第7話 兄の矜恃 1
校庭で対峙するは。
巨人。黒き羊の角をはやし。黒き巨人が咆哮を上げる。かつて狗古智卑狗であった、魔王。
そして、前衛を相楽良夢、アスニ・サムチャイ。
後衛を禍獄フィンセント京、禍獄ヴァイオラ紫。
黒き花嫁である紫が喰われたら、禍獄家と良夢達は敗北である。
魔王は咆哮しながら、四本の腕を振るい出す。
前衛はそれをかわしながら、サムチャイが良夢に叫んだ。
「跳びながらミスリル起動するしかあらへんよ!立ち止まってたら潰されてまう!!」
「承知ですッ!!起動しろ、わたしの、ミスリル!!」
良夢は魔王の右二本目の腕の上を走りながら、左胸から日本刀を抜刀した。
「相楽守蘇芳之定、推して参るッ!!魔王だって心臓か何かあるでしょうッ!!そこを突くッ!!!」
サムチャイは良夢のサポートに、左二本目の腕にしがみついた。
「思い切り発電したら、足止めくらい出来ひんかな……!うがあぁぁぁぁッ!!」
サムチャイの渾身の発電は、サムチャイの身体とて焼いていく。
「いけないわ、アスニッ!!」
「待て、紫よ!魔王が、反応している……!」
それは、かすり傷、或いは蚊のような発見かもしれないが。
魔王は認識した。
サムチャイを。
痛くも痒くも無いのかもしれないが、初めて遭遇した生き物のサムチャイをつまみ上げたいのか、左二本目の腕に手を集めた。
「今や、良夢ちゃん!!」
「うおおおおぉッ!!ガラ空きだァーッ!!!」
良夢は魔王の左胸に渾身の突きを繰り出した。
しかし。
血飛沫の代わりに飛び出したのは、何百という手だった。
「う!?これは……ッ!?」
笑い声が聞こえた。
大勢の女、子供だ。
今まで、魔王に捧げられた人達。
かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ?
子供たちの唄う声、伸びる手手が良夢を囲んだ。
大勢の手に、相楽守蘇芳之定が掴まれた。
「うわぁ!は、離せッ!!」
相楽守蘇芳之定には、良夢の魂が入っている。
これを飲み込まれては、死ぬ。
しかし、犠牲者達の力は強く、離れない。
身体ごと、引きずり込まれる。
「ミスリルを取られたら良夢が死ぬ!だけど、このままじゃ良夢は身体ごと、取り込まれてしまうわ!!」
良夢は身体や顔面まで、手手に捕まった。
学園長室で炎武郎が唸る。
「化け物め……やむを得ん!相楽良夢君の接続部にバルカン射出!!良夢君にも当たるだろうが、死ぬよりは良かろうッ!!」
「了解!バルカン射出用意!!実戦は初めてだ、射的に慣れた者は?」
書記の島田魁時が受け答えした。
「洋ゲーのFPSなら慣れてますけど、実戦は皆経験無いと思います。」
瀬ケ崎拓海は促した。
「バルカンは広範囲だ、弾道だけでも勘があればいいよ。島田、頼む!」
島田魁時はパネルをタイピングしながらスコープを見た。
「バルカン軌道合わせ!撃てます!」
間先生が合図した。
「バルカン砲撃、開始!!撃てェ!!」
バルカン砲により、良夢の相楽守蘇芳之定を掴む大勢の手を打ち払った。
「はぁ、はぁ」
相楽守蘇芳之定を抱えて息を切らす良夢。バルカン砲撃の痛みより、魔王の魔手の余りのパワーに、体力消耗が激しかった。
学園長室で炎武郎が叫んだ。
「校庭にメインモニター開示!」
校庭に現れた投影映像に、良夢とサムチャイは振り向いた。
架無が炎武郎の脇から覗き込む。
「なぁ、この学校どうなってんだよ。校舎からバルカン出てきた訳?校庭に映ってんの、これ?」
