第15話 ランキング42位
訓練場に、歓声が響いていた。
「鳴海先輩!」
「ランキング42位だぞ!」
「黒瀬も最近すごいけど、さすがに相手が悪いだろ」
俺は訓練場の中央に立っていた。
向かい側には、鳴海恒一。
その手には、いつもの大剣――轟鉄。
今日の模擬戦は、これまでとは違う。
観客の数も多い。
それだけ、俺と鳴海の試合に注目が集まっているらしい。
「黒瀬」
鳴海が声をかけてくる。
「準備はいいか?」
「ああ」
俺は右手を握る。
「勝つつもりで来た」
「……そうか」
鳴海は轟鉄を構えた。
「なら、遠慮はしない」
開始の合図が鳴る。
次の瞬間。
鳴海が消えた。
「――っ!」
速い。
大剣を持っているとは思えない。
轟鉄が横薙ぎに振られる。
俺は咄嗟に剣を作った。
――ガキンッ!
受けた瞬間、腕が弾かれる。
「重っ……!」
そのまま身体が後ろへ吹き飛んだ。
床を二度、三度蹴って何とか止まる。
「まだ終わってないぞ」
鳴海が追ってくる。
「分かってる!」
俺は剣を構え直した。
轟鉄が迫る。
今度は正面から受けない。
横へ飛ぶ。
大剣が床を叩いた。
――ドンッ!
訓練場の床に亀裂が走る。
「……マジかよ」
観客席から声が漏れた。
俺は距離を取る。
まともに受けたら駄目だ。
分かっていた。
けれど、実際に見ると想像以上だった。
あの大剣は、ただ重いだけじゃない。
鳴海の能力「重装」によって、身体そのものが強化されている。
だから大剣の重量を完全に攻撃力へ変換できる。
「だったら……」
俺は右手を前に出した。
「ブーストソード」
光が集まり、剣が生まれる。
同時に身体能力が引き上げられる。
足に力を込める。
今度は俺から踏み込んだ。
「おおっ!」
観客が沸く。
俺は一気に距離を詰める。
鳴海の懐。
大剣は近距離では振りにくい。
そこを狙う。
「そこだ!」
剣を振り上げる。
しかし。
鳴海は轟鉄を手放さなかった。
身体を捻る。
大剣の柄で俺の剣を受け流した。
「なっ……!」
「大剣だから近距離が弱いとは限らない」
鳴海の肘が飛んでくる。
「ぐっ!」
何とか腕で受ける。
それでも身体が浮いた。
そのまま後ろへ転がる。
「……やっぱり強いな」
立ち上がる。
鳴海は追撃してこなかった。
「お前もな」
「え?」
「今の動きだ」
鳴海は轟鉄を肩に担ぐ。
「昨日までのお前なら、あそこで正面から受けていた」
「……」
「だが、今日は違う」
見られている。
戦い方を。
俺が何を考えているのかまで。
「さすがランキング42位ってところか」
「ランキングは関係ない」
鳴海は答えた。
「相手を見る。それだけだ」
俺は少し笑った。
「じゃあ、もっと見せてやるよ」
右手を前に出す。
「武装精製」
剣が現れる。
鳴海が構える。
俺も走った。
だが――。
途中で剣を消す。
「……!」
鳴海の目が見開かれる。
俺はそのまま右手を振る。
「武装精製!」
短剣。
至近距離から投げる。
鳴海は轟鉄で弾いた。
その瞬間。
「グロウソード」
伸びる剣が現れる。
床へ突き刺す。
刀身が伸びる。
身体が一気に引っ張られた。
鳴海の頭上を飛び越える。
「なにっ!」
空中で身体を捻る。
そのまま背後へ着地。
「もらった!」
剣を振る。
――ガキンッ!
鳴海が振り向きざまに轟鉄を叩き込んできた。
俺の剣が砕ける。
「くっ!」
だが。
想定内だ。
「もう一本!」
剣が生まれる。
鳴海の表情が変わった。
「……またか」
「そうだ」
俺は踏み込む。
「壊れたら、作ればいい!」
剣を振る。
轟鉄とぶつかる。
――バキン!
また砕けた。
それでも止まらない。
「もう一本!」
次の剣。
「もう一本!」
さらに一本。
「もう一本!」
作って。
壊して。
作って。
壊す。
観客席が静かになっていく。
「なんだよ……あれ」
「武器が……」
「何本目だ?」
俺にも分からない。
ただ。
目の前の鳴海を倒す。
それだけを考える。
鳴海は轟鉄一本で、俺の剣を次々と砕いていく。
けれど。
俺は何度でも作る。
「……!」
鳴海の額から汗が落ちる。
最初は余裕があった。
でも。
少しずつ。
その表情から余裕が消えていく。
「黒瀬……!」
轟鉄が振り下ろされる。
俺は横へ避ける。
床が砕ける。
その隙に剣を作る。
踏み込む。
斬る。
鳴海が受ける。
轟鉄が弾く。
剣が砕ける。
また作る。
また斬る。
また壊れる。
その繰り返し。
「……はぁっ!」
息が苦しい。
魔力もかなり減っている。
それでも。
まだ戦える。
俺は武器を作る。
その瞬間。
頭の中に、あの文字が浮かんだ。
『武装情報――追加登録候補』
「……?」
一瞬だけ。
轟鉄の姿が、別のものに見えた。
無数の傷。
修理された刀身。
何年も握られてきた柄。
そして――。
見覚えのある三本線の紋章。
「……なんだ、これ」
轟鉄の刀身に。
ほんの一瞬だけ。
青白い光が走った。
鳴海が叫ぶ。
「黒瀬!」
「……!」
「避けろ!」
反射的に身体を動かす。
次の瞬間。
轟鉄が目の前を通過した。
――ドォンッ!
後方の壁が大きく砕ける。
「……危な」
俺は息を呑んだ。
今の一撃。
さっきまでとは明らかに違った。
鳴海自身も驚いたように轟鉄を見る。
「……今のは」
轟鉄が。
小さく震えていた。
俺の右手も熱い。
青白い印が、ゆっくりと明滅している。
そして。
視界の端に。
今まで見たことのない表示が浮かんだ。
『原型武装――照合率上昇』
『対象――轟鉄』
『複製条件――未達』
「……轟鉄?」
鳴海が怪訝そうに俺を見る。
「何を言ってる?」
「いや……」
俺は表示を見つめる。
すぐに消えた。
でも。
確かに見えた。
轟鉄。
鳴海が何年も使い続けてきた大剣。
そして俺の能力が、あの剣を――。
「黒瀬!」
鳴海の声で我に返る。
目の前には、轟鉄を構えた鳴海。
「まだ終わってないぞ」
「ああ」
俺も剣を構える。
「そうだな」
身体は限界に近い。
魔力も少ない。
それでも。
まだ一本、作れる。
俺は右手に力を込めた。
「次で決める」
鳴海が笑った。
「奇遇だな」
轟鉄を両手で握る。
「俺もそう思っていた」
訓練場に、二人の殺気がぶつかる。
そして。
俺たちは同時に走り出した。




