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魔力適性Eの落ちこぼれ、俺だけが武器を複製できる  作者: 狙撃犬
第1章 最下位からの始まり

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第14話 譲れないもの

 放課後。


 俺は一人、訓練場に残っていた。


 三日後。


 鳴海恒一との模擬戦がある。


 ランキング42位。


 魔力適性B。


 能力は「重装」。


 今まで戦った相手とは、明らかに格が違う。


「……勝てるかな」


 口に出してみる。


 当然、答えは返ってこない。


 俺は右手を前に出した。


「武装精製」


 一本の剣が現れる。


 軽く振る。


 悪くない。


 けれど、これだけでは鳴海には届かない。


「だったら――」


 剣を消す。


「ブーストソード」


 身体能力を強化する。


 踏み込む。


 一歩。


 二歩。


 剣を振る。


 だが、頭の中にはあの大剣が浮かんでいた。


 鳴海が使っている大剣。


 あれを正面から受けたら、今の俺の武器は一瞬で壊される。


 なら。


「別の方法を考えないとな」


 俺は何度も武器を作り直した。


 剣。


 短剣。


 槍。


 ブーストソード。


 グロウソード。


 どれもしっくりこない。


 武器を変える。


 それだけなら簡単だ。


 でも、鳴海は今まで戦った相手とは違う。


 あいつは――。


 たぶん。


 自分の武器を信じている。


     ◇


 同じ頃。


 別の訓練場。


 鳴海恒一も一人で剣を振っていた。


「……っ!」


 大剣が空気を切り裂く。


 一回。


 二回。


 三回。


 何百回と繰り返す。


 額から汗が流れる。


 手のひらには、いくつもの豆ができていた。


 それでも鳴海は止まらない。


 大剣を振り下ろす。


 振り上げる。


 踏み込む。


 もう一度。


「鳴海」


 後ろから声がした。


 教官だった。


「今日はもう十分だ」


「まだです」


「三時間以上やってるぞ」


「……まだ足りません」


 鳴海は大剣を握り直した。


 教官はため息をつく。


「黒瀬と戦うからか?」


「はい」


「そこまで警戒する必要があるか?」


 鳴海は少し黙った。


「あります」


「なぜだ?」


 鳴海は手にした大剣を見つめた。


「……あいつを見ていると、昔のことを思い出すんです」


「昔?」


「ああ」


 鳴海の視線が、遠くを見るように変わった。


     ◇


 中学三年の頃。


 鳴海は、自分には才能があると思っていた。


 魔力適性B。


 身体能力も高い。


 剣術の成績も学年上位。


 周囲からも期待されていた。


『鳴海なら高校に入ればAランクも狙える』


『将来は上位シーカーになれる』


 そんな言葉を何度も聞いた。


 鳴海自身も、それを疑っていなかった。


 努力していないわけではない。


 けれど――。


 どこかで、才能が自分を助けてくれると思っていた。


 そんな鳴海が、最後の大会で一人の少年と戦った。


 魔力適性はC。


 身体能力も鳴海より低い。


 成績も決して目立つ選手ではなかった。


 それでも。


 鳴海は負けた。


 最後まで、相手の剣に触れることすらできなかった。


 試合が終わった後。


 鳴海は悔しくて、誰もいない訓練場で剣を振っていた。


「……なんでだよ」


 何度振っても答えは出ない。


 そのとき、負けた相手が戻ってきた。


「まだやってるのか?」


「……うるさい」


「別に責めてない」


 少年は鳴海の剣を見た。


「お前、剣を振るの速いよな」


「だったら、なんで負けた?」


「簡単だろ」


 少年は自分の剣を持ち上げた。


「お前は剣を振ってる。でも、俺はこの剣で勝つことだけを考えてる」


「……」


「お前は自分の才能を信じてる」


 少年は続けた。


「でも、俺はこの剣しか信じてない」


 その言葉が。


 鳴海の中に残った。


     ◇


 高校に入学した鳴海は、一本の大剣を選んだ。


 今まで使っていた剣よりも重く、扱いにくい。


 最初は持ち上げるだけで精一杯だった。


 それでも鳴海は、その剣を使い続けた。


 一日百回。


 次の日は二百回。


 さらにその次の日は三百回。


 手に豆ができた。


 潰れた。


 血が出た。


 それでも振った。


 重すぎて身体がついてこないなら、身体を鍛えた。


 振り下ろせないなら、振り下ろせるまで繰り返した。


 何度も壊れた。


 何度も修理した。


 そして。


 いつしか、その大剣は鳴海の身体の一部になっていた。


「……だから」


 現在。


 鳴海は大剣を見つめる。


「俺は、こいつを捨てない」


 教官は黙って聞いていた。


「名前は?」


「轟鉄です」


 鳴海は刀身を軽く撫でた。


「高校に入ったときからずっと使ってます」


「そこまで一つの武器にこだわる理由があるんだな」


「あります」


 鳴海は笑った。


「俺は一度、才能に負けたんです」


「……才能に?」


「正確には、自分の才能を信じすぎた」


 鳴海は轟鉄を握る。


「だから、今度は自分が積み重ねてきたものを信じたい」


     ◇


「……黒瀬の戦い方を見て、怖くなったんです」


 鳴海が言った。


「怖い?」


「はい」


 鳴海は苦笑する。


