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Soul VS  作者: 燎 空綺羅
プロローグ
7/14

第6話 紅兜 1

 禍獄フィンセント京は、血塗れの瀬ケ崎を支え、妹、ヴァイオラ紫に告げた。

「ぇぇい!!紫、ここを頼むッ!!」

 瀬ケ崎が唸る。

「ぐっ……!俺に構わず……行ってください……!校内にはまだ、間先生や学園長が……ッ!!」

「何だと!?父上……!!母上を追うてくれるなよ……!!サムチャイ殿、相楽良夢ッ!!敵が何者かわからんが、力を貸してくれるかッ!?」

「行きます!!紫さんとお兄さんの、お父さんでしょ?助けましょうッ!!」

 サムチャイが振り向いた。

「でも、紫さんが一人なんは、危ないんとちゃうやろか?」

 京は札を飛ばした。

「犬神!!知らせを飛ばせ!!蠱毒!!紫の守りを!!」

 百鬼妖怪の類が現れ、良夢とサムチャイは唖然とした。

「なんやろ。見えるもんなん?こういうの。」

「首を斬られたわんちゃんに、なんかすごい蟲だァ!さすがにペットじゃありませんよね!?」

「俺の調伏した式神だ。紫に何かあれば犬神が知らせに飛び、蠱毒が戦って時間を稼ぐ。その時は自立で逃げよ、紫!」

 紫は瀬ケ崎の治療に取りかかりながら応じた。

「わかってる。それまでに瀬ケ崎さんも逃げられるようハイスピードで治療をするわ。皆行って。お父様をお願い。」


 禍獄炎武郎は過信はせずに退避した。

 現状、最も安全なのは特殊装甲に守られた学園長室だが、怪異となれば科学力は返って危険だ。

 霊子力ならば、出入口を封鎖されるぐらいはありうる話である。

「間君の最後の回線は二階のトイレか……ッ!!よもやとは思うが、あそこは花子の名所。あの怪異は見て見ぬふりを?間君の頼りは怯んだかッ!!」

 禍獄炎武郎は走って上手いこと避難エリアへ。壁のハッチを開けて、窓から脱出スロープをセットした。

「京と紫を残して死ぬよりかは、ぎっくり腰などやむを得なかろうて……」


 返り血は桜、宴もたけなわ

 盃傾け朧月夜に首が跳ぶ

 鬼の形相、羅刹が来たるぞ


 子ども達の唄う声に、息を飲み、炎武郎は振り向いた。

 霊障。

 じわじわと、刀を引きずり、歩いてくるのは。

 紅兜。

「紅兜。廃館の展示物、鬼柳十兵衛羽左衛門……悪鬼羅刹と成り果て、討伐された男、か。一体何処のイタズラ小僧が乗っ取られたのやら。退くに退けぬ……スロープをはずされればわしとてお陀仏よ。」

 紅兜は血まみれの刀をかざした。

「平和、安寧、何するものぞ。儂らの犠牲の上に成り立つ有象無象の痴れ者らよ。怨、怨、怨敵……鏖殺せよ。」

 紅兜の一撃を、転がり回避した炎武郎は、杖から隠し刀を抜いた。

 構えは古武術。

「この老体は霊子力も何も持たぬ禍獄の婿養子だが、幸いかな。獲物が同じならば一矢報いようぞ!足止めしてから退避あるのみよッ!!」

「憎し。首を晒せぇいッ!!」

 なんと炎武郎は怪異を相手に、剣戟を五合も打ち合った。

「やはりかッ!!古き武者ならば、近代幕末に進化した剣術を知るまいてッ!!剣聖柳生但馬守ならばわしとて遅れを取るやもしれぬが、紅兜は武家にあらず!ふふ、正しく人を斬るには、こうするのよッ!!!」