「こ、これ、架無君!第一戦闘配備中だぞ、ほら、下がって……前衛、相楽良夢君、アスニ・サムチャイ君、紫の元まで退いて治療しなさい!その間、こちらで主砲を撃つ!!」
サムチャイは魔王の四本の手から逃げていて、とても退避出来ない。
「せやかてなぁ……退路を通れへんけど……」
「サムチャイさんに魔王の全四本の手が集中してます!バルカンで腕を落とせる訳じゃありませんよね?」
「良夢君!君のミスリルで腕一本行けるかね!?」
良夢はサムチャイの助太刀には来たが、正直に言った。
「魂の特攻だったら、腕の何本かは落とせますが!!今は戦闘不能禁止令ですよね!?」
「やむを得ん!二人共、遮断スコープがなければキツイだろうが、目を庇いながら退避してくれ!発光弾を放つ!!」
サムチャイが叫んだ。
「良夢ちゃん、先に逃げ!!ワイは自分の発光で慣れとるから!!目ェ庇うんよ、ええかな!?」
「は、はいい!確かに失明したらただの足でまとい!!先に退避しますッ!!」
瀬ケ崎がタイピングしながら島田魁時に告げた。
「島田!軌道はサムチャイさんに!」
「了解。閃光弾軌道合わせ!射出準備完了、いつでも撃てます!しかし、良いんですか?帯電体質とはいえ、これは軍隊規模の閃光弾ですよ?」
間先生が島田魁時の肩を叩いた。
「魔王に握られた方が彼は死ぬだろう。本人を信じるしか無い。閃光弾、発射!!」
走り切った良夢は途中から、余りの眩しさにうつ伏せになった。
「うわあああッ!!目が、目がァァァッ!!!」
サムチャイは魔王が目くらましにあっている隙に抜け出して駆け抜けた。
「ワイには霊子力が一切のうて、物の怪には余計に見えへんのやろな……。」
サムチャイは途中でうつ伏せになっている良夢を回収して走った。
「眩しくても止まったらあかんよ!」
「ウーッ!!こんなのヒドイッ!!軍人さんだってサングラスつけますよね!!なんか映画で見ましたけど!!」
「バルカンで蜂の巣の身体よりも、目ェ痛いんか……目ェ、紫さんに診てもらおな?」
サムチャイと良夢は後衛まで退避し、紫が駆けつけた。
「治療に専念するわ!お兄様、防護を!!」
京は地に片手をつけ、もう片手で呪符を何十枚もまいた。
「急急如律令、呪符退魔!!」
呪符は円形に四人の周囲を囲み、防壁となった。
「こんなものは魔王がその気ならばすぐ破壊されよう!急げよ、紫ッ!!」
サムチャイは陰陽術に感心した。
「ほんに、エラい技使いはるなぁ……」
「良夢!?良夢!!しっかりして!!」
サムチャイと京が駆け寄った。
「どうした!相楽良夢ッ!?」
「紫さん?良夢ちゃん、身体より目ェ具合悪いん?」
紫は集中治療しながら答えた。
「元々視力が弱いみたいなんだけれど……彼女、目の色素が薄いのよ。緑のようなブルーのような……わたし達よりダメージが大きかったんだわ。」
サムチャイがボヤいた。
「せや!架無もどこぞのクォーターだから目ェ青かったで……アイツも今頃学園長室で苦しんどるんかな。とにかく、今は良夢ちゃん助けなあかんね……。」
学園長室では、案の定、架無が目を抑えていた。
「大丈夫かね?副会長の巴君、医務室へ架無君を案内出来るか?君も医療班だろう。」
「え。でも、今オペレーターが欠如しては、魔王戦どころじゃ……」
架無が手を振った。
「平気だって。途中で壁側向いたから。良夢の奴はダメかもな。」
炎武郎が瞬きし、そして悔いた。
