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Soul VS!  作者: 燎 空綺羅
プロローグ
6/14

第5話 稲妻VS大雷 2

 架無のオートバイは、まっすぐ学園博物館へ辿りついた。

 学園博物館。事故の多発により昭和59年に廃館。

 博物館跡がそのまま残った廃墟である。

 架無は、資料をめくりながら、内部を進んだ。

「学園七不思議、怪異・紅兜(あかかぶと)……なるほど。解体工事は皆が変死。こんな廃墟なのに、甲冑やら日本刀やら、装備までも飾っちまって。だからイタズラからの事故が多発すんだろ、馬鹿管理者がよ……。」

 目当ての兜は一番奥の展示部屋、七番目のガラスケースにあった。

 架無は懐中電灯で照らしながら、展示部屋を見回してゾッとした。

「オカルト七不思議がパチモンじゃなけりゃあ、と頼って来たが……やべぇな。この展示部屋は一式、甲冑や具足も紅揃いじゃねぇか。紅兜……誰かは知らねぇが、コイツの生前の品を丸ごと展示している……?」

 架無は紅兜の展示の名前を、埃を手で拭き取り、資料と照らし合わせた。

「鬼柳十兵衛羽左衛門……間違いねぇ。紅兜……。被った者を支配して人斬りと化す怪異。」

 架無は持ち前のレンチでガラスを叩き割った。

 兜からは、異様な気配がし、風鳴りか、呻き声のように響く。

「マジモンなら末恐ろしい話だが……要するに精神支配案件なら、脳みその奪い合い。俺と紅兜のどっちが勝つか、だ。ミスリルはねぇしな……」

 架無は紅兜を持ち上げた。

「やってやんぜ!待ってろよ、良夢!!」

 紅兜を被った架無は、雪崩込む記憶に驚く。知らないはずの過去、知らないはずの戦。

 架無は気づいた。

 頭に、脳に何か刺さっていく。

 針とチューブだ。

 ただの幽霊兜じゃない。

 からくり仕掛けがあったんだ。

「……クソ……聞いて、ねェぞ……ッ!!」

 脳裏に記憶が過ぎる。

 知らないはずの子供が囚われて泣いている。

 泣いているのは自分もだ。

 子供は、我が子らだ。

 村村は、戦の最中だ。

 敵陣は我らの皆殺しを辞すまい。

 とと様

 お逃げくだされ、とと様

 我が子らは、首だけ飛んで、父の元へと帰って来た。

 哀れ

 哀れ

 愛する我が子ら

 なにゆえ、理不尽に不憫な死を遂げねばならぬ。

 戦が悪いのか?

 人が、悪いのか?

 繰り返す憎しみの連鎖が、子らを殺めた。

 誰かが止められる悲劇なのか?

