第十一話
翌日、夏の暑さに非礼しながらも、冬の寒さに御礼を感じることなく、朝の時間を過ごしていた。
学校につくと、朝から部活に精を出す生徒たちが青春の汗をかいていた。
その中に、ぼくの見知った顔があった。
朝練に参加しつつも、授業では寝ることなく真面目。
そして放課後はアルバイト。
学生生活を満喫しているとしか思えないクラスメイトを見かけたが、話しかけることはなく、昇降口へと向かった。
「おーい、おーい」
後方から誰かを呼びかける声が聞こえた。
名前を呼ばずに呼びかけていたら、相手は気付かないんじゃないか、と思ったものの、親しい仲には名前を呼ぶ必要はな
「ずっきー。ちょ、ちょっと、少しは後ろを振り返ったりしてもいいんじゃないの」
息を切らしながらもやってきたのは、ぼくのクラスメイトである喜多見であった。
なんだ、ぼくを呼んでいたんだ。
まったくなんて野郎だ。
「おはよう、喜多見。朝から部活なんてご苦労様」、と労いの言葉をかけた。
「おはよっ、ずっきー。今度、大会が近いんだよ。先生も熱が入ってビシバシとしごかれているんだ」
「喜多見はエースだっけ。周りを引っ張るためにも練習を休むわけにもいかないね。頑張って」
「おー、頑張るよ!ずっきーも良かったら応援に来てね」
「うん、分かった」といった軽い雑談をして、教室へと向かおうとしたら、「ストップーーーーーーー!!」と止められた。
教室へ向かうには、クイズで勝利を収めないと先に進めないのだろうか。
「どうしたの?喜多見も授業が始まる前に部室に着替えに行ったほうがいいんじゃないかな。時間もあるとは思えないけど」
ギリギリに通うぼくは時間に正確だった。
その正確さを他に利用しようとは考えたことはない。
「いいのいいの。ちょっと聞きたいことがあるだけだから。ずっきー、はぐらかさずに答えてね」
「うん」と言葉を返すと、喜多見は一呼吸を入れて切り出した。
「昨日は
キーンコーンカーンコン、とチャイムの音が鳴る。
タイミングが悪いなあと思いつつ、喜多見の言葉が聞けなかったのが嘆かわしいわけはない。
「ごめん、喜多見。もう時間だし教室に行こう。早く着替えてきなよ」と言葉を放って、教室へと向かった。
「…うん、そうだね。じゃあ、ちょっといってくらー」と元気な姿で走っていった。
喜多見がなにを言いたかったのか分からなかったけど、あんなにも聞きたそうにしていたのだから、教室へ戻ったら、声を掛けてくるだろう、と思っていた。
―――ただいま、放課後。
おかえり、放課後があるとしたら、誰に向けて言葉を向けるべきだろう。
素直にあいさつを同級生に向けておくべきなのだけど、ぼくの親友である和泉は本日、姿を見せることはなかった。
和泉は授業をサボりがちな不良と自称していたので、ぼくから何かをいう必要性はないのだけど、鞄が今も持ち主を待ち泣き喚く姿は見えない。
試験終了後の学校は、試験を返すだけの時間が続くので早めに夏休みへと突入するのは利口な考え方もしれない。
決して真似をしようとは思わないけど。
帰路の途中、和泉に遭遇した。
誰かを尾行しているみたいだけど、あの行動の仕方はあからさま過ぎる。
あまりにも怪しすぎて声を掛けるのが躊躇われたため、ぼくは見ないことにした。
プライベートの時間は個人の自由であり、第三者が介入すべきではない。
「おーい、おーい」
デジャヴ。
音楽プレイヤーでも掛けて、耳を塞いでおこう。
少し自意識過剰な気もするけど、最近は不審者も多く、人に無闇に近づいてはいけない、と聞いたことがある。
地元民とコミュニケーションをするだけでも大変だ。
「ストップーーーーーーー!!」と止められた。
「やあ、喜多見。今日も元気だね、どうしたの?」
「・・・はぁ・・・はぁ。ずっきー、今、分かってて、耳を塞ごうとしたよね。私のこと気付いたよね!?」
全力で人生を走り抜ける喜多見は見ていて気持ちいい。
「あそこに和泉がいるみたいなんだけど、何やっていると思う?」
「私、嫌われているのかなー。ずっきー話を聞いてよ・・・」と涙目ながらも、ぼくの指差す方へと目を向ける。
「あれ、和泉くん。今日も学校来てないと思ったら、おーい、おーい」と突撃しに行った。
誰も彼もが話を聞かない。
言葉一つで全ての思いを汲み取ろうとすることは、無駄なんじゃないかと思ってしまうけど、ぼくは無駄でできているので問題はない。
「おわっ!?いきなり顔を出すんじゃねえ!!びっくりするじゃねえか!!」と、少し離れているのに聞こえてきた。
ぼくも和泉の元へ近づいて声を掛けた。
「やあ、和泉。なにをしているの?」と素朴な疑問を伝えた。
すると、「ああ、今、コイツを探してんだ」と、一枚の写真をぼくに見せてきた。
―――ある女の子の写真だった。
少しぶっきらぼうに写真に写っていて、綺麗というよりは可愛い女の子だ。
「またいつもの?」
「そうだ。で、今、追っている」と目であたりを付けている人間を見ている。
早く声を掛ければいいのに。
それとも行動を探ることでも頼まれているのか。
浮気調査にしては若すぎると思うけど、若いから浮気をしないかと言えば別である。
「え、なになにー。和泉くん、探偵やっているの!?えー知らなかったよ。」と驚きを隠せないどころか、興味津々だ。
「探偵つーか、なんだ。便利屋だな」
「便利屋ってなになに!?」と興味は尽きない。
「あの子が依頼主ご指名の相手なら、尾行をしていないで動いた方がいいんじゃないかな」
二人の声が辺りに響き、存在感を十二分に示しているけど気にしない。
「ま、そうなんだけどよ。ちょっとなー・・・」と良いボールが返ってこないな、と思っていると、
「あーーーーーー!!」
また別の場所で大きな声が聞こえた。
今日は大声ダイヤモンドでもやっているのだろうか。
「やっと見つけた・・・」
誰かがこちらに近づいてくる。
誰かがこちらに声を掛けてきた。
「さがしもの」
ああ、そうか。
また会ったね。
久しぶり。
ご機嫌いかがかな―――




