第28話 その一振り
轟音が響いた。
目の前が白く染まる。
俺は咄嗟に木刀を身体の前に構えた。
次の瞬間、衝撃が全身を襲った。
「ぐっ……!」
身体が後ろへ吹き飛ばされる。
足が地面を擦り、なんとか倒れるのをこらえた。
煙の向こうから、榊原の声が聞こえる。
「大丈夫か、黒瀬!」
「ああ……!」
煙が晴れていく。
フィールドの床には大きな亀裂が入っていた。
俺の木刀にも、少しだけ傷がついている。
「今の、まともに受けたら危なかったな」
「だから避けてほしかったんだけど」
榊原が苦笑する。
「まあ、黒瀬なら大丈夫だと思った」
「信用されてるのか、心配されてるのか分からないな」
「両方」
榊原が笑った。
その直後だった。
魔法陣が浮かぶ。
「次」
魔導銃が三丁。
一斉に魔弾が飛んでくる。
俺は走った。
右。
左。
さらに一歩前へ。
魔弾が足元を撃ち抜く。
「速い……!」
榊原の銃が消える。
代わりに魔導剣が現れた。
「近距離なら、こっち!」
斬撃が飛んでくる。
木刀で受ける。
重い。
けれど、今度は押し負けない。
身体を沈めて攻撃をかわし、木刀を振る。
榊原が後ろへ跳んだ。
「やっぱり近づかれると厄介だな」
「だったら――!」
俺は追いかける。
もう一度、木刀を振る。
しかし、榊原の姿が一瞬で消えた。
「……!」
いや、消えたわけじゃない。
魔法陣の中へ武器を戻しただけだ。
次の瞬間、俺の横に魔導銃が現れる。
「そこ!」
魔弾。
俺は木刀で受け流す。
そのまま銃を狙って踏み込む。
だが、銃は消えた。
「またか!」
「そういう能力だからな!」
今度は反対側。
別の魔導銃。
さらにその後ろに、魔導剣。
武器が次々と現れては消えていく。
攻撃するたびに形が変わる。
近づけば剣。
離れれば銃。
防げば別の武器。
逃げれば追撃。
「……これが五十位か」
俺は思わず呟いた。
五十位という数字だけを見ていた。
でも違う。
榊原迅は、ただ順位が高いだけじゃない。
自分の能力を理解して、その能力を最大限に使っている。
「黒瀬!」
声が飛んでくる。
「まだ終わってないぞ!」
「分かってる!」
俺は再び走った。
魔弾を避ける。
魔導剣を受ける。
盾を叩く。
距離を取る。
また銃。
何度も何度も、武器が変わる。
そのたびに対応しなければならない。
正直、きつい。
だけど――
不思議と楽しかった。
自分とは全く違う戦い方。
今まで戦った誰とも違う。
だからこそ、もっと知りたい。
榊原が次に何を出してくるのか。
そして、それに自分がどう対応できるのか。
「……はは」
俺は思わず笑った。
「何笑ってるんだ?」
「いや……楽しくなってきた」
「奇遇だな」
榊原も笑った。
「俺もだよ」
その瞬間、榊原の周囲に大量の魔法陣が浮かんだ。
「まだ出せるのかよ……!」
「まだまだ!」
魔導銃が並ぶ。
その数は、今までとは比べ物にならない。
五つ。
六つ。
さらに増える。
俺は木刀を構えた。
腕は重い。
呼吸も乱れている。
それでも、木刀だけは手放さなかった。
一本。
俺が今、選んだ武器。
これでどこまでやれるのか。
「行くぞ、黒瀬!」
「来い、榊原!」
無数の魔弾が飛んでくる。
俺は木刀を握り締め、真正面から踏み込んだ。
そして――
その瞬間、木刀の感触が少しだけ変わった。
「……?」
一瞬だけ。
何かが頭の中をよぎった。
見たことのない動き。
誰かが剣を振っている。
ほんの一瞬の映像。
俺は意味が分からないまま、身体を動かした。
魔弾が頬をかすめる。
そして、俺の木刀が榊原の魔導銃を弾き飛ばした。
「なっ……!」
榊原が驚く。
俺自身も驚いていた。
今の動きは――
自分で考えたものじゃない。
「……なんだ、今の」
手の中の木刀を見る。
答えは、まだ分からない。
ただ一つだけ。
戦いは、まだ終わっていなかった。