 否

 否……

 泣き疲れて、妻の居たはずの屋敷へ。

 せめて、末の子らを守る為に。

 子らの首を抱えて、火矢で燃え始めた屋敷を彷徨う。

 妻は、死んでいた。

 妻の周りには、末の子らの惨殺死体がある。

 妻は死してなお何者かに犯されながら、舌を噛み切って、もう生きてはいない。

 末の子らの涙は乾いてはおらぬ。

 とと様。

 とと様。

 仇を打って。とと様。

 儂がその時、悪鬼羅刹と化そうとも、一体何者が口を出せようか。

 涙は血に変わり、怒髪が角と化す。

 妻の死体を夢中で穢す兵を、背後から叩き斬る。何度も何度も、死んでも。

 憎し

 憎し

 子らを斬った武者を、戻って斬り殺し。

 戦の元凶の、殿もまた、恨めしい。

 憎し余って、呪わしく

 怨

 怨

 怨……

 今更の平和が何となろうものぞ

 我が愛しい家族は帰らぬ

 恨めしい

 子らの犠牲の上に成り立つ、平和の世など、呪わしい

 鏖殺

 怨敵

 鏖殺せよ


 返り血は桜、宴もたけなわ

 盃傾け朧月夜に首が跳ぶ

 鬼の形相、羅刹が来たるぞ


 形勢不利。

 まさかの、形勢不利であった。

 片や日本刀一本の相楽良夢。

 片や帯電稲妻体質のアスニ・サムチャイ。

 サムチャイはよく戦っている。

 だが、相楽良夢は止まらない。

 もはや、火傷は致死率の70%を超えている。

 剣術の腕を上げながら、本能的に学びながら。

 痛みが無い。

 人間では無い。

 違う。それはただの現実逃避だ。

 誰しも痛みがある。

「否!考えを投げるな!……有言実行の女なのだ。死ぬまで立ち向かうのみ……紫よ。お前が選んだ娘、覚悟だけは……尋常ではないぞッ!!」

 小雨が降ってきた。

 消耗の激しいサムチャイは、まさか、と、良夢に放電した。

「うっ!?うわあああッ!!」

 良夢は刀を突き立て電流を地に流す。

「放電の回りが速い……そうか!雨!水はやばいッ!!」

 小雨は土砂降りに変わっていく。

 サムチャイは声を上げた。

「良夢ちゃん!紫さんはシールドで防衛するように説くんや!!京さんは霊子力で防衛を!!」

「承った!!」

「うぅ、言う通りです!紫さん、シールド展開してこもっててくださいッ!!」

 良夢とサムチャイに、紫は叫んだ。

「もう辞めて!!良夢もアスニも、この雨では共倒れだわ!!」

 京が怒鳴った。

「黙って見届けよ、紫!!お前も黒き花嫁ならば覚悟を持て!!お前の命の為にぶつかり合う、この勇ましき二人の勇姿をッ!!」

 紫は、初めて実感を持って理解した。

 兄も。アスニも、良夢も。

 紫一人を守る為に、命をかけて戦っている。

 紫は、涙ながらに自分にシールドを展開した。

 自分が死んだら、皆が本末転倒なのだ。

 良夢を安易に巻き込んだこと。

 アスニに接して巻き込んだこと。

 兄の判断に、理解が至らなかったこと。

 紫は涙を拭い、覚悟を決めた。

「見届けるわ。けれど、絶対に二人とも死なせはしない。死んだってわたしが蘇生してみせる!!」

 サムチャイは、生命力が尽きかけながら、明るく笑った。

「今更やけど、ワイに天候が味方しはったなぁ!死にかけでもこんだけ雨が降れば充分や!」

 良夢も笑った。

「ハッハッハ!この雨は痛いけど、わたしには熱冷ましですよ!アスカニさんの電撃で、熱くて死にそうでしたからね!!」

 雨天の空には、雷すら鳴り出した。

「大した玉や、さすが架無が鍛えた妹やなぁ。良夢ちゃん、死合えて、楽しかったで……次から、全体攻撃になるけど、ワイの生命力もあと少し……感電勝負やんなぁ。」

「わたしが死なせませんよ、アスカニさん。先にそのミスリルを砕きますから!感電は防ぎようが無いけど、生命力はそれ以上削らせないッ!!次の一撃、勝負をつけるッ!!」

 サムチャイは優しい眼差しをした。

「まだワイも助けたいん?優しい子や……けど、生温いで。今度の放電、馬鹿にならん規模や!殺しにきぃへんと共倒れやさかいに!!」

 サムチャイはアーマーリングの指を掲げた。

「ワイの隠し玉や!願うたことが性能になってたら、やけんどなぁ!!」

 なんと空から稲妻がサムチャイに直撃した。

 凄まじい放電が雨水を伝って走る。

 京は目を剥いた。

「避雷針……!サムチャイ殿が発光している……だが、欠片でその電圧は!!」

 良夢は凄まじい感電で肉体を燃やしながら、紫に叫んだ。

「後は頼みました、紫さんッ!!アスカニさんの指、くっつけてあげてくださいね!!」

「え?良夢、あなた一体何を……!?」

 何をするつもりなの。

 紫が言う間も無く。

 相楽良夢は、日本刀を突きの構えに。

「行くぞ相楽良夢ッ!!相楽守蘇芳之定よ、わたしの魂ごとッ!!突き抜けろ!!特攻だァーーッ!!!」

 良夢の突きは、本能としか言えなかった。

 突きから飛んでいく、真紅の矢の如き。

 彼女の、魂の特攻。

(良夢の本領は、これだわ。咄嗟にわたしを助ける為に特攻した、突きの一撃。誰から学んだでも無く、この子は……なんて子なの……!)

 相楽良夢の魂の一撃は、サムチャイの指一本どころか、何本かかすめて吹っ飛ばし、相楽守蘇芳之定は、校庭の隅に落ちて行った。

 相楽良夢の肉体もまた、倒れた。

 抜け殻になったといえよう。

「うがあぁぁぁぁあッ!!」

 ミスリルの防御膜を失ったサムチャイは、燃えだした。

 人間の身で雷を帯電していたのだ。

 紫が真っ先にサムチャイの胸に飛び込んだ。

「ああああああああぁぁぁッ!!!」

 紫も、サムチャイごと焼けただれていく。

「あ、あかん!!紫さんッ!!離れて……ッ!!死んで……まうよ……!!」

 しかし、次第にサムチャイも紫も、痛みを緩和していく。

 紫によって、ジブリールの双翼が、二人を覆っていた。

 腰から伸びた双翼は、全開に翼を広げて。

 あたかも、治療カプセルのように。

 紫もまた、覚悟で成長していたのだ。

「紫さん……これは……新しい、技なん?」

「わ、わたしだって……やる時はやるわ。良夢が後を任せた。アスニは、わたしが絶対に死なせないわ。……貴方達って、本当に困った人達よ!優しくて命懸けで!こんなの、わたしの気持ちがおさまらないじゃないの!!」

