第13話 武器を変えるだけ
翌朝。
教室に入った瞬間、いつもとは違う視線を感じた。
「……あれが黒瀬?」
「昨日の模擬戦で二人倒したやつだろ?」
「Eランクなのに?」
昨日までなら、誰も俺のことなんて気にしていなかった。
それが一晩で変わった。
嬉しいような、落ち着かないような。
「おはよう、黒瀬くん」
「おはよう、天音」
席につくと、天音が小さく笑った。
「昨日から有名人だね」
「やめてくれ」
「でも、すごかったよ」
「たまたまだよ」
「二連勝が?」
「……」
何も言えなかった。
そこへ鳴海がやってくる。
「たまたまじゃない」
「鳴海?」
「昨日の試合、見てた」
鳴海は腕を組んだ。
「お前は相手を見て武器を変えてる」
「まあ……そうだな」
「普通の武器使いなら、一つの武器を使い続ける。魔法使いなら自分の得意属性を伸ばす」
鳴海は俺の右手を見る。
「だが、お前は違う」
「何が?」
「戦いながら、次に必要な武器を考えてる」
言われてみれば、そうかもしれない。
俺は武器そのものにこだわりがない。
必要なら剣。
速さが必要ならブーストソード。
距離が必要ならグロウソード。
それだけだ。
「だから厄介なんだ」
鳴海は少し笑った。
「……俺と戦うときも、そうするつもりか?」
「もちろん」
「なら、楽しみにしてる」
鳴海が自分の席へ戻っていく。
その直後。
「黒瀬」
教官が教室に入ってきた。
「今日は昨日と同じく、実戦形式の模擬戦を行う」
教室がざわつく。
「昨日の結果を受け、対戦相手を一部変更する」
嫌な予感がした。
「黒瀬悠真」
「はい」
「お前は今日、三試合行う」
「……三試合?」
「昨日二勝したからな」
周囲がざわめいた。
「いきなり三試合?」
「昨日の二人より強い相手を当てるってことか?」
教官が対戦表を見る。
「第一試合――ランキング百二十位、魔力適性B」
相手の男子が立ち上がった。
「よろしく、黒瀬」
俺も立ち上がる。
「よろしく」
訓練場へ移動する。
開始位置についた。
「始め!」
相手は最初から距離を取った。
右手を前に出す。
魔法陣が展開する。
「遠距離型か」
火球。
氷の槍。
風の刃。
次々に魔法が飛んでくる。
俺は避け続ける。
近づけない。
なら。
「武装精製」
グロウソードを生成する。
剣が伸びる。
床に突き刺す。
「なっ……!」
身体を引っ張る。
一気に距離が縮まった。
「嘘だろ!」
相手が後ろへ下がる。
だが遅い。
「終わり」
剣の腹で肩を叩く。
相手が倒れた。
「勝者、黒瀬!」
歓声が上がる。
「今の移動、何だよ!」
「伸びる剣を移動に使ったのか?」
俺はグロウソードを消した。
一本目。
勝利。
◇
第二試合。
相手はランキング九十七位。
魔力適性B。
能力は身体強化。
「また接近戦か」
「昨日の高橋と同じだと思うなよ」
相手が笑う。
「俺の身体強化は一段違う」
開始。
一瞬で目の前まで来た。
拳。
俺は剣で受ける。
ガキン!