「……そんなに目が弱かったならば作戦ミスだ。味方の負傷はわしの責任、せめて主砲をたたみかけて時間を稼がねばならん!!間君!!」
「これより主砲を発射する!屋上、ハッチ開け!」
「了解!ハッチオープン!」
屋上は開いて、下から主砲がせり上がってくる。
「主砲セットアップ!ターゲット、射程圏内、魔王!!」
「間先生、ヘッドショットで行けます!」
島田に間先生は応じた。
「難易度が上がるかもしれないが、目を狙ってくれ。相楽良夢がそれで一度退けたからな。」
「了解!……あれ、主砲?これ発射準備難し過ぎやしませんか?し、システムが開発途中なんじゃ?」
「なに?……学園長!」
炎武郎は頭をかいた。
「主砲は二人がかりのはずだが……誰だったか……」
会計長の信長がボヤいた。
「あん?主砲って起動処理俺じゃなかったっけ。二人いるなら俺じゃねーの?」
「会計長、しっかりしてくださいよ!」
「今しっかりやってる。島田は照準やっといてー。」
ピアノの魔王演奏より早いタイピングに島田がボヤいた。
「会計長見てると、プログラマーはなんか、人間離れしてるっていうか……」
「余所見すんなよ、起動処理完了、発射任せたぜ。」
「!はい!主砲照準、迎撃準備完了!目に当ててみせます」
間先生が怒鳴った。
「主砲!撃てェ!!」
凄まじい砲撃が魔王を襲った。
魔王がぐらつき、地震のように揺れた。
架無が慌てて止めに入る。
「おい学園長!学校の外部は民間人が大勢いて、アンタいくら娘を助けたくたって、この威力は不味いだろ!!」
「案ずるな架無君。学園エリアには霊子力がドーム状に重なって、魔王に破壊されぬ限りは物理のバルカンすら通さん仕組みだ!くわえて、主砲は寺を回ってコツコツ集めた遺灰と魂による霊子力兵器よ!罰当たりではあるがな、まず民間人にはただの灰に過ぎん!」
架無は目を剥いた。
「魂……?つまりありゃ、良夢の特攻何人分だ?」
「ミスリルこそ不足して使えないものの、魂五十人分を兵器に込めた威力よ!魔王とて無傷では無かろうてッ!!」
瀬ケ崎達が凍りついた。
炎武郎が訝しむ。
「よもや、無傷だったのか?瀬ケ崎君。」
「いえ……魔王、右目を損傷……早くも70%を再生中!校舎を見てます……俺達は、認識されましたッ!!」
戦慄が走った。
ここは戦艦でも何でも無い、校舎である。
回避運動は不可能。
「第七から第一までの防衛ライン!何分稼げる!?」
魔王が結界を超えて、校舎に腕を突っ込んだ。
窓ガラスが割れながら、教室が崩壊していく。
「魔王、防衛ラインをものともしていません!!やられた!下の階が……!!」
炎武郎が叫んだ。
「一階せり上げ!皆、落下に備えよ!!」
「ら、落下のGが……!!」
皆が根負けしている中で、信長がパネルを叩いた。
「クソ、落下死出来るかよッ!一階せり上げ、入力完了!早く来いよ一階ッ!!」
一階の教室がせり上がって学園長室を持ち上げ、再び主砲やバルカンのラインと繋がった。
「でかしたぞ信長君ッ!!主砲連続発射急げ!!二度目の生還は無いと思えッ!!」
「主砲照準合わせ!信長さん、弾込め!!」
「できてる!」
間先生が叫んだ。
「撃てェ!!」
二発目は顔に直撃。
「次弾装填!!」
島田と信長が息を飲む。
「パネル、操作効きません!!」
「なんだァ?屋上モニターを開示!……げ、主砲が握られてんぞ!!」
魔王は主砲を、軽く捻りちぎった。
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