 まだ、二人共感電している。

 サムチャイは、紫をそっと押し退けた。

「ごめん、紫さん。感電も、紫さんの心も、痛かったやろうに。もう、雷は下へ流れとるよ。現段階の感電は、ワイのいつもの静電気やから……触ったら、いけへんよ。」

 紫は少ししか離れず、悲しそうに見上げた。

「まだアスニの指の治療があるわ。だいたい貴方、だいぶ内向的だけれど、お友達だって貴方を静電気で嫌ったりしないのではなくて?自嘲するようなことじゃない、事実、貴方の特技は強かったのだから……。」

 サムチャイは照れて、はにかみ、何となく後退した。

「下がらないで、わたしと指を探して、アスニ!貴方が終わらないと良夢も死にっぱなしだわ!!」

「あぁ、ほんまや!せやったね、急ぐよ!」

 京は、相楽良夢が治療されるまで、あえて良夢のミスリルには触らなかった。

 霊子力ある京が触れれば、所有権は変わってしまうだろう。

 サムチャイの治療が終わると、サムチャイはゴム手袋をして良夢の魂の入った日本刀を運び、紫はボロボロの良夢の肉体を治療した。

 良夢は日本刀を胸に収容すると、呑気に笑って起き上がった。

「何とかなるもんですね!筋肉で止まない雨は無しッ!!」

「貴方、少しは躊躇ってちょうだい。そんなに楽観的に魂を射出してはいけないわ。」

 京が歩み寄った。

「なんという女だ、相楽良夢……。相打ちと言えど、それはサムチャイ殿を生かすための相打ち。敵までも助けて、命を放つ……まだ実力こそ未熟なりに、認めよう、その気概、その覚悟ッ!!」

「紫さんのお兄さん……!!押忍ッ!!わたしが紫さんを、守って見せますッ!!」

 良夢に京は怒鳴った。

「気概と覚悟を認めただけだ!思い上がるなよ、相楽良夢ッ!!一々魂丸ごと射出されては、魔王に対して紫が完全にノーガードだ!!今のままではならん……成長しろ!!」

 良夢は軍隊みたいに敬礼。

「は、はいいッ!!確かに今の段階では射出だけ、わたしはまだ未熟だッ!!」

 そこに、血塗れの人影がやって来た。

 肩を抑えた生徒会長、瀬ケ崎拓海だ。

 すごい出血で、来た道に血の跡が残っている。

「京さん……!生徒会、壊滅状態……鬼が、来る……ッ!!」

 瀬ケ崎拓海が倒れ、京は素早く抱えた。

「瀬ケ崎ッ!!何があった、瀬ケ崎ッ!!」


 一方、学園長室では。

 モニター越しに息子と娘を見ていた禍獄炎武郎が、怪訝な顔でボヤいた。

「生ぬるいわ、京よ……いまの娘には魂の射出しか手段は無し。紫が一段階成長したは良いが、まだまだ、ミスリルを相楽良夢に託すのは早い。魔王がいつ到来してもおかしくは無い現状で……!」

 間先生が回線を開いた。

「申し上げます。」

「どうした!」

「瀬ケ崎拓海率いる生徒会の防衛網が突破されました。お逃げください、禍獄学園長!」

 炎武郎は驚愕した。

「何ィ?わしなどを狙っても霊子力の欠片も満たされまいに。……魔王では無かろう。何が起きている?」

 間先生は叫んだ。

「紅兜です……鬼が、来る!!」


 紅兜は、血塗れの刀を引きずり、紅の甲冑に身を包み、じわじわと間先生の逃げたトイレに進んだ。

 地縛霊の花子は、身をすくめているのか、ぶつかりはしない。

「!!」

「平和の世とて、呪わしい……」

 間先生の個室の前で、紅兜は刀を一閃。

「鏖殺。怨敵、鏖殺せよ。」

 ドアが空き、間先生が倒れた。


 返り血は桜、宴もたけなわ

 盃傾け朧月夜に首が跳ぶ

 鬼の形相、羅刹が来たるぞ

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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