第23話「ランキング戦」
月曜日。
教室に入ると、いつもより少しだけ視線を感じた。
「……何だ?」
周囲を見る。
特に変わった様子はない。
気のせいかと思いながら、自分の席へ向かう。
「黒瀬、おはよう」
「おはよう、天音」
席に座ると、天音がこちらを見た。
「昨日のこと、筋肉痛になってない?」
「少しだけ」
「やっぱり」
「天音は?」
「私は大丈夫」
「……そういうところだよな」
「何が?」
「いや、何でもない」
昨日の模擬戦を思い出す。
天音は強かった。
単純な魔力量だけじゃない。
必要な場所に、必要な分だけ魔力を使う。
その精度が異常に高かった。
俺とは正反対だ。
俺は魔力を使って武器を作る。
武器を変えることで戦い方を変えてきた。
でも、昨日は一つの武器で最後まで戦った。
結果は負け。
それでも、以前とは少し違う感覚があった。
「黒瀬」
「ん?」
「次、ランキング戦に出るの?」
「……まだ決めてない」
そう答えたところで、教室の前のモニターにランキング表が表示された。
何人かの生徒が集まっている。
「また更新されたのか?」
「違う。今日からランキング戦の受付が始まるらしい」
「ランキング戦?」
俺は立ち上がった。
モニターを見る。
『今週の公式ランキング戦受付を開始します』
その下には、参加条件や申請方法が表示されていた。
ランキング戦。
学園内の生徒同士で行われる公式試合。
勝てば必ず順位が上がるわけではない。
相手との順位差や戦績などを考慮して、最終的なランキングが決まる。
つまり――。
上を目指すなら、避けては通れない。
「……これだ」
俺は呟いた。
「出るの?」
天音が聞く。
「ああ」
「今週?」
「今週」
昨日、負けたばかりだ。
それでも、止まっている時間はない。
50位。
そこまで行くと決めた。
「じゃあ、対戦相手を決めないとね」
天音がモニターを操作する。
「現在の82位からだと……」
候補者が表示される。
近い順位の生徒が何人か並ぶ。
70位。
76位。
89位。
その中でも、一番上に表示されている名前があった。
『74位 高橋蓮』
「この人は?」
「知らない?」
「名前は聞いたことある」
天音が説明する。
「近接型の能力者。能力は身体強化だったと思う」
「身体強化か」
俺は画面を見る。
「じゃあ、この人にする」
「決めるの早いね」
「迷っても仕方ないからな」
申請ボタンを押す。
『対戦申請を受け付けました』
数秒後。
『対戦相手が承認しました』
画面が切り替わる。
『ランキング戦を正式に受理しました』
「決まったな」
俺は拳を握った。
82位から74位。
たった8つ。
それでも――ここからが本当のランキング戦だ。
◇
放課後。
俺は屋外訓練場にいた。
木刀を握る。
最近の日課になっている。
一度構える。
踏み込む。
振る。
戻す。
また振る。
以前とは違う。
武器を作るだけなら、もっと簡単だった。
新しい武器を作ればいい。
足りなければ変える。
壊れれば作り直す。
でも、それだけでは駄目だ。
鳴海先輩との戦いで、それを思い知らされた。
俺は木刀を振る。
「……もっと速く」
振る。
もう一度。
汗が落ちる。
腕が重くなる。
それでも続ける。
「黒瀬」
声が聞こえた。
振り返る。
「天音か」
「うん」
天音がこちらへ歩いてくる。
「ランキング戦、決まったんだって?」
「ああ。74位の人と」
「そうなんだ」
「勝てると思うか?」
「うん」
即答だった。
「黒瀬なら勝てると思う」
「理由は?」
「昨日、一緒に戦ったから」
「それだけ?」
「それだけで十分じゃない?」
天音が笑う。
「黒瀬は、戦いながら変わるから」
「……」
「最初に戦ったときより、最後の方がずっと強かった」
俺は木刀を見る。
「じゃあ、もっと変わらないとな」
「うん」
天音が頷く。
「でも、無理はしないでね」
「分かってる」
「本当に?」
「……たぶん」
「たぶんなんだ」
二人で笑った。
そのとき、訓練場の入口から別の声が聞こえた。
「黒瀬」
振り返る。
榊原だった。
「榊原?」
「やっぱりここにいたか」
榊原はいつものように、特に緊張した様子もなく歩いてくる。
「ランキング戦、出るんだって?」
「ああ」
「74位の高橋だろ?」
「知ってるのか?」
「まあ、一応」
榊原は肩をすくめる。
「ランキング見てるから」
「そうなのか」
「俺もランキング戦あるし」
「そうなのか?」
「うん」
榊原は何でもないことのように答えた。
「今週、何人か申請してきてるから」
「……大変だな」
「まあね」
それだけ言って、榊原は笑った。
「じゃあ、頑張って」
「ああ」
「黒瀬なら大丈夫だと思うよ」
榊原はそのまま訓練場を出ていった。
「……変な奴だな」
「そう?」
「なんか掴めない」
天音が少し考える。
「でも、いい人だよね」
「まあ、それはそうだな」
俺はもう一度木刀を構える。
「まずは74位」
そして、その先に――50位。
そこには榊原がいる。
昨日までは、ただの数字だった。
今は違う。
50位という場所に、知っている人間がいる。
だからこそ、余計に負けたくない。
「絶対に行く」
木刀を振る。
一度。
二度。
三度。
その音だけが、夕方の訓練場に響いていた。
◇
夜。
家に帰ると、美咲がテレビを見ていた。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま」
「今日も練習?」
「ああ」
「疲れた?」
「まあな」
俺は椅子に座る。
すると美咲がこちらを見る。
「そういえば、天音さんから連絡きたよ」
「……もう?」
「うん」
スマホを見せてもらう。
そこには天音からのメッセージが表示されていた。
『昨日はありがとう。また模擬戦しようね』
その下に、美咲が返信している。
『こちらこそ! 今度はお弁当持っていきます!』
「……仲良くなるの早くないか?」
「いいじゃん」
「まあ、いいけど」
美咲が笑う。
「天音さん、お兄ちゃんのこと応援してるって」
「そうなのか?」
「うん。ランキング戦、頑張ってって」
俺は少しだけ笑った。
「……じゃあ、負けられないな」
「頑張って、お兄ちゃん」
「ああ」
スマホの画面を閉じる。
74位とのランキング戦。
まずはここからだ。
50位まで、あと24人。
俺はまだ82位。
だけど――。
もう、目標は決まっている。
50位。
そこに立つ。
そして、その先へ。
そのために、俺は明日も剣を振る。




