第零階層』


 その下に、さらに一文。


『適合者のみ、入場を許可する』


「適合者……」


 俺は息を呑んだ。


 そして、このとき初めて気づいた。


 俺が手にしているフレアブレイドの刀身に、見覚えのない紋章が浮かんでいる。


 その紋章は。


 俺の固有能力が発現したとき、水晶の中に一瞬だけ浮かんだものと同じだった。

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