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Soul VS  作者: 燎 空綺羅
プロローグ
4/14

第4話 黒き花嫁

 生徒会室の奥。

「こちらをお使いください。」

 京に譲り、現生徒会長瀬ケ崎が席を外した。

「我ら、禍獄の家が、どうして明治の世から華族侯爵家を存続して来たか……一般には、謎でしょうね。」

 サムチャイは真面目に聞いたが、架無は嫌味に感じた。

「その爵位の自慢話が関係あんのかよ、禍獄さん?」

 京は振り向いた。

「関係があるから、申しています。古来、邪馬台国で卑弥呼女王は狗奴国(くなこく)の神官王、狗古智卑狗(くこちひこ)を打ち倒しました。その後、狗古智卑狗は敵国の神として封じられますが、弥生時代が終わると、封印の太刀打ちが出来なくなりました。卑弥呼程のたぐいまれな巫女は、現代までも生まれてはおりませんから。そこで、大多数の人身供養が始まります。平安京では、安倍晴明を温存したいあまりに、力ある陰陽師の子息達や、平民の子らを。一度に三百人は狗古智卑狗に捧げられる……。戦国では徳高い僧侶達を。それぞれの有識者達は気づき始めます。生贄には、霊験あらたかなものを絞り込めば犠牲を減らせたのです。イタコ然り、陰陽師然り。」

 架無が反抗した。

「てめぇ、イカれたオカルト話がしてーなら、オカルト同好会でも相手にしてな。」

 サムチャイが諌めた。

「まぁ、聴き。神話と変わらん、人身供養の神は、マヤやアステカと似た話やで。良い神か妙な神かだけの違いやし、オカルト信仰かて、信仰から犠牲者は出るんや。最後まで聞いてみいひんと、紫さんに何が起きたか、わからへんよ。」

 京は苦笑した。

「サムチャイ殿の理解力に感謝致す。架無殿よ、そのイカれた俺達禍獄家が責務を投げていたら、今日の日常は無かったでしょう。話の続きですが、勿論、戦国まで来たら、狗古智卑狗討伐に挑む武将達も大勢おりました。ですが、その時代には、狗古智卑狗はすでに狗古智卑狗では無く。何千の人柱を取り込み、八百万の神にまで食指を伸ばして喰らい、新しい何かに成り代わっておりました。かつて織田信長は、神を名乗る武将への切り返しに、ジョークを含めて、愛欲を司るカーマ神、つまり第六天魔王を名乗りました。だが、時を経て、かつて狗古智卑狗であった新しい何かは、信長でさえ魑魅魍魎の長、魔の王としか呼称出来ませんでした。人間が刀や火縄銃で太刀打ち出来る存在では無かったのです。そこで活かすは、知恵しかありません。より長い平穏、より少ない犠牲。そして、戦の未来予知を行っていた、霊験あらたかな旅の巫女、橙が、犠牲の最少数に選ばれました。女一人で何百人相当の僧の力に匹敵し、それによって日の本が救えたからです。彼女が、俺達の先祖である禍獄の始まり、橙です。橙は禍獄の家名と大名の身分を与えられ、子を生んでから、人柱に。橙の子孫、禍獄の女は、ハイスピードで出産し、増殖し、死する運命(さだめ)が、国から与えられました。十六年に一人捧げられる。逆に言えば、禍獄の血筋の女は、十六年も魔王を鎮め、安泰を得られる、強力な霊子力を持ちます。徳川の世、幕末、そして明治からは、明治天皇自らが禍獄に爵位と神社を与えられたのです。禍柳の鎮嫁神社には……禍獄の、黒き花嫁達が祀られる。現代、禍獄の子孫は減少し、叔母の後、俺の、母も……そこに祀られております……!」

 京は魔王への憎しみを堪え、眉間に苦痛を表し、唇を噛んだ。

 架無はイラついた。

「つまり、次は紫さんが、禍獄の黒き花嫁で……京さんのオバハンやオカンの、二の舞ちゅう話でっか?」

「信じるのかよアスカニ!?」

 サムチャイは紫の力を思い出していた。

「口封じされとんのに、話すんは薄情やけどな。言わんと、架無にはわからへんやろ。紫さんは、ワイの静電気で瀕死になった雛を治療した人やで。あん人の異能は、もうこの目で見とるんよ。あない優しい子、犠牲なんて嫌や。ワイが……ワイの帯電で、その魔王、退治出来たりしいひんのですか?」

