第十話
現実とはなんなのか、ボクは考えることがある。
理想とはなんなのか、ボクは考えたことがある。
現実とは常に残酷で、理想とは常に甘美で。
そんなことはないはずなのに、あの日のことを思い出すとぼくは―――
「起きた??」
目を開けると、少女の顔があった。
「おはよう」
目の前の少女はぼくに話しかけてくるが、ぼくはこの子に会ったことがあるのかどうか。
いまいち思い出せずにいる。
「・・・おはよう」
条件反射的に言葉を繋ぐ。
だんだんと意識がはっきりしていく。
ぼくは、少女の膝の上で心地よい眠りを取っていたみたいだ。
空の具合を見る限り、まだ朝は明けてはいないものの、夜は床についたようだ。
なぜ、ぼくはこんな状態になっているのか。
身を起こしつつ考える。
頭は痛くはない。
昨日の記憶も正確に覚えていない。
ぼんやりと知っている。
記憶とはそんなものだ。
「お勤めご苦労様だね。ぼくはいつから意識を失っていた?」
少女の顔を見ることなく尋ねる。
「夜」
解答は短く、良い結果を得られなかったが、まあ、いい。
重くもなんともない腰を上げ、背伸びをする。
「お腹空かない?ちょっとご飯を食べに行こう」と、名前も知らない彼女に尋ね、彼女は「うん」と、了承する。
時間は早朝。
新しい朝と希望の朝がやってくるかやってこないかの瀬戸際で、活気が減り、衰退していく一方であるこの町は、重いシャッターで閉ざされている店が多い。
腰を上げているとしたら、ハック。
この街の憩いの場であるあの店に向かうしか他ならない。
後ろを歩く少女は、何を言うわけもなく、ぼくの後ろを守っている。
ぼくは前を守り、いつでも戦闘態勢に入っているわけではない。
時間も時間であり、人通りは少なかった。
昨日行われた祭りの残滓が時おり見られるくらいで、平和で平穏な朝だ。
「さがしもの」
若者の非行について頭の中で会議を行おうと考えていた時、後ろから声が聞こえた。
「さがしもの」
ご丁寧に振り返るともう一度、用件を伝えてくれた。
「さがしもの」
実は、村人Aじゃないかと思うくらい、同じことを言っているのでぼくは、「さがしものがあるの?いいよ、付き合うよ」と返事を出した。
適切な言葉を当てはめたのか、それからは目的の場所までお互い会話をすることなく無言を貫き通した。
「それでさがしものって?」
栄養分を体内に取り込み、脳が活性化されたところで切り出す。
「さがしもの」
少女も黙々と口に詰め込むばかりで、同じことしか言わない。
「さがしもの」に別の意味が込められているのかもしれない。
もしや、ぼくの名前が「さがしもの」で、ただ名前を呼んでいるだけかもしれない。
そんな風に考えていると、「さがしもの。さがしてほしいの」と新しい言葉を紡いだ。
ぼくの名前じゃなかったことに一安心しつつ、「さがしものって?」と聞く。
「・・・・・・」
明確な解答は出されなかった。
ただ付き合うと言ったからには、さがしものの捜索に協力をしようと思った。
男に二言はない。
「それでどこ行くの?」
「付いてきて」
相手の同意を確かめずに動き出す女王様に、しぶしぶ従うしかないのが側近の役目である。
かなりの嘘である。
そうして、ぼくたちの捜索は始まった。
なにをさがしているのか、なにをみつけたいのか。
ぼくにはいまいち要領を得なかったが、男に二言はない。
繰り返す度に説得力が落ちている気もするが、気にしない。
嘘だけど。
協力することにした。
街の至るところを探した。
住宅地、公園、デパート、神社、駅、そして―――学校。
そういえば学校があったことを夕方に思い出す。
決められた服しか着ることのできない生徒をちらほらと見かけた。
学校を無断欠席したところか、家にすら帰っていなかった。
皆勤賞を目指している優秀な生徒だったのに、不覚だ!とか思わなかった。
「見つかった?」
辺りをキョロキョロと見渡す少女。
一生懸命な姿勢にぼくも見習うところが十分にあるが、真似はしない。
なぜなら、人は人、自分は自分だからと、屁理屈をこねた。
結局、名前も聞いていなかった。
あちらも名前を聞いてこなかった。
たぶん、お互いのことを知らないのがいいだろう、と忘れていたことに理由付けをしておく。
「ううん」と短く返す。
「今日はこのくらいにしよう」と提案をすると、こくっと肯いた。
それでこの日の捜査はおさらばとなった。
連絡先を聞かずに解散したので、次はないのかもしれない。
でも、昔の付き合いはそういうものだったことを、ふと思い出した。