「あいつは、俺とは正反対です」


「武器を使い分けるからか」


「それもあります」


 鳴海は昨日の戦いを思い出す。


 壊れた剣。


 その直後に生まれた新しい剣。


 そして、また別の武器。


「俺は一つの剣を何年もかけて極めてきた」


 対して。


 黒瀬悠真は、必要なら別の武器を作る。


 自分に足りないものを、武器を変えることで補っている。


「……俺が何年もかけて積み重ねてきたものを、あいつは別の方法で追い越してくるかもしれない」


 鳴海は拳を握る。


「だから、負けたくない」


「黒瀬にか?」


「自分自身にもです」


 鳴海は轟鉄を構えた。


「絶対に」


     ◇


 翌日。


 学校では昨日の模擬戦の話題が続いていた。


「黒瀬、また勝ったらしいぞ」


「昨日だけで三勝だろ?」


「ランキング156位だって」


「Eランクなのに?」


 教室に入ると、そんな会話が聞こえてくる。


 俺は気にしないように席へ向かった。


「黒瀬くん」


 天音が手を振っている。


「おはよう」


「おはよう」


 席につくと、天音が少し心配そうに俺を見る。


「昨日、遅くまで訓練してた?」


「なんで分かった?」


「目の下」


「……そんなに?」


「ちょっとだけ」


 天音は笑った。


「鳴海くんとの試合、楽しみ?」


「楽しみというか……」


 少し考える。


「勝ちたい」


「うん」


 天音は頷いた。


「黒瀬くんなら勝てるよ」


「まだ戦ってないけどな」


「でも、昨日の黒瀬くんを見たらそう思う」


「……ありがとう」


 そのとき。


 教室の扉が開いた。


 鳴海だった。


「黒瀬」


「ん?」


「少し付き合え」


「何に?」


「訓練場」


 鳴海は俺を見る。


「試合まで三日ある」


「だから?」


「一度、実際に武器を合わせておきたい」


 教室が静かになる。


 鳴海は轟鉄を肩に担いだ。


「軽くでいい」


「……分かった」


     ◇


 訓練場。


 俺と鳴海は向かい合って立っていた。


「一撃だけだ」


 鳴海が言う。


「一撃?」


「お前の剣と、俺の剣をぶつける」


「それだけ?」


「ああ」


 鳴海が轟鉄を構える。


 空気が変わった。


 さっきまで普通に話していた人間とは思えない。


 これがランキング42位。


 俺も剣を構える。


「行くぞ」


 鳴海が踏み込む。


 速い。


 大剣とは思えない速度。


 俺も前へ出る。


 剣と大剣がぶつかった。


 ――バキン!


 俺の剣が砕けた。


 衝撃で腕が痺れる。


「……」


 鳴海は大剣を下ろした。


「これが今の俺だ」


 俺は砕けた剣を見る。


「強いな」


「そうだろ」


 鳴海は少し笑った。


「だから、本番はもっと強くなる」


 その言葉を聞いて、俺も笑った。


「……俺も」


「?」


 右手を前へ出す。


「もう一本」


 光が集まり、剣が生まれる。


 鳴海が目を細めた。


「それがお前の答えか」


「ああ」


 俺は剣を握る。


「壊れたら、作ればいい」


 鳴海はしばらく俺を見る。


 そして。


「……面白い」


 小さく笑った。


     ◇


 その日の夜。


 鳴海は自宅で轟鉄の手入れをしていた。


 布で刀身を拭く。


 細かな傷。


 何度も修理した跡。


 柄には、使い込んだ痕が残っている。


 鳴海はそこを指でなぞった。


「……まだ頼むぞ、轟鉄」


 返事などあるはずがない。


 それでも。


 鳴海にとっては、それでよかった。


 この剣となら。


 自分はまだ強くなれる。


 あの日、才能に負けた自分を超えられる。


 そう信じていた。


     ◇


 同じ頃。


 俺は自宅の机で、今日の戦いを思い返していた。


 一本の剣では勝てない。


 なら。


 何本でも作る。


 フレアブレイド。


 ブーストソード。


 グロウソード。


 まだ知らない武器もある。


 俺はふと思った。


 鳴海は一つの武器を信じている。


 俺は、武器を信じるという感覚がまだ分からない。


 でも。


 もしかしたら。


 俺たちは同じなのかもしれない。


 自分が選んだ戦い方を信じている。


 鳴海は一つを極める。


 俺は一つにこだわらない。


 どちらが正しいのか。


 それは、三日後に分かる。


「……楽しみだな」


 机の上に置いた写真を見る。


 父さんが持っている炎の剣。


 俺が作ったフレアブレイド。


 そして。


 鳴海の轟鉄。


 三つの武器が、頭の中で重なった。


 その瞬間。


 右手の青白い印が、ほんの一瞬だけ光った。


 視界の端に文字が浮かぶ。


『武装情報――追加登録候補』


「……え?」


 しかし。


 表示はすぐに消えた。


 俺はまだ知らない。


 この戦いで鳴海と交わす一撃が。


 俺の「武装精製・複製」に、新たな変化をもたらすことを。


 そして――。


 轟鉄という一本の剣が。


 俺の知らない父さんの過去と、深く繋がっていることを。


     ◇


 三日後。


 ランキング42位。


 鳴海恒一との戦いが始まる。

結構書き溜めてたので、定期的にまとめて投稿するスタイルになりそう。


続きも書きながら投稿しています。


投稿が追いつくようにがんばります。

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