後日談①
キャンドルで照らされた寝室――静寂が訪れていた。俺とリアムさんは、同じブランケットにくるまって、ソファに並んで座っていた。
もう寝る時間だけどな、明日は休日だから夜更かしもいいだろうって。堅物が珍しい。といっても、なんだかんだで甘いけどな?
今、アルバムを見ていたんだ。たくさん写真撮っていたよな……つか。
「おっも……」
アルバム、すげぇ厚い……ずっしりとした重量感が半端ねぇ……。
「ふむ、重たいか。ならば、私が持っていようか」
マジレスきた。この人単独で持とうとしてるし?
「言ってくれんじゃん? 別に持てるし?」
俺にだってプライドはある。むしろ、俺一人で持ってやるし?
「重いといったではないか」
「まあ、重いけどさ……つか、持てるし」
「そうか」
結局、二人で持つことにした。元さやだった……つか。
「アンタ、撮り過ぎだろ……」
「そうか?」
リアムさんはきょとんとしていた。『全くもってそんなことないが?』と、言わんとしている顔だ。
「ぜってぇ、撮り過ぎ。しかも、俺ばっか……!」
そうだ。改めて思うんだ。リアムさん、写真撮ってばっかだったじゃねぇか……!
「わー……」
めくってもめくっても、俺。どのページにも俺。引きでもアップでも……俺! なんぞこれ。というか、俺自身が気づいてないヤツまであるじゃん!? いつ撮ったんだよ……。
「うむ。我ながらよく撮れたものだ」
リアムさん一人が感心していた。
「まあ……うん。確かに上手いんだよな」
何でもできるのか。彼は新調したカメラを早速使いこなしていた。被写体が俺なのはさておいて、写真自体は見事なんだよな。
「はあ……」
俺は溜息をつきながら、ページをめくった。俺だって借りて撮影していたんだ。腕前はまあ、撮れてるし。悪くね? くらいな腕前。ただ――リアムさんが少なかった。
もっと撮っておけば良かったな。
「……」
俺は写真を愛しそうに見ている彼を盗み見た。そりゃ、こうして近距離で拝めるけどさ。それでも写真に残しておきたかったなって――。
「おっ――海か」
ページをめくると、海水浴に出掛けた時の写真が出てきた。懐かしいな。夏休み最後の思い出として、行くことになったんだっけ。
「あれ? 写真、こんなもん?」
なんというか、写真が極端に少なかった。結構、賑やかだった記憶があるんだけどな?
「お、そうそう。勢ぞろいだったな」
そう、海水浴は邸の人総出だった。さらには、ショコラーデ家まで。フィクトルも誘ってみたんだけど、予定があるからって断られたんだよな。遠慮されたんかな……。
伯爵家のプライベートビーチで盛り上がったものだ。写真は全員集合のものが多かった。それからも賑やかさが伝わってきそうだ。
「……アダムもだな」
アダムと、彼を慕う攻略対象たちも訪れていた。まさかのかち合わせだった。まあ、伯爵家の場所だから。来てもなんらおかしくもない。
「……アイツも大したものだよな」
『あの時』以来の再会だった。俺は気まずいのも覚悟したけど――アダムは普段通りだった。なんだろな、吹っ切れた感があるというか。リアムさんにも対しても気さくに接していたともいうか。その後、別行動だったしな。
さて。ページをめくるか――。
