第6話 紅兜 2
良夢は、火傷は堪えても、今は為す術なく。
倒れた。
「良夢ちゃん!」
「大丈夫です!ただ、起き上がっていては、斬り口から身体や首がもげますッ!!紫さんが来るまで、わたしの身体は使えないッ!!だから、裏技を考えましたッ!!」
サムチャイは炎武郎さんを安全な位置に降ろし、良夢に駆けつけた。
「裏技ってなんなん?ワイが紫さん呼ぶ?」
良夢は突拍子も無く真紅の日本刀をサムチャイに差し出した。
「怨霊には怨霊!アスカニさんの身体を貸してください!わたしは日本刀に宿った魂なんで、紅兜と似たようなもんです!わたしがアスカニさんを乗っ取りつつ半分こ!剣はわたしが、アスカニさんは電撃で!!」
サムチャイは驚いた。
「そんなんやれるん?良夢ちゃん自体が怪異みたいやん。貸すのはかまへんけど……。」
「やってみるしかないッ!!わたしのミスリルを握ってください!ぶっつけ本番で、行きますよーッ!!」
サムチャイが相楽守蘇芳之定を掴むと、ミスリルに良夢がいるのか、良夢の身体が力無く倒れた。
(聞こえますか!?紅兜来ます!!)
「へっ……」
サムチャイは勝手に身体が動いて、相楽守蘇芳之定で紅兜の斬撃を打ち払い、後ろに飛びすさった。
(今です!放電!!)
「え、あ、うん!」
サムチャイは静電気を紅兜に飛ばした。
「火……火ィッ!!焼くな!!儂の……ああああああああぁぁぁ!!」
紅兜が悶え出し、良夢が喜んだ。
(効いてますよ!!)
「変な感じやなぁ……良夢ちゃん、御手洗のこと考えとるの、どうにかならへん?なんか、覗き魔しとるみたいやし……」
(ハッハッハ!それは無理ですね!わたしもバトル前から猛烈にトイレを我慢してたんでッ!!)
「そうだったん?倒れた方の良夢ちゃん、漏らしとるんちゃうかな……。」
紅兜は荒ぶり、剣戟を繰り出した。
「よもや!よもや!!貴様は戦人かッ!!怨敵、怨敵鏖殺!!」
「わ、わ」
サムチャイは良夢が繰り出す相楽守蘇芳之定で剣戟に応じた。
炎武郎が叫んだ。
「サムチャイ君ッ!!良夢君の宿る刀に、電流を流しなさい!!紅兜は再生しても、感電を防ぐ能力など無かろうてッ!!」
もはや、剣戟は十合は続いていた。
(アスカニさん!!)
「静電気流すだけなら!!」
良夢の驚異的な成長速度、そしてサムチャイの電流剣が、二十合も打ち合うと、効いてきた。
感電で紅兜が刀を握れずに落とした。
「ぬぅぅぅぅッ!!」
(今だ!!肩を狙って深手を!!再生時間を稼ぐッ!!)
サムチャイは相楽守蘇芳之定で紅兜の肩に深い斬撃を食らわせた。
京と紫が走って来た。
「待たせたな!間先生を治すと紫がきかぬもので……対策は見つかった、俺と紫が討つ!!」
「京さん!紫さん!!」
紫は走り込み、紅兜から距離を取った。
「お兄様!!」
京は印を切る。
「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る!!」
京の術は、紅兜を戒め、一時的に動きを止めた。
「紫、破魔矢をッ!!はずすなよッ!!」
紫は焦りを堪えながら、弓矢の照準を合わせた。
「アーチェリーなんて子供の頃以来なのに。だけど、当てなきゃ皆殺られるッ!!」
元来、黒き花嫁は、巫女橙の直血。
最大級の破魔矢こそ、紫にしか成せないと言えよう。
「当たれッ!!」
凄まじい霊子力の破魔矢が跳んで来た。
邪気を祓う破魔矢は紅兜に直撃し。
閃光が走った。
「こういうの、普通見えひんはずなんやけど……」
「一度ミスリルに触れた貴方には、見えるのでしょう。霊子力とはきっかけから引き起こされる力です。……むッ!?」
紅兜は立ち上がった。肩に刺さった破魔矢を引き抜いて。
「肩だと……紫!何をしているッ!!」
「わ、わたしだって兜を狙ったわ!!かわされたのよ……!!」
紅兜はサムチャイに向かって刀を振りかぶった。
「お兄ちゃん!!」
「良夢ちゃ」
「お兄ちゃんを、返せーッ!!」
紅兜は、サムチャイの相楽守蘇芳之定の一閃を、胴体に受けた。
否。かわさなかったのだ。
「志乃……ぉぉお、志乃……お前、なのか……?」
志乃。
鬼柳十兵衛羽左衛門の末の妹にして、活発で愛らしい娘、良志乃は、戦の前に敵陣の武家に嫁いだ。
戦になると、十兵衛羽左衛門は、志乃の夫、滝之条を殺め。
志乃は、甲冑を纏い、最後の陣営を率いて、兄に立ち向かった。
兄様を返せ!
悪鬼羅刹より、我が兄を取り戻そうぞ!!
(アンタ、今なら妹を殺さなくて済む。)
志乃。
儂は、お前を殺めたかったのでは無い。
(戦が殺らせたんだろ。いい加減認めろよ、頑固親父。)
今更の平和に何があろうか
我が子らの犠牲の上で、安寧を得た痴れ者共よ
(アンタ達の犠牲があったから、目が覚めたんだろうよ。妹を見ろ。アンタ、良志乃さんに、報いや安寧は、いらねぇと思うか?)
