Chapter 0.4 — The Beginning of Us
――二人が初めて出会ったのは、冒険者になるずっと前だった。
まだ二人が小学生だった頃。
放課後の校庭で、一人の少年が木の枝を振り回していた。
「くらえ!」
「……何してるの?」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返ると、一人の少女が立っていた。
「剣の練習!」
「それ、木の枝じゃん」
「気持ちの問題だよ」
「変なの」
「お前、さっきからそれしか言ってないだろ」
少女は少し笑った。
「だって変だから」
「じゃあ、名前教えてくれよ」
「なんで?」
「いつか俺、冒険者になるから」
「冒険者?」
「ああ。ダンジョンに行って、誰も見たことのない場所を見つけるんだ」
「危ないよ」
「知ってる」
「死ぬかもしれない」
蓮司は少し黙った。
それでも、木の枝を握る手は離さなかった。
「……でも、見てみたいんだ」
「何を?」
「誰も知らない景色」
少女は蓮司をじっと見つめた。
「……変なの」
「またそれかよ」
それが、二人の最初の出会いだった。
*
それから二人は、学校で時々話すようになった。
蓮司がダンジョンのニュースを見つければ玲奈に話し、玲奈が図書室でダンジョンについて調べていれば、蓮司が隣から覗き込む。
「また調べてるのか?」
「うん」
「そんなにダンジョンが気になる?」
「気になる」
玲奈は本のページをめくる。
「二十年前まで存在しなかったものが、突然現れたんだよ」
「どうして現れたのか、誰も知らないんだよな」
「だから知りたいの」
「じゃあ俺が見てくるよ」
「何を?」
「ダンジョンの中」
蓮司は笑った。
「俺が見て、玲奈が調べればいい」
玲奈は少し考えた。
「……それなら効率はいいかもね」
「だろ?」
二人は笑った。
子供同士の、何気ない約束だった。
*
しかし、中学生になると二人は別々の学校へ進んだ。
会う機会は減り、いつの間にか連絡を取ることもなくなっていった。
それでも、二人の夢は変わらなかった。
蓮司は剣術を習い、冒険者になるために身体を鍛えた。
ダンジョンの映像を見るたび、あの日に見た「誰も知らない景色」への憧れが強くなった。
玲奈もダンジョンについて調べ続けた。
魔力石について。
魔力について。
そして、二十年前に突然現れたダンジョンについて。
調べても、分からないことばかりだった。
だからこそ、自分の目で確かめたい。
二人は離れた場所で、それぞれの夢を追い続けていた。
*
高校進学を控えたある日。
蓮司は進学先を決めた。
冒険者育成に力を入れている学校。
ダンジョン実習の設備も整っている。
ここなら、自分の夢に近づける。
それだけが理由だった。
一方の玲奈も、同じ学校の資料を見ていた。
ダンジョンについて学べる環境。
魔力や魔力石について研究している設備。
玲奈にとっても、そこが一番の選択肢だった。
そして入学式の日。
「……玲奈?」
「……蓮司?」
三年ぶりの再会だった。
二人とも、しばらく何も言わなかった。
「久しぶり」
「本当にね」
「まさか同じ学校になるとはな」
「私も驚いてる」
蓮司は昔と変わらない笑顔を見せた。
「覚えてるか?」
「何を?」
「昔の約束」
玲奈は少し考える。
「……一緒にダンジョンへ行くって話?」
「ああ」
「覚えてるわよ」
蓮司は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、今度こそ一緒に行こう」
「ええ」
その返事は、昔よりずっと自然だった。
*
高校生活が始まると、二人はすぐに一緒にいる時間が増えた。
放課後に訓練をして、ダンジョンについて話し、休日には街へ装備を見に行く。
昔はただの約束だったものが、少しずつ現実になっていった。
そんな中、二人は一つの問題に気づいた。
「……通学、結構きついな」
蓮司が学校帰りに呟く。
「そうね」
「朝も早いし、放課後の訓練が終わると帰る頃には遅くなる」
「ダンジョン実習が始まったら、もっと大変になるでしょうね」
二人の家は学校から離れていた。
冒険者を目指すなら、訓練や実習に集中できる環境が必要だった。
「学校の近くに住めたら楽なんだけどな」
「私も、それは考えてた」
「じゃあ――」
蓮司は少し考える。
「一緒に住む?」
玲奈が足を止めた。
「……え?」
「いや、ほら。二人なら家賃も半分にできるし」
「そういう問題?」
「もちろん」
蓮司は少し慌てて付け加える。
「俺たち、ずっと一緒に訓練してるし。生活時間もほとんど同じだろ?」
玲奈は黙って考える。
確かに、学校も同じ。
目指しているものも同じ。
訓練する時間も、これから増えていく。
一人暮らしをするより、二人で生活した方が都合がいい。
「……家族にはちゃんと話すのよ」
「もちろん」
「それから、学校にも相談する」
「ああ」
玲奈は少しだけ笑った。
「なら、いいんじゃない?」
「本当か?」
「ええ」
「よし!」
蓮司が拳を握る。
「じゃあ、探そうぜ。学校の近くの部屋!」
「気が早い」
「決まったんだから早い方がいいだろ」
「そういうところ、昔から変わらないわね」
「玲奈もな」
「私は変わったわよ」
「どこが?」
「……少しは素直になった」
蓮司は一瞬だけ黙った。
「……確かに」
二人は顔を見合わせる。
そして、笑った。
こうして二人は、同じ夢を追うために――
同じ場所で暮らすことを決めた。