 架無は半信半疑だが、大人しくなった。

「異能……昼飯ってお嬢様の、禍獄ヴァイオラ紫とか?アスカニは嘘つかねぇし……」

「話はここからが本題です。ご好意はありがたい。ただ、残念ながら、サムチャイ殿が命懸けで挑んでも、魔王には対抗出来ません。軍隊だって世界だって対抗出来ない。核兵器など人々を殺し尽くすだけで、異能の魔王にはおもちゃでしか無い。しかし、我が父炎武郎は、母の死から不屈の闘志で立ち上がりました。世界中のツテを駆使し、イギリスから支援金を経たれてドイツに鞍替えしていた、ミスタリレ社を知ります。ミスタリレ社が開発中であった新金属兵器に目をつけ、莫大な投資をします。そうして、二つの新金属兵器が誕生しました。我々はトールキンの指輪物語から名前をとって、これらをミスリルと呼んでいます。ミスリルは、思念AIを搭載し、持ち主の特性から形態が変わります。これが、ミスリルの欠片です。ふたつあったミスリルは……ひとつは、我が妹紫が装着し……」

 サムチャイは紫の折りたたみ式の翼の装備だとわかった。

「あれが、ミスリルなん……?なら、もう1つは?」

 京は目を伏せた。

「昨日。学園に避難放送があったかと存じます。定められた魔王の目覚めの日でした……俺は女に劣るとはいえ禍獄の血筋、それなりの霊子力があります。此度こそは因縁を断ち切るべく、俺と紫でミスリルを持って魔王に対抗する手筈でした。しかし、イレギュラーが……昨日の早朝に亡くなった、相楽良夢殿です。」

 架無がボヤいた。

「まさか、アイツが生き返ったのは……」

「ミスリルは、霊子力の無い一般の方には扱えませんが……相楽良夢殿は、死んだ自覚が無く、魂が学校に登校しており……俺は、そういった者が見えて触れてしまいます。生きた人間と、見分けがつかぬほどに。角で俺と彼女はぶつかって、お互いに鞄を落とし、相楽良夢殿は俺のミスリルの入った鞄を、自分のものと間違えて走り去った……俺は探し回りましたが。魔王には紫と彼女が応戦し、相楽良夢の魂はミスリルと同化して、魔王の片目を貫いて飛んでいき……魔王はこれに驚き、一旦退路を取ったらしく。そこからは、紫が彼女を庇い、魂のミスリルを死体に埋め込み、相楽良夢を蘇生。皮肉にも彼女の新しい命となったミスリルは、本来ならば、魔王打倒の最終兵器なのです。」

 架無はため息が出るほど妹に呆れたが、だからといって見放す訳にも行かなかった。

「……確かに良夢は筋肉馬鹿だし、楽観視して事態を把握出来ちゃいねーよ。でもな。ようは良夢が魔王退治出来れば……生きてたっていいじゃねぇか。」

 サムチャイは静かに尋ねた。

「架無の気持ちはわからんでも無いんやけど、良夢ちゃんは元々事故死してて、今だって死体なんとちゃうか?」

「否定はしねぇよ。血が流れちゃいるが、ゾンビと変わらねぇし。死んでる時に霊安室で対面もしたぜ。肌は死体の真っ白さで、脈も無かったからな。」

「なら、生きている紫さんを真っ先に守りたい京さんの複雑な気持ち、おかしくは無いんとちゃうやろか。元々京さんがミスリルを使えたら、魔王に勝機はあったんやろ?京さん、紫さん単体では、勝ち目はあるんかな。無いからワイらに話に来たように、思えるんやけど。」

 サムチャイに、京は悲しそうに頷いた。

「先程お話したように、ミスリルは思念AIが、持ち主の特性に合わせて形態を変える仕様です。性能も、持ち主次第です。紫は気が強い節はありますが、あくまで優しさで行動を決める娘……その為、戦闘型では無く、治療特化なのです。狙われるのは紫ですから、常に装着させてはおりますが……」