……良かろう。退いてやる。
二度も志乃を殺めたくはのうてな。
「そうかい。」
しかし、安寧は許せる世にあらず。
怨、怨、怨
怨敵、鏖殺すべし。
「またの機会にな。羽左衛門さんよ。」
架無が紅兜を引き抜いた。
皆が呆然として見ていた。
「自力で……はずした?」
「お兄ちゃーん!!」
(ちょっ、良夢ちゃん!ワイの身体……)
架無はサムチャイ良夢が飛びついて来て、感電しつつ怒鳴った。
「いってぇ!おい良夢!アスカニを巻き込むな、デリケートな奴なんだ!自分の身体に戻ってから!俺からの拳骨もな?」
「ヒェェー!!今度はお兄ちゃんの鉄拳制裁ですかーッ!!」
「良、良夢ちゃん、ワイに百面相させへんで……。」
紫は少し微笑ましく見ていたが、当の良夢の置き去りの身体を見て青ざめた。
「良夢……貴方の身体、また死んでるんだけれど……。」
サムチャイ良夢が駆けつけた。
「あれ?魂が無いから死んでる……違う!出血多量、部分壊死!!こ、これはどうしたらッ!?」
紫が丁寧に良夢の身体を縫って治癒していく。
「良夢。きっと教訓になったでしょうけど、刀ってとても殺傷能力が高いのよ。わたしも生徒会や瀬ケ崎さん、間先生を治したから、前よりかは知識がついたけど……アスニと共闘はいい作戦だけど、肉体を簡単に離れてはいけないわ。魂って、人間の気力のようなもので、自然治癒力や、持ち堪える長さにも関与してくるのよ。」
「はいい!!迂闊でした!すみません!!」
良夢の遺体はどんどん肌色が明るく戻ってきた。
「ほえー。紫さんて、血液なんかも作り出すんですか?」
「そういうミスリルがジブリールだもの。医学部の卵だし、元々初めて出会った貴方も、死体だったわ。さぁ、相楽守蘇芳之定を貸して。」
紫が受け取り、良夢のミスリルを良夢の左胸に収納した。
「良かった……なんや、色々表情筋疲れた気ィするわ……」
「悪ぃな、アスカニ。良夢の汚ねーパンツとか忘れ去っていいからな。」
架無の言葉に、良夢は慌てて起き上がって下半身を確認した。
「あぁー!!我慢していた御手洗が!!失敗しているッ!!」
「マジ?バッチい奴だな……」
「死体になったら、そりゃあ……人は死んだら何もかも噴出するわ。目玉が収まった分、まともなのよ?」
炎武郎の腕のコンピュータが警報を上げた。
「!!」
全員凍りつく。
炎武郎が時計型のコンピュータのスイッチを押した。
モニターが投影される。間先生だ。
「まさか」
「はい、学園長……そのまさかです。校庭に魔王のゲートが湧いています。本日、教頭と副教頭がおりませんので、僭越ながら副官はわたし、古典教師、間英一が担当します。至急、学園長室に戻られたし!!」
架無は咄嗟に脚を失った炎武郎を背負った。
「学園長!現状の戦力連中は校庭へ、アンタは非戦闘員の俺が運ぶ、そんなとこだろ!?」
「うむ!すまない架無君、頼む!主力、相楽良夢君!サムチャイ君!紫と京は補佐に回るがよいッ!!わたしは学園長室につき次第、主砲発射準備に入る!!合図で魔王から離れなさい!!」
全員応じた。
「「はいッ!!」」
「各自移動!健闘を祈るッ!!」
校庭の大地には、漆黒の影が広がっていた。
否。これは、魔王のゲートである。
瀬ケ崎が生徒会室に駆け込んだ。
「各員揃っているか!?」
防衛部隊、生徒会メンバーが個々に席についている。 皆が皆、モニターを開き、キーボードより優れたパネルを操作していた。
「書記、島田魁時、待機!」
「会計、南野蓮叶、待機!」
「書記長、東城伊織、待機!」
瀬ケ崎拓海が見回した。
「会計長は?」
遅れて会計長が走って来て、席に着いた。
「わりーわりー!トイレ行ってたの!会計長、宮本信長、到着!」
「副会長、衿崎巴、待機。拓海。間先生は学園長室に。早く!」
瀬ケ崎は生徒会長席についた。
「各員、第一戦闘配備!!間先生、こちら生徒会室!学園長は?」
モニターから間先生が応じた。
「お越しになられた!生徒会、直ちにエリア移動の後、学園長室に合体せよ!!」
瀬ケ崎は告げた。
「各自シートベルト!エリア移動だ、信長、プログラマーだろ?上手くやってくれ!」
「任せときなァッ!!」
会計長のタイピングで生徒会室は校内をスライドし、学園長室に合体した。
司令官席には炎武郎、付き添いの架無と、副官間先生が立つ。
「学校、こんなことになってた訳ね……。」
「メインモニター開きます!」
メインモニターを見て、炎武郎は冷や汗を流した。
「来る……ッ!!」
校庭の良夢、サムチャイ、紫、京は、凄まじい風圧に堪えながら、見ていた。
ゲートから生えてくる巨人。黒き羊の角をはやし。黒き巨人が咆哮を上げた。
良夢は見上げながらボヤいた。
「二度目の……魔王戦だ……!!」
サムチャイが京と紫を庇った。
「京さんは紫さんを連れて、下がってくれへんかな。良夢ちゃんとワイが前衛を保つから、感電せぇへんようにな。」
「……かたじけないッ!!」
「良夢、アスニ!怪我したら下がって!治癒するわ!!」
京は魔王を見て考えた。
(相楽良夢の同じ特攻は効くまい。まだ未熟な彼らを支えるには……!!)
京は、その答えを知っていた。
猶予だけ。時間だけが、彼らには足りないのだーーー。
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