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Soul VS  作者: 燎 空綺羅
プロローグ
10/14

第7話 兄の矜恃 2

「主砲が……」

 相楽良夢が飛び出した。

「背後に隙ありだッ!!相楽守蘇芳之定よ、斬り落とせ!!紅兜流、袈裟斬りッ!!」

 相楽良夢は魔王のうなじを斬りつけて、生える大勢の手を無視して一撃離脱。校舎に叫んだ。

「学園長、バルカンお願いしますッ!!あの犠牲者の手は困るんで!!」

 炎武郎は叫ぶ。

「来てくれたかッ!!魔王うなじの手にバルカン射出!!良夢君の援護に回れッ!!」

「了解!!」

 架無は咄嗟にモニターを見た。

「良夢の奴、どうやってこの高さに……!?」

 離脱していく良夢の足場は、なんと京の式神、犬神や蠱毒である。

 しかし、確実に二階分は自力で跳んでいる。

「気をつけよ相楽良夢ッ!!式神が殺られれば落下死のみぞッ!!」

「京さん、心得たッ!!アスカニさん、放電ください!もう一度電流剣行きますッ!!」

「感電も危ないんやけど、言ってられへんな!」

 サムチャイが放電して、良夢は相楽守蘇芳之定で受けた。

 魔王が振り向いて良夢をたたき落としにかかる。

「式神を上げるぞ!足場にして跳べッ!!」

 良夢は式神から式神へ跳びうつりながら再び跳躍、斬りかかる。

「うおおおおぉッ!!逆袈裟斬りッ!!」

「あいつ……紅兜から、学んだ?……へっ。」

 架無が飛び出した。

「架無君!!」

「いざとなりゃ紅兜だって戦力だろ?俺は校庭に行く!」

 炎武郎は頷いた。

「……頼むッ!!バルカン、良夢君の支援、続いて架無君の支援、やれるか!?」

 架無は走り去り、瀬ケ崎拓海が叫んだ。

「やるしかないでしょ!?俺達が下手打てば、皆死ぬじゃないですか!!」

 良夢は二撃目も一撃離脱に成功。

 再び式神の上を跳んで、火傷で相楽守蘇芳之定を落としかけて、すぐ掴み取る。

 紫が叫んだ。

「良夢!!一度治療に戻って!!貴方、目だって充分に治ってないのに、火傷してバルカンを受けて……!!」

「大丈夫ですッ!!逆に、今踏ん張らないと、学園長もわたし達も突破されるッ!!」

 サムチャイは見抜いていた。

 魔王には、どの攻撃も一時しのぎでしか無い。

 どこまでも再生してしまう。

 だが。

 勢いだけで、良夢は押し返している。

 魔王の動きを、食い止めているのだ。

 良夢の三撃目が再び魔王の首を斬りつける。

「うおおおおぉッ!!」

 しかし、なんと魔王は首の両サイドから腕を生やし、良夢を掴まえにかかった。

「腕が!二本増えた……ヤバいッ!!」

 良夢は叩き落とされた。落下中に、京が飛ばした式神に掴まって、なんとか落下死を避けた。

 架無が走って来た。

「良夢!俺が魔王に斬りかかったら、俺からも逃げろよ!!今のうちに下がって回復、いいな!?」

「お兄ちゃん!」

 架無が紅兜を被っても、紅兜はただ、嗤うだけだった。

「はははははははは、はははははははは」

(てめぇ!笑ってる場合か、戦えよ!?)

「憎し、子らの犠牲の上に成り立つ安寧の世に……見込みのある魍魎がおるではないか……?」

(皆殺しにされろって言いてぇのか、アンタ。)

 紅兜は刀を二等分の位置に持ち、グラつかせた。

「拮抗。平等。依代よ、貴様の習った戯言だ。戦乱に生まれ犠牲になった儂からは、安寧の世など、この魍魎に壊されるが、余程平等であろう?」

 架無は紅兜と繋がっている。

 だから、わかる。

 今の平穏が、彼らの犠牲から成り立っていて、彼の憎しみが、この世の多岐に渡ることも。

「だが……いいのか?良志乃さんを再び見殺しにして、アンタはそれでも安寧の人々を、鏖殺したいのか?」

「!……貴様!儂の記憶を盗んだかッ!?」

 良志乃。

 末の妹、志乃は、夫を殺めた羽左衛門に、軍勢を率いて挑みーーー。

 素晴らしきかな、志乃の剣。

 違う!