 サムチャイは頷き、告げた。

「そのミスリルの余った欠片、ワイに使わせてくれへんやろか?」

「アスカニ!?」

 サムチャイは架無に言い聞かせた。

「ワイが挑むよ。良夢ちゃんには、普通に身体能力なら到底勝てへんけど、静電気で挑んでみるわ。ワイが良夢ちゃんの力を試せばええんやし、欠片だけで攻撃手段があるのは、ワイくらいや。架無が良夢ちゃんの助太刀に間に合うように、タイミングは架無に合わせよう思っとるよ。良夢ちゃんが勝てば良し、そんなら、良夢ちゃんが魔王を倒せばええ話や。けど、良夢ちゃんが勝てなくば、紫さんだって共倒れしてしまうんや。そん時は、京さんにミスリルを返すべきとちゃうんか?」

 架無は妹だけじゃなく、サムチャイを心配した。

「馬鹿野郎!良夢だけじゃねぇ!お前が命懸けで放電する義理なんかねぇだろ、アスカニ!?」

 サムチャイは微笑した。

「紫さんは、ワイが守りたい人なんよ。ワイが死んでも、幸せな人生を送って欲しい人や。架無だって、妹ちゃんを、はいそうでっかと死なせられる問題やあらへんやろ?京さんだってせなんや、皆譲れへんよ。京さん。架無の側にも対等な情報はないやろか?」

 架無は気づいた。

 アスカニは、自身の幸せを犠牲にしても、決めた人を、好きになった人を、生かしたいのだ。

 そして、架無と京、どちらの兄心も重んじた。

「お前ってつくづく……いいや。そうだな。譲れないもんの為に、戦り合おうぜ。」

 京は、サムチャイの対応の即決に、心から感銘し、ミスリルの欠片を手渡した。

「父が貴方に嘘はなく相談すべしと言いましたが、父の審美眼にはいつも驚かされる。サムチャイ殿の持つ優しさは、我が妹にも匹敵するでしょう。俺は不器用な男だ、貴方ほど穏やかにはなれない。貴方に敬意を払う。まず、ご希望通りに、架無殿へ情報を。俺達禍獄家も、秘密兵器は霊子力とミスリルのみ……しかし、俺自身がオカルト事例を目の当たりにして育っている。噂を探るのも一つの策です。街や学校の都市伝説も、馬鹿には出来ないと考えます。サムチャイ殿の為にも貴方に対等にはしたいが、俺の至らぬ知識不足はまことに申し訳ない。」

 架無は、ため息混じりに返した。

「いいよ。あんたなりに敵の俺に譲ってんだし、アスカニだって命懸けだ。俺も命懸けで情報集めてくっからよ。」

「サムチャイ殿は、まず、貴方の気性ならハズレは引かないと思いますが……ミスリルは欠片のみ。アクセサリーぐらいの護身用具とお考えください。貴方には霊子力が無い……ミスリルの起動には、貴方の生命力を削る恐れもある。故に。必ず御自身の身体を守る治療特化の特性を願ってご使用ください。願ったから叶うものかは、俺にもはかりかねますが……貴方は既に特別な体質の人間で、ミスリルを攻撃形にする必要は一切無いのです。……貴方のような男に死なれては惜しい。御自身の身の守りに使ってください。」

 サムチャイは照れた。

「なんや。京さんも紫さんみたいに、ワイの体質を良い評価するんやな……兄妹は、血は争えんのやなぁ……」

 京は告げた。

「架無殿の情報集めもある。俺は紫に伝達しよう。……猶予を持って、夕刻四時に、校庭中央で。……瀬ケ崎!」

 現生徒会長、瀬ケ崎拓海が応じた。

「はい、京さん!」

「架無殿に生徒会総出で情報提供を。生徒会のPCもお貸ししろ。俺は先に退室するが、架無殿とサムチャイ殿に無礼無きように。」

「かしこまりました!」

「四時迄には全生徒の帰宅を。」

 瀬ケ崎が京に尋ねる。

「魔王ですか?」

 京はフッと笑った。

「いいや。雷警報さ。稲妻(アスニ)大雷(ラム)のな。」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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