第20話「魔力適性」
神崎との模擬戦から数日。
放課後の訓練場で、俺は木剣を振っていた。
「……二十七」
振り下ろした木剣を止め、息を整える。
鳴海先輩から渡された木剣。
魔力で作った武器とは違い、壊れても消えない。
だからこそ、一本を使い続ける感覚を身につけるにはちょうどよかった。
「……あと十回」
構え直したところで、扉が開く。
「黒瀬、まだいたんだ」
「白石か」
天音が入ってきて、壁際の机からノートを取る。
「忘れ物?」
「うん。……っていうか、最近いつ来てもいるね」
「そうか?」
「そうだよ」
天音はノートを鞄に入れながら、木剣を見る。
「それ、ずっと使ってるんだ」
「ああ。鳴海先輩に勧められた」
「なるほど。最近の黒瀬、ちょっと鳴海先輩っぽい」
「俺が?」
「一本の剣を振り続けてるところ」
「……それは困るな」
「なんで?」
「俺まで『この剣しか信じない』とか言い出したらどうする」
「ふふっ」
天音が小さく笑った。
「それはそれで面白そうだけど」
「面白がるなよ」
天音が笑いを収める。
そのまま帰るかと思ったけれど、俺の顔を見て首を傾げた。
「何か考えてた?」
「分かるのか?」
「顔に出てた」
「そんなに?」
「うん」
少し恥ずかしい。
「……魔力適性について考えてた」
「珍しいね」
「俺だって考えることくらいある」
「知ってるよ。ちょっと意外だっただけ」
天音がベンチに腰を下ろす。
「それで?」
「魔力適性って、結局なんなんだ?」
「魔力をどれだけ上手く扱えるか、かな」
「魔力量とは別?」
「うん。そこは別だよ」
天音は指を一本立てた。
「魔力が多くても、上手く扱えなければ効率は悪い。逆に、少ない魔力を無駄なく使える人もいる」
「じゃあ、適性が高いからって強いわけじゃない?」
「それだけで決まるなら、ランキングなんてもっと単純でしょ」
「確かに」
「戦い方とか、経験とか、能力との相性もあるからね」
俺は頷いた。
「火や雷みたいに、得意な魔法も人それぞれなんだよな?」
「そう。身体強化が得意な人もいるし、補助が得意な人もいる」
「じゃあ、白石は?」
「私?」
「適性」
「A」
「……A?」
「そんなに驚く?」
「いや、だってAだろ」
「黒瀬だって、最近まで自分のEを気にしてたじゃん」
「それとこれは別だろ」
「同じ適性の話だよ」
天音が少し笑う。
「まあ、Aだからって私がランキング上位ってわけじゃないけどね」
「それは知ってる」
「即答なんだ」
「毎日見てるからな」
「……そっか」
天音が少しだけ嬉しそうに笑った。
「じゃあ、覚えておいて」
「何を?」
「私、Aだから」
「分かった」
「忘れたら怒るよ」
「そんな大事なことなのか?」
「私にとってはね」
「……了解」
なんとなく、妙な約束をした気分になった。
「で、能力は?」
「魔力操作」
「前に聞いたことあったっけ?」
「たぶん、ちゃんとは話してない」
天音が右手を上げる。
指先に淡い光が生まれた。
光は指から手のひらへ移動し、細い糸のように伸びていく。
「自分の魔力を細かく動かしたり、形を変えたりできるの」
「器用だな」
「得意なのは細かい操作。逆に、大量の魔力を一気に出すのは苦手」
「だからランキングでは……」
「そう。派手な攻撃ができる能力じゃないから」
光が消える。
「でも、一人で戦えないわけじゃないよ」
「そこは気になってた」
「使い方次第」
天音はそう言って、少し考える。
「例えば、魔力を一箇所に集めれば、瞬間的に強くすることもできる」
「一箇所に?」
「うん。ただ、今はまだ練習中」
「へえ」
「だから、まだ内緒」
「なんだそれ」
「そのうち見せるから」
天音が笑った。
「期待しないで待ってて」
「それ、期待していいってことじゃないか?」
「……そうかも」
天音は少し照れたように視線を逸らした。
俺はそれ以上聞かなかった。
代わりに、自分の手を見る。
「俺の場合はどうなんだろうな」
「武器を作れること?」
「ああ」
俺は右手を前に出す。
「普通の魔法は苦手なのに、武器なら作れる。だったら、これも俺の得意な魔力の使い方なのかなって」
「私はそう思うよ」
「……白石が言うなら、そうなのかもな」
「なにそれ」
「魔力のこと、俺より詳しそうだから」
「Aを信用してくれた?」
「そういうことにしておく」
「ふふ」
天音が笑う。
俺も少しだけ笑って、魔力を集めた。
「武装精製」
淡い光が集まり、一本の剣へ変わる。
いつもなら、作って終わり。
今日は違う。
剣の形だけじゃなく、身体から流れ出る魔力を意識する。
「……」
魔力が剣へ流れていく。
ほんの少しだけ、いつもと違う感覚があった。
「どう?」
「まだ分からない」
「そっか」
「でも、何か違う」
「じゃあ、もう一回」
「付き合ってくれるのか?」
「うん」
「帰るんじゃなかったのか?」
「忘れ物はもう取ったし」
「それだけ?」
「それだけじゃないけど」
「え?」
「……黒瀬が何をするのか、ちょっと気になるから」
そう言って、天音はベンチに座り直した。
「ほら。もう一回やってみて」
「ああ」
俺は剣を消す。
そして、もう一度作る。
魔力の流れを意識する。
まだ上手くはいかない。
でも、昨日までとは少し違う。
今まで知らなかったことを、一つ知った。
魔力適性E。
その数字だけで、自分の可能性まで決まるわけじゃない。
「……よし」
剣を消して木剣を握る。
「最後に十回」
「最後って、何回目?」
「……今度こそ最後」
「信用できないなあ」
「ひどいな」
「だって黒瀬、いつもそう言うじゃん」
「そんなに?」
「そんなに」
天音が笑う。
その笑い声を聞きながら、俺は木剣を構えた。
一回。
二回。
三回。
昨日より、ほんの少しだけ。
剣を振る感覚が軽くなっていた。
最初の方にやるべきだったと反省してる回です。




