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嫌いな理由  作者: 北原たつき


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嫌いな理由③

 昨夜、唐突に居なくなった神を惜しむこともなく一人公園を後にした少年は、美しいものについて少し考えていた。


 今まで見たことのある美しいものとは

 神に自慢したい人間の美しいものとは

 僕が大切にしている美しいものとは


 考えれば考えるほど、『美しいもの』がゲシュタルト崩壊していく。

 だったら。と、少年は、神の「少年の好きなものでいい」という言葉を信じ、次もし会ったら紹介するものを見つけていた。

 そんなことを考えていたら、少しだけ寝不足のままに公園で神と再開する。

 少年は神を、生まれ育った街に連れ出した。それは特別なものでは決してなく、少年がよく辿る足取りをなぞるように、歩いていく。

 平日でも観光客で賑わう、大きな商店街。

 最初は、ゲームセンターに連れて行く。やけにUFOキャッチャーを気に入ったみたいで、タコのぬいぐるみの前で数十秒動かなくなる神。

「欲しいいの?」と尋ねても、うんともすんとも言わないので、代わりに百円硬貨を二枚入れ、アームを縦横と動かすと、神は食い入るように見入る。その姿がとても可笑しくて、操作が明後日の方向へ向かい、タコの足を撫でて終わった。

 その後も案外長居したゲームセンターを出ては、次の場所へ向かう。

 次は、カラオケ。これは少年自身が好きなこともあるが、神の歌声を聴いてみたい好奇心半分で選ばれた。歌わせる前に、お手本のつもりでマイクを手に取り、それなりに覚えている一曲を歌い上げる。

 ぼーっと画面を見つめている神に対し「次は神の番」と当たり前のようにマイクを手渡すとすんなりと手を伸ばす。あえて使い方も教えず、端末を手渡しどうするかを観察していると、滞りなくただ端末を操作しては、『ピピっ』と曲を入れる。質問も何もなくその手慣れた手つきに驚く少年に神は追い討ちをかける。歌おうとしている曲は、少年の大好きな歌。少年の頭の中にあった楽曲を拾い上げ選曲した神。そして、凄まじく上手い。口を開いている仕草はいつもと変らず無表情で棒立ちで、やる気ないのに上手い。ただCD音源を流しているような上手さではなく、確かに先ほどまでに聴いていた神の声で歌い上げる。まさにその神業に聞き惚れているとあっという間に一曲が終わる。

「もう一回!」と叫ぶ少年に神は頷き、結局残りの時間は全て神が歌って終わった。

 神は変らず歩き、歌っていない少年が楽しみ疲れた様子で歩く。

 その後は、道ゆくままに通りかかるお店に寄っては、人間が作るものを説明していく。小さな雑貨屋であらゆる神の像を見つけたり、花屋で神の好きな花を見つけたり。

 綺麗な青空は、アーケードの屋根で隠れて見えないけれど、煌びやかな白いワンピースは変らず靡いていた。

 無表情で変らない歩幅の神と、少年が好きな道を一緒に歩いて行く。


「はぁ、ここで休憩」

 全国でも有名な商店街であるからに、それなりに大きなアーケードを回り尽くした二人。駅前の広場にある、人の波がよく見えるベンチに腰をかける。歩き慣れていても流石に疲れを見せる少年とは相反し、神は手元のクレープに夢中。

「クレープでも食べる?」と少年が提案すると「神は物体として存在しない。故に生物的栄養摂取も必要ない」とキッパリと断る。

「視覚でも聴覚でも美しいものに触れているなら味覚でも調査してみたら?ほら、人間と同じ感覚を宿してみてさ」と、半ば強引にクレープを購入し、手渡しては今に至る。

「これはなんだ。どうしてこんなものが生み出せる」

「美味しい?」

「美味しすぎやしないか」

 急に人間味が出てきた神を見ては、口角が上がる少年。

「もう一つ」

「え、もう食べたの?」

「次は果実が三種類入っているものを」

「そんなお金はない」

 当然神はお金を持っていなかったので、行く先々の代金は少年が持っていた。

「ないなら生み出せばいい」と、これまた人間のようなことを言い始めたので、正しい人間を教える事にする。

「倫理観はしっかりして」

「神に人を殺めさせておいて何を言う」

「ごめんなさい」

 ぐうの音もでず、黙ってもう一つ神にクレープを買い与えた。

 気づけば二時間ほど歩き続け、西陽が強くなる頃、帰り路を歩く人々が次第に増える。騒がしさの中に心地よく頬を撫でる風が心を落ち着かせ気を抜けば瞼が降りて来そうになる。