 鍛え抜いた甲斐あって、夫以上の猛将よ。

 そうでは、無い!!

 儂は、お前を殺めとうて、鍛えたのでは無い!!

 紅兜は凄まじい形相で事態を睨んだ。

「なにゆえ、志乃は魍魎に挑むのだ。勝てなかろう。志乃だけ逃がせば良い。」

「そうもいかなくってなぁ?アイツは、誰も死なせたくねぇんだ。あんな大火傷して戦って、俺の知るアイツは鋼の意思でよ。アンタの知る良志乃さんも、そうだろう?」

 良夢は魔王の腕が紅兜をすり抜けて追ってくるので、最後の手段に出た。

「喰らえッ!!肥やし玉だァーッ!!」

 良夢が事前に丸めていた汚いパンツを投擲すると、魔王の手が怯んで引っ込んだ。

 その期を逃さず、紅兜は魔王の手を一本、両断す。

「お兄ちゃん……!」

「下がれ志乃!我が子らよ、怨敵、抹殺ぞ!!」


 返り血は桜、宴もたけなわ

 盃傾け朧月夜に首が跳ぶ

 鬼の形相、羅刹が来たるぞ


 子ども達の唄う声。

 架無はようやく、見え始めた。

「あぁ。アンタの力には、子供たちも味方してんだなーーー。」

 紅兜跳躍す。

 一刀両断、魔王の腕はこれにて二本斬り落とされた。

 返す刃で迫る三本目を斬り払い。

 再び跳躍した紅兜は、遥か三階は飛び越えている。

「恨め、憎め、この鬼柳十兵衛羽左衛門をッ!!それだけが我が糧、我が正道よ!!」

 紅兜の剣は、なんと魔王の首を真ん中まで深々と斬り裂いていく。

 学園長室で、皆が息を飲んだ。

「ミスリルを使わずに、ここまで……!」

「紅兜……殺ってくれるかッ!?」

 その瞬間。

 魔王と紅兜を、一輪の輪が囲んで回った。

 手を繋いだ、女や子供たち。


 かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ?


 紅兜の真後ろの子供が、ピタリと止まる。

「?……。」

(危ねぇ!アンタ、わかんだろ、アイツの名前!!)

「名……?真新しきわらべ唄か?」

 真後ろの子供は漆黒の稲妻となり、紅兜を背後から襲った。

 紅兜は火を恐れた。

 戦火。

 屋敷を燃やす火。

 子らを、焼き尽くした、火。

「おぉぉぉ、おぉぉぉ……燃やすでない……儂の子らを、燃やすでないぞ……!!」

 落下した地点は、屋上近くから。

 紅兜がこの様では、架無は。

 炎武郎が叫んだ。

「架無君ッ!!」

「行けッ!!相楽良夢!!棒高跳び(棒抜き)だァーッ!!!」

 落下寸前の紅兜こと架無を、相楽良夢がすかさずキャッチした。

「おぉぉぉ!触るな良志乃よ!燃えてしまう……死んで、しまうぞ……!!」

 良夢は紅兜に微笑み、校庭に降ろした。

「ありがとう、お兄ちゃんも、紅兜さんも。治療完了しました、わたしが行きます!!」

 相楽良夢は再び魔王と対峙した。

 紫が、良夢の傍についた。

「紫さん。わたしが出て行ったら、わたしを呼び寄せて下さい!」

「危険だけれど……やってみるわ。わたしのジブリールには、貴方を蘇生する作用がある。」

 京とサムチャイが走ってきた。

「何をする気だ、相楽良夢!?」

 良夢は笑って見せた。紫も、微笑んだ。

「わたし達だけの、必殺技だわ。」

「要は、死ななきゃ良いって話ですよ!」

 良夢は突き技の姿勢に構えた。

 深手を負った魔王ならば、狙いははずしようがない。

「相楽守蘇芳之定よ!我が魂を乗せて!!貫いて戻れッ!!相楽式ブーメラン特攻!!うおおおおぉッ!!!全身全霊ーーーッ!!!」

 良夢が相楽守蘇芳之定と化して、真紅の矢の如き一撃が、魔王の首を穿つ。

 相楽守蘇芳之定は、弧を描いて、戻ろうとしている。

 紫が、倒れた良夢の両手を掴み、双翼のジブリールを広げ、祈っている。

 紫が、良夢を呼んでいるのだ。

 二人にしか出来ない。

 この、二人にしか。

 京は理解し、叫んだ。

「行けッ!!相楽良夢ッ!!!貴様達は……強いッ!!!」

 弧を描いて戻ってきた相楽守蘇芳之定は、背後から魔王の首を穿ちーーー。

 魔王は、ついに首が落ちた。

「殺った……?」

 学園長室もまた、静まり返った。

「霊子力、感知無いか!?」

「計測中です!」

 相楽良夢は、紫によって身体に戻され、二人で立ち上がった。

「首は、落とせた……!」

 紅兜を抱えた架無が走り寄った。

「殺ったのか!?」

 サムチャイが見逃さなかった。

「いかん!皆、伏せェ!!」

 サムチャイが咄嗟に覆いかぶさって、良夢、紫、架無は伏せられた。

 代わりにサムチャイが背中をやられた。

「うがァァァァッ!!」

「アスカニッ!!」

 学園長室では生徒会メンバーが騒然としていた。

「霊子力感知、計測不能!!」

「これ以上の負荷は……きゃああッ!!」

 パネル傍の計器が爆発し、副会長衿崎巴が身を庇った。

 メインモニターを見て炎武郎は言葉を失った。

 魔王は、失った腕を生やし、新しい頭をも、生やしていた。

 浅はかであった。

 例え、京がミスリルで応戦したとして。

 この、化け物には……。

「わしの責任よ。浅はかな計画であった……校庭にメインモニター開示!!」

「メインモニター、展開しました!」

 炎武郎は叫んだ。

「全員、退避せよ!!わしが残って対応すれば、自衛隊が動き、民間人は各シェルターへ誘導される!!この禍方区はブロック区域になり、魔王の第一次対策は始まろう!!さぁ、生徒諸君、そして我が子らよ、逃げなさい!!」

 禍獄フィンセント京が叫んだ。

「父上!諦めるな、我が父よッ!!」

 京は魔王に向かって歩いていた。

「京……!?な、何をしている、京ッ!!」

 父、炎武郎は狼狽えた。京は真っ直ぐに応じ、歩んで行く。

「女に劣るとはいえ、俺は禍獄の男です!女は十六年、男は最大五ヶ月……俺は未熟な陰陽師ですから、せいぜいが三ヶ月!京は贄となって、魔王を鎮めましょうぞ!」

 良夢が駆け寄って、京にしがみついた。

「ダメだァッ!!京さん、そんなのダメだッ!!生きて、紫さんの力に……!」

 京は厳しく相楽良夢の頬を引っぱたいた。

「綺麗事で紫が救えるかッ!相楽良夢ッ!俺は貴様を信じた!!だから、時間稼ぎに死ねるのだぞッ!!相楽良夢!貴様は強いッ!!足りなかったものは、成長するまでの時間のみ!!故に、俺は逝く!信じろ相楽良夢!!俺を!何より、己を、信じろ!!」

 相楽良夢は起き上がり、涙を拭いて、堪えた。

「……ならば!わたしも京さんを、信じますッ!!紫さんは、わたしが守りますッ!!全身全霊を持って、わたしが守るッ!!!」

 京は柔らかに微笑んだ。

「それでいい。俺の作る三ヶ月、死ぬ気で鍛えよ、相楽良夢よ。妹を……頼んだ、ぞ。」

 紫が走ってくるのを、良夢が押さえつけて、引き離した。

「紫さん。ここから先は、行かせない。」

「嫌よ!!お兄様ァッ!!!離して、良夢!離してェッ!!」

 京の霊子力を感知し、魔王は手の平に京を乗せてすくい上げた。

「紫。俺の一生は、お前の為に養われたもの。これは、俺の、俺だけの!譲れぬ、兄の矜恃だ!黙って堪えよ……。戦いを乗り越えて、長生きしろよ、紫。」

 炎武郎は泣きじゃくった。

 必死に抵抗し、支離滅裂な指令を出した。

「京ォッ!!死なせぬ!!我が子を死なせるものかよッ!!バルカン射出、撃ち落とせェッ!!」

 生徒会は狼狽えた。

「学園長……。」

「いま、弾幕を張れば、魔王の気分次第で、校舎の俺たちは……。」

「黙れ小童!京を死なせて、生きられるものか!バルカン……」

 炎武郎は引っぱたかれた。

 間先生の平手打ちだった。

「目は、覚めましたか?わたしは左遷でも首でも構いません。どうか、生徒諸君を思いやってください、学園長。」

 炎武郎は正気を取り戻し、告げた。

「……すまぬ。それが、学園長たりえるわしの使命だ。間君よ、よくぞわしを止めたな。」

 架無がボヤいた。

「兄の矜恃、か……。」

 架無は自然と敬礼した。

 別に、かしこまった軍隊にいる訳でも無いのに。

 サムチャイもまた、敬礼した。

「泣くのは、後にせな、なぁ……京さんが、堪えてまうからなぁ……。」

 相楽良夢も敬礼した。

 京は皆に敬礼で応えた。

 炎武郎は、泣きながらではあったが、敬礼しながら叫んだ。

「わしの誉れ高き愛息子よ!京よ……!!魔王をしっかり、足止めせい……お前の意思は、わしが受け継いだ!!」

 京は父に向かって囁いた。

「父上……親不孝をお許し下さい。京は、先に逝きます……。どうか、紫を」

 京は、それっきり。

 魔王に飲み込まれて。

 消えた。

 魔王は、この激戦で消耗した力を、京から吸収したいのか。

 大人しく、影の中に鎮められていく。

 ガラ空きになった校庭。

 一人だけが、失われた、日常。

 紫が叫んだ。

「いやあああああッ!!お兄様ああああああああぁぁぁッ!!!」


 その頃、禍獄の屋敷では、度重なる地震で葛葉が皿を落とした。

「嫌だねぇ。せっかく料理が出来上がるって時に……」

 葛葉は兄妹喧嘩の仲直りを祝おうと、ご馳走をこしらえていた。

 さっさと割れた皿を片付けて、京の特別な丼もしっかり磨いた。

「京坊ちゃんはもう何年、この丼を愛用してきたことやら。割れたのが他の皿で本当に良かった。」

 外は、再び雨が降り始めた。

「不安定な天気だねぇ。」

 葛葉は、窓から道を眺めた。

 傘をさして、長靴で水溜まりを蹴り飛ばす遊び。

 幼い京が、小さな紫に教え込む様が、昨日のことのように甦る。

 葛葉は思い出に浸り、笑った。

「仲良しが、一番だ……早く帰っておいで、二人とも。」


 雨水は、まるで紫の涙だった。

 紫の泣き叫ぶ声に、良夢は、サムチャイは、無力感でいっぱいになる。

 京さんが与えてくれた、三ヶ月。

 強くならなければ。

 紫さんを支えなければ。

 今は、泣いてられないんだ。

 強くならなければ。

 わたしが、強く。

 架無が軽く、良夢に拳骨した。

「お……兄ちゃ……」

「馬鹿野郎。一人で、人間の死を背負ったりすんな。泣くことだってお前のバネだ。思いきり泣けよ。雨が、面を隠してくれるうちにな。」

 京さんは。

 泣くななんて、言わなかったな。

 相楽良夢は、大声を上げて泣いた。

「うわあああああああああああぁぁぁッ!!うわあああああああああああああぁぁぁッ!!!」

 強くなりたい。

 今度こそ。

 皆を守り切れる強さを。

 どうしたらいい?

 教えてよ。

 京さん、教えてよ……!!


 プロローグ 完

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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