第21話 「50位」
翌日の昼休み。
購買から戻る途中、廊下の角で誰かと肩がぶつかった。
「おっと」
「すみません」
「いや、こっちこそ」
顔を上げる。
同じ制服を着た男子生徒だった。
「黒瀬悠真?」
「……俺を知ってるのか?」
「最近、ランキングで名前見るから」
「ああ……」
最近は、こういうことにも少し慣れてきた。
「俺、榊原。榊原迅」
「黒瀬悠真」
「よろしく」
「ああ、よろしく」
榊原が俺の手元を見る。
「それ、焼きそばパン?」
「ああ」
「うまい?」
「普通にうまいぞ」
「じゃあ俺も買おうかな」
「まだあると思う」
「ほんと?」
榊原が購買の方を見る。
「……行ってくる」
「今から?」
「昼休み終わる前に」
「そこまで急がなくても」
「いや、こういうのは早い者勝ちだから」
「大げさだな」
「大事だろ、昼飯」
「まあ、それはそうだけど」
榊原が笑う。
「じゃ、また」
「ああ」
それだけの短い会話だった。
けれど、妙に話しやすい奴だった。
◇
その日の夜。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま」
家に帰ると、美咲がリビングから顔を出した。
「今日も遅かったね」
「学校でちょっと話してた」
「誰と?」
「榊原ってやつ」
「友達?」
「今日初めて話したから、まだそこまでは」
「ふーん」
美咲は少し笑った。
「じゃあ、これからだね」
「まあな」
鞄を置き、席につく。
夕食を食べていると、ふとランキングのことが頭に浮かんだ。
「……美咲」
「ん?」
「俺、次の目標決めた」
「ランキング?」
「ああ」
「今、何位だっけ?」
「82位」
「結構上がったよね」
「でも、まだ上がある」
鳴海先輩には負けた。
神崎にも負けた。
だからこそ、次は自分から目標を決めたかった。
「50位を目指す」
「50位?」
「ああ」
「じゃあ、50位になったらお祝いしようよ」
「まだ先だぞ」
「いいじゃん」
「……分かったよ」
「約束だからね」
「ああ」
美咲が満足そうに笑った。
こういう何気ない時間が、最近は少し心地よかった。
◇
翌朝。
俺は教室へ向かう前に、ランキング表の前で足を止めた。
まず自分の名前を探す。
82位 黒瀬悠真
変わっていない。
当然だ。
目標を決めただけで、順位が上がるわけじゃない。
俺はそのまま上へ視線を動かした。
70位。
60位。
55位。
そして――。
50位 榊原 迅
「…………」
見間違いかと思った。
もう一度見る。
間違いない。
「榊原……?」
昨日、廊下で話した。
焼きそばパンを買いに行った。
それだけの相手だった。
その名前が、50位にある。
俺はしばらくランキング表を見つめていた。
「おはよう、黒瀬」
後ろから声がした。
振り返る。
「……おはよう」
榊原だった。
「どうした?」
「いや……」
ランキング表を見る。
それから榊原を見る。
「お前、50位だったんだな」
「そうみたい」
「そうみたいって……」
「普段あんまり見ないんだよ」
「自分の順位なのに?」
「気にしても上がるわけじゃないし」
「それはそうだけど……」
榊原は特に気にした様子もなく、教室へ向かう。
「じゃ、また後で」
「ああ」
俺はランキング表へ視線を戻した。
50位。
昨日、美咲に言った。
ここを目指すと。
そして今、その場所にいるのが――榊原迅だった。
「……なるほどな」
昨日まで知らなかった。
でも、それで目標を変えるつもりはない。
「50位まで行く」
美咲との約束。
そして、自分で決めた目標。
俺はもう一度、50位の名前を見た。
今度は、はっきりと。
「絶対に追いつく」
そう呟いて、教室へ向かった。