 炎武郎は紅兜の肩から胴体に斬込み、続く突きでマスクを割り、深手を負わせて退避する目論見であった。

 しかし。

 マスクが割れた下の素顔に、学園長たる炎武郎が怯んだ。

 校舎下からは、スロープを見て駆けつけた京らが、炎武郎に叫んだ。

「早く退避なさってくれ、父上ェェ!!」

 紅兜のマスクの割れ目からは、相楽架無が見えた。

「君は、相楽の……兄の、架無君か?そうか、わしがサムチャイ君を焚きつけた故……妹を守るべく、君は……!」

 その責任は、炎武郎にある。

 炎武郎にとって、自らの被害者の架無を、これ以上斬ることは、躊躇われた。

 大怪我をものともせずに、紅兜は炎武郎の両脚を斬り落とした。

「ヌゥッ!!しまった!!ぇぇい!脚などくれてやる!!この命無くば、子らを守れぬのでなッ!!」

 炎武郎は腕だけで窓を超えて、スロープで滑って離脱。

「子ら。……子……?」

 それは、紅兜が一時的に止まったから出来た猶予に過ぎない。

 首だけ跳んで、父の元に返ってきた、我が子ら。

 妻の傍らで惨殺されていた、末の子ら。

 とと様

 とと様

 仇を討って。とと様。

(良夢……逃げ、ろ……)

 紅兜は頭を振った。

「安寧の世の子らなど!儂の子らの犠牲の上に成り立つ痴れ者よ!怨敵、鏖殺せよ……首を跳ねェい!!」


 スロープから落ちた炎武郎が、両脚を失っているのを見て、京は青ざめた。

「父上ェ!!足が……ッ!!」

 炎武郎はやむなく、悲しむ京の頬をビンタした。

「気をしっかりせい、京!!今は悲しむ猶予は無いわ!!ただちに退避!!サムチャイ君、京を手伝ってわしを運んでくれるか?魔王を打倒するまで、死ぬ訳にはいかぬのでなッ!!」

 サムチャイは躊躇った。

「感電死せぇへんかな?」

「案ずるなサムチャイ君!わしとて禍獄の家長、移動中ぐらいは生きてみせようぞッ!!」

「信じるしかあらへん。ほんなら、ワイだけでお父さん運ぶよ。京さん、良夢ちゃん、敵の対応頼むで!」

 なんと、三階から紅兜は飛び降りた。

 見事な着地だが、もはや物の怪である。


 返り血は桜、宴もたけなわ

 盃傾け朧月夜に首が跳ぶ

 鬼の形相、羅刹が来たるぞ


 子ども達の笑うような声が唄う。

「怨敵、首を晒せぇいッ!!」

 良夢は我が目を疑った。

「えっ?」

 兄だ。

 あたかも鬼の形相だが、マスクの割れ目から見えるのは、間違いなく己の兄だ。

「架無殿?架無殿なのか……?貴方は、霊子力など、無かったはず……。」

 サムチャイは炎武郎を背負って告げた。

「炎武郎さん、死なんでな。ちょっと感電きつうなると思うけど!」

「うむ!采配はサムチャイ君にお任せしよう!!」

 サムチャイは放電し、紅兜から皆に距離を取らせた。

「距離を取るんや!あれは、おそらく架無があてにしてた七不思議、怪異・紅兜……!危険や、乗っ取られとる!!」

 京は動揺した。

「殺すしか無いのか?何か方法は?架無殿を取り戻せぬかどうか……ッ!!」

「京!あばばばば………」

 炎武郎は余りの電流に台詞が途切れ、慌ててサムチャイは静電気を落ち着けた。

「堪忍な、お父さん。」

「大丈夫だ……京よッ!!紅兜の生前にキーはあろうッ!!事実、紅兜は「子」という言葉に反応した!だからわしは逃げられたのだ!!相楽君は、わしの目論見の被害者……何がなんでも、架無君を取り戻し、紅兜を破壊すべしッ!!」

 サムチャイは炎武郎の言葉に、京や紫が重なった。

「血は争えん。やはり、お父さんなんやなぁ……。」

 良夢が気合いで復帰し、叫んだ。

「ならばッ!!情報集めは京さん、頼みますッ!!脳筋のわたしは、筋肉で勉強は出来なかったのでッ!!紅兜の相手、もとい時間稼ぎはわたしがしますッ!!元より、わたしのお兄ちゃんですからッ!!」

 京は良夢に、しかも兄と戦わせるのを、躊躇った。

「相楽良夢!未熟な貴様がどう時間を稼ぐ気だ!?しかも、自らの兄と戦わせる訳にはいかぬ!現段階、貴様の秘技、魂の特攻は周りがガラ空きになろうし、架無殿が死んでは本末転倒だぞッ!!」

「そこはわたしなりに努力あるのみッ!!事実、お兄ちゃんの獲物は刀、ならばわたしだって負けませんッ!!京さんは、わたしを信じて、わたしには出来ない役目をお願いします!!」

 京は良夢に頷き、刀の印を結び唱えた。

「五行を持って悪霊の魔手を退けよ、五芒星!そして不動明王に相楽良夢の保護を願う!おん まか きゃらや そわかッ!!」

 京の陰陽術で、良夢に幾重ものシールドが重なった。

「相楽良夢!その覚悟は既に認めている。だが、此度は小業の持久戦ぞッ!!思い切るな、耐えておれよッ!!俺は生徒会室に行く、後は堪えて待てッ!!」

「はいッ!!相楽良夢、行きます!!起動しろ、わたしのミスリル!!」

 良夢が左胸に手をかざし、日本刀の柄を掴んで引き抜いた。

 真紅の刀身、ツカは無し。

 良夢は刀を下に下げて構える。

「我が魂の剣、相楽守蘇芳之定よッ!!行くぞッ!!」

 紅兜は容赦なく叩き込む。

「怨敵、鏖殺!!」

 良夢は陰陽術のシールドを一つ壊されながら、転がり回避して下段から刀を振る。

 どうも、ミスリル起動中に迫っていたようだ。

 敵は待ってくれない、魔王だってそうだろう。

 良夢の剣は紅兜に弾かれて、二合といかずに、紅兜の刀が良夢の肩口を斜めに斬る。

「ヌゥ、損ねた……」

「うわあああああッ!!」

 良夢は咄嗟に距離を置き、グラつく肉を抑えながら防壁を確認。

「陰陽術のシールド……全部破壊されているッ!!今の一撃、どういう霊子力が……ッ!?」

 良夢の傷口は、スッパリ斬られていて、抑えていても肉が下がってくる。重力には逆らいようが無かった。

「筋肉が切断されて……クソ、頭が重い……!首が狙いだった、のか……!!このままじゃ、身体が取れてしまう……ッ!!」

 肉の重みでずり落ちれば、首まで落ちてしまいそうだ。

「これが、日本刀の業……!!」 

 紅兜がにわかに立ち止まった。

「お……ぉぉお……(なれ)、は……」

 良夢は霞む目で見上げた。

「はぁ、はぁ、はぁ……返せ!!お兄ちゃんを、返せッ!!」

 紅兜の記憶がフラッシュバックした。

 まだ、戦では無かった頃。

 妹が三人いた。

 末の妹は……。

「志乃……おぉぉぉッ!!」

 紅兜は頭を抱えてもがいた。

「……良……夢……!」

「お兄ちゃん!!」

 紅兜の志乃を思う苦しみから、架無が何とか抵抗した。

「斬れ……はや、く……長く、もたねぇ……」

「でも、お兄ちゃん!!」

 炎武郎が叫んだ。

「架無君は紅兜のうちは再生する!斬って時間稼ぎをしなさい、良夢君!!」

 良夢は片手で斬り伏せた。

「うわあああああッ!!」

 肩口から首を狙って斬る。今さっき学んだ、紅兜の業で斬った。

 深手を負った紅兜は、膝をつき、首が落ちないように再生に専念した。

「我が剣、盗んだか。然り、怨敵余りにも憎し……」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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