第25話「51位」
ランキング戦。
今日の相手は――51位。
ここまで来ると、今まで戦ってきた相手とは明らかに違う。
順位だけじゃない。
戦績も、実力も。
俺が今まで戦ってきた相手より一段上だ。
公式戦闘フィールド。
向かい側に立っているのは、一人の男子生徒。
「黒瀬悠真」
男は俺を見る。
「俺は五十嵐修司。51位だ」
「よろしくお願いします」
「適性Eで、ここまで上がってきたんだってな」
「……はい」
「正直、興味がある」
五十嵐先輩の右手には一本の長剣が握られていた。
普通の剣に見える。
でも――。
嫌な感じがする。
「その剣……能力ですか?」
「違う」
五十嵐先輩が剣を軽く振る。
風を切る音が響く。
「俺の能力は――『剣気』だ」
『能力使用を確認』
フィールドの表示が切り替わる。
『剣気』
剣を握る五十嵐先輩の周囲から、鋭い魔力が漏れ出した。
「……」
俺は剣を構える。
『試合開始』
瞬間。
五十嵐先輩が踏み込んだ。
速い。
剣が迫る。
俺は受けた。
「――っ!」
重い。
ただの剣じゃない。
剣そのものに魔力が乗っている。
押し返される。
俺は横へ逃げた。
追撃。
また剣。
受ける。
弾く。
避ける。
それでも押される。
「どうした?」
五十嵐先輩が笑う。
「武器を作るんじゃないのか?」
俺は距離を取った。
「……まだです」
「そうか」
五十嵐先輩が構える。
次の瞬間。
剣が振られた。
斬撃が飛んでくる。
「――!」
俺は横へ跳んだ。
床が斬り裂かれる。
結界が衝撃を受けて揺れる。
「これも避けるか」
五十嵐先輩が追ってくる。
剣。
剣。
剣。
連続攻撃。
俺は防ぐ。
でも、腕が痺れてくる。
このままじゃ持たない。
俺は魔力を集中した。
「武装精製」
フレアブレイド。
炎を纏った剣が現れる。
俺も踏み込んだ。
剣と剣がぶつかる。
炎が散る。
五十嵐先輩が押し込んでくる。
俺は耐える。
「重い……!」
「これが51位だ」
剣を弾かれた。
「――っ!」
体勢が崩れる。
そこへ斬撃。
俺は身体を捻った。
刃が制服を掠める。
危なかった。
俺は距離を取る。
息が荒い。
「まだやるか?」
「ああ」
俺は答えた。
「ここまで来たからには」
50位まで、あと一つ。
絶対に負けられない。
俺は剣を見る。
フレアブレイド。
炎が揺れている。
これまで何度も使ってきた。
でも――。
ただ振っているだけじゃ勝てない。
俺は昨日までの戦いを思い出す。
高橋先輩。
槍使い。
身体強化。
いろんな相手と戦った。
相手を見る。
動きを読む。
武器を使う。
それを繰り返してきた。
「……」
五十嵐先輩が構える。
剣先がわずかに下がった。
俺は見る。
足。
肩。
手首。
そして――。
剣。
来る。
俺は一歩横へ。
斬撃が通り過ぎる。
その瞬間。
踏み込む。
剣を振る。
五十嵐先輩が受ける。
俺は力比べをしない。
剣を滑らせる。
相手の剣を外へ流す。
そして懐へ入る。
「――!」
柄を叩き込む。
五十嵐先輩がよろめく。
追撃。
剣を返す。
峰を当てる。
五十嵐先輩が後ろへ下がった。
「……やるな」
「まだ終わってません」
「そうだな」
五十嵐先輩が剣を構え直す。
魔力がさらに膨れ上がった。
「なら、これで終わらせる」
剣気が一気に高まる。
空気が震えた。
「……!」
まともに受けたら終わる。
俺は剣を握る。
変えるか?
もっと強い武器を作るか?
そう考えた瞬間――。
頭の中に、鳴海先輩の言葉が浮かんだ。
『俺は、この剣しか信じてない』
俺はフレアブレイドを見る。
「……これでいい」
五十嵐先輩が走る。
俺も走る。
剣が迫る。
俺は正面から受けない。
半歩ずれる。
剣が横を通り過ぎる。
その瞬間を狙う。
踏み込む。
剣を振る。
五十嵐先輩も剣を返す。
互いの刃が交差する。
炎が弾けた。
俺の剣が、五十嵐先輩の肩を捉える。
同時に――。
五十嵐先輩の剣が俺の脇腹を掠めた。
「――っ!」
痛い。
でも、立っている。
五十嵐先輩が膝をつく。
『戦闘不能を確認』
『勝者――黒瀬悠真』
静寂。
その後、観客席から拍手が起こった。
俺は息を切らしながら、剣を消した。
「……勝った」
これまでとは違う。
強敵だった。
それでも、最後まで武器を変えなかった。
自分の剣で勝った。
◇
試合が終わる。
ランキングが更新された。
『51位 黒瀬悠真』
「……51位」
あと一つ。
目の前だ。
「黒瀬!」
観客席から天音が駆け寄ってくる。
「おめでとう!」
「ああ……ありがとう」
「最後、すごかった」
「そうか?」
「うん」
天音は俺の脇腹を見る。
「怪我、大丈夫?」
「これくらいなら平気」
「無理しないでね」
「ああ」
天音がランキング表を見る。
「次は……」
その先を見て、少し黙る。
俺も見る。
『50位 榊原迅』
「……」
ついに来た。
あと一勝。
俺が目標にしていた50位。
そして、その場所にいる男。
「榊原か」
「うん」
そのときだった。
「黒瀬」
聞き慣れた声。
振り返る。
榊原が立っていた。
「おめでとう」
「ああ」
「51位まで来たんだな」
「次はお前だ」
俺が言う。
榊原は少し驚いた顔をして、それから笑った。
「そうなるね」
「覚悟しとけよ」
「うん」
榊原はいつもの調子だった。
緊張しているようにも見えない。
怖がっているようにも見えない。
ただ――。
「楽しみにしてる」
その一言だけが、妙に耳に残った。
榊原はそのまま去っていった。
俺はその背中を見る。
50位。
ここまで来た。
あと一勝。
それだけなのに。
なぜか、今までのランキング戦とは違う気がした。
「黒瀬」
天音が隣に立つ。
「頑張ろうね」
「ああ」
俺は拳を握る。
次は――50位。
そして。
榊原迅。