 寝ないようにと、少年は、神へ話しかける。

「どうだった?」

「とても良い。三種の甘みが組み合わさり、先ほどのものとは違う味わいだ」

 主語がなかった自分を責めるべきか。自分の意図しない返答に難色を示すと、神はちゃんと汲み取ってくれる。

「とても興味深いものがたくさんあった」

 今日の感想を一文でまとめられるも、神に褒めてもらい嬉しさが表情に現れる。

「同じような物事は他にも見たことはあるが、譲渡し、される関係性を作るのは、人間世界が初めてだ」

「はぁ・・」どこの世界の話をしているのか質問をしようとするが、ふと浮かんだ質問が先に口に出る。

「神は、何人くらいこうして行動をしているの」

「何人?人間のことか。人間は少年だけだ」

「え、僕だけ?僕の後にもいないの?」

「いない。目的のない行動なのだからサンプルを増やしたとて、なんら意味はない。」

 てっきりいろんな国に行っては同じことをしているのだと思っていたばかりに、急に人間代表を告げられ、焦り始める少年。

「地球では他の動物とかとも一緒に?」

「ああ。数多の生き物を見た。生き物じゃなくとも事柄を共にした」

「どう言うこと?」

「人間には伝わるまい」

 言葉に出来ないことは無理に言葉に表さない神。それでも、少年が質問したことはなるべく答える。地球以外にも見てきて、これからも見て行くことを。誰に頼まれた訳でもなく、ただひたすらに、何かと一緒にその何かが求めるものを見ていく。目的もなく。

 それが、神の目的らしい。

 少年から神へ質問を繰り返していくと、珍しく神の方からも少年へ質問する。

「地球にいる動物は、多くのものが群をなして行動していたのだが、人間は違うのか?」

「人間も群れるよ。基本団体行動だよ」

「だが少年は違うようだ。今このように。家でも」

「急に先生みたいなこと言うなよ」

 家に来てんじゃん。と横槍の言葉を投げかけようとしたが、ただ返答を待つ姿勢に純粋な質問だと改める。

 神が自分なんかの生き方に興味を示すこともないだろうと思ったのだが、ここは心の内を呟く事にした。

「今はただそれが楽しいだけだよ」

 そう呟いた後、不自然な間が空く中で、神は僕が言葉を続けようとしていることを知っているかのように、僕の言葉を待っていた。

「一人が好きで、今は何もいらないんだ」

 ただ、それだけだった。一人を寂しいと思った時だってあった。なんで自分だけと嘆く時だったあった。群れている奴が憎くて、貶してくる奴が腹立たしくも思った。頼る親もいなければ、信頼できる大人もいない。ただ必死に生きている。

 そんな時間が今はきっと楽しいんだと思う。

 好きな音楽が僕の心を踊らせる。

 ラジオが僕の表情を綻ばせる。

 暗い部屋が僕に寄り添ってくれる。

 共感する人なんていらない。

 それら全て僕のものだから。それが今はとにかく楽しくてたまらない。

 神にはこれが伝わるはずないと思ったがために、きっと口に出来た。返答なんて期待していない。ただこの想いを口に出来たことがとても嬉しかったから、それだけで十分だった。

 それでも神が一言。

「そうか」と呟くと不自然なくらいに爽やかな風が僕を包み込み

「それもまた美しい」と聞こえる。

 そんな人の気も知らないで、ただ目の前の事象にだけ向けるその言葉が、今の僕にはとても必要な気がした。

「そうだ。もう一つ綺麗なものがあって」

 と、神の方へ視線を移した時には、西陽が目に差し込み、神の姿が見えない。

 もうとっくに、神はいなかった。


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