第26話 決戦前夜
放課後。
いつもの訓練場で、俺は木刀を振っていた。
何度目か分からない素振りを終え、木刀を下ろす。
「……明日か」
ランキング戦。
相手は五十位――榊原迅。
ここまで来ると、さすがに今までの相手とは違う。
俺がそう考えていると、訓練場の入口から声が聞こえた。
「やっぱりここにいたか」
「……榊原?」
振り返ると、榊原が手をポケットに入れたまま立っていた。
「明日戦う相手がこんなところで練習してるからさ。ちょっと見に来た」
「わざわざ?」
「まあ、暇だったし」
そう言って榊原は笑った。
明日戦う相手とは思えないくらい、いつも通りだった。
「それ、最近ずっと使ってるよな」
榊原が俺の木刀を見る。
「ああ。鳴海先輩にもらったんだ」
「へえ。黒瀬って前は武器を結構変えてたよな」
「……そうだな」
フレアブレイド。
ブーストソード。
グロウソード。
状況に合わせて武器を作り、壊れればまた作る。
少し前までの俺は、それが一番効率のいい戦い方だと思っていた。
「俺は今でも、それが強いと思ってるけどな」
「榊原はそういう戦い方なんだよな」
「うん。俺の能力もそういう使い方に向いてるし」
榊原が右手を軽く上げる。
その瞬間、何もなかった空間に一丁の魔導銃が現れた。
魔力で作られた銃。
榊原の能力――『魔導展開』。
「必要なら銃。近づかれたら剣。距離が離れたらもっと大きい武器。相手に合わせて変えればいい」
銃が消える。
「武器にこだわる必要なんてないだろ?」
「……確かに」
俺は木刀を見下ろした。
その考え方は間違っていない。
むしろ合理的だ。
「でも、俺は最近ちょっと考えが変わった」
「鳴海先輩の影響?」
「たぶん」
鳴海先輩との戦いを思い出す。
轟鉄を振る姿。
何度壊れても修理して使い続ける、あの大剣。
「一本の武器を使い続けるからこそ、見えるものもあるんだと思う」
「なるほどな」
榊原は少しだけ考えるように黙った。
そして、俺の木刀を見ながら言った。
「じゃあ、黒瀬は武器を信じるようになったってこと?」
「……そうかもしれない」
「俺は逆だな」
「逆?」
「俺は武器を信じてない」
榊原はあっさりと言った。
「剣が駄目なら銃を使う。銃が駄目なら別の武器を出す。壊れたなら次を出せばいい。武器に自分を合わせるんじゃなくて、自分の戦い方に武器を合わせる」
その言葉には迷いがなかった。
「それが俺の戦い方だから」
「……それで五十位まで来たんだよな」
「ああ」
榊原は笑う。
「だから、たぶん俺のやり方も間違ってない」
「うん」
俺も頷いた。
「俺のやり方も、たぶん間違ってない」
「だな」
二人の間に、少しだけ沈黙が流れた。
不思議と嫌な感じはしなかった。
考え方は違う。
戦い方も違う。
でも、どちらが正しいのかを決める必要はないのかもしれない。
「じゃあ明日は」
榊原が口を開く。
「お互い、自分のやり方で戦おうぜ」
「……ああ」
俺は木刀を握り直した。
「楽しみにしてる」
「俺も」
榊原は入口へ向かって歩き出した。
そして、ふと思い出したように振り返る。
「そういえば黒瀬」
「ん?」
「明日、本当にその木刀で来るの?」
「そのつもりだけど」
「じゃあ最初は俺も剣で相手してやるよ」
「……途中で銃に変えるだろ?」
「もちろん」
「それ、最初から意味あるのか?」
「あるある。雰囲気って大事だから」
「なんだそれ」
思わず笑ってしまった。
榊原も笑っている。
明日になれば、俺たちは敵同士になる。
勝つために戦う。
それでも――今は、この距離感でいい気がした。
俺は木刀を肩に担ぐ。
「じゃあな、榊原」
「ああ。また明日」
榊原が去っていく。
静かになった訓練場で、俺はもう一度だけ木刀を握った。
一本で戦う。
武器を使い分ける。
どちらが正しいのかは、まだ分からない。
だからこそ。
明日の戦いで、自分の答えを確かめてみようと思った。