剣が折れる。
「終わりだ!」
相手が追撃してくる。
俺は後ろへ跳んだ。
「武装精製――ブーストソード」
身体が軽くなる。
相手の拳が空を切る。
「な――」
俺はその腕を掴んだ。
勢いを利用する。
投げる。
床に叩きつける。
「ぐっ……!」
相手が起き上がる前に、ブーストソードの腹を首元へ当てた。
「そこまで!」
教官が止める。
「勝者、黒瀬!」
また歓声が起こった。
「二連勝!」
「しかも昨日より強い相手だぞ!」
俺は息を整える。
さすがに疲れてきた。
ブーストソードを消す。
身体に少し負担が残っている。
「……三試合目か」
まだ終わっていない。
◇
第三試合。
対戦表を見た瞬間。
少しだけ空気が変わった。
「ランキング――七十三位」
周囲がざわつく。
「七十三位?」
「もうそんなところと戦うのかよ」
「さすがに無理だろ」
相手が訓練場へ入ってくる。
女子だった。
長い髪を後ろでまとめ、両手に短剣を持っている。
「よろしく」
「ああ」
「昨日の試合、見た」
「そうなんだ」
「あなた、武器を壊すことに抵抗がないんだね」
「……まあ」
彼女は短剣を構えた。
「なら、私とは相性が悪いよ」
「どういう意味?」
「私は武器を壊す戦い方だから」
開始の合図。
彼女が消えた。
「速い!」
観客から声が上がる。
右。
左。
背後。
短剣が次々と迫ってくる。
俺は剣で受ける。
一撃。
刀身に亀裂。
二撃。
折れる。
「そこ!」
彼女が懐へ入る。
俺は剣を捨てた。
「え?」
そのまま一歩踏み込む。
「武装精製」
新しい剣を、その場で生成。
刀身が彼女の短剣を弾く。
そして。
「――ブーストソード」
さらに生成。
速度を上げる。
彼女が下がる。
だが、俺も追う。
「まだ!」
彼女の短剣が迫る。
俺は剣を捨てる。
そして。
「グロウソード」
剣が伸びる。
彼女の足元へ。
「しまっ――」
引っ掛ける。
体勢が崩れる。
俺はそのまま距離を詰めた。
「終わりだ」
剣の腹が肩に触れる。
彼女が止まる。
数秒。
沈黙。
「……負けた」
教官が宣言する。
「勝者――黒瀬悠真!」
今までで一番大きな歓声が上がった。
三連勝。
しかも。
最後の相手はランキング七十三位。
俺自身も少し驚いていた。
昨日までの俺なら、絶対に勝てなかった。
いや。
昨日までなら、そもそもこんな戦い方を思いつかなかった。
第二層で死にかけた。
黒鎧に出会った。
あのとき、必死で武器を作って。
壊れて。
また作った。
あの経験が、今の俺を作っている。
「黒瀬くん」
天音が駆け寄ってくる。
「三連勝、おめでとう!」
「ありがとう」
「でも……」
天音が少し心配そうに俺を見る。
「手、震えてるよ」
俺は右手を見る。
本当に少し震えていた。
「大丈夫。ちょっと疲れただけ」
「無理しないでね」
「ああ」
そう答えた。
けれど。
俺は知らなかった。
この震えが疲労だけではないことを。
手の甲にある青白い印。
そこに、一瞬だけ。
あの円と三本の線が浮かんでいた。
◇
放課後。
ランキングが更新された。
昨日。
256位から198位。
そして今日。
「……156位」
掲示板の前で、俺は自分の順位を見つめた。
たった二日で百人抜き。
「すげぇ……」
誰かが呟いた。
「本当にEランクなのか?」
「Eって、もしかして……」
別の生徒がスマートフォンを見ながら言う。
「ErrorのEなんじゃないか?」
「Error?」
「ほら、測定できないとか」
「確かに黒瀬のデータ、変だって噂になってるし」
その言葉に、俺は少しだけ振り返った。
「……Error」
もしそうなら。
俺は本当に、最弱じゃないのかもしれない。
そんなことを考えていると。
「黒瀬」
後ろから声がした。
振り返る。
鳴海だった。
「三日後」
「?」
「俺と戦え」
鳴海は笑っていた。
「ランキング42位の俺が、お前の相手をする」
周囲が一気に静かになる。
42位。
今の俺とは、まだ百位以上離れている。
それでも。
「……分かった」
俺は頷いた。
「やろう」
鳴海が満足そうに笑う。
「楽しみにしてる」
その場を離れたあと。
俺はもう一度、ランキングを見る。
156位。
まだまだ上にはたくさんいる。
だけど。
今なら思える。
――もっと上へ行ける。
その瞬間。
ランキング画面の隅に、一瞬だけ文字が浮かんだ。
E-CLASS
その下に。
ERROR――NO DATA
さらにその下。
誰にも気づかれないほど小さく。
ENEMY――ACTIVE
画面はすぐに元へ戻った。
俺は、それを知らない。
ただ。
三日後の戦いだけを考えていた。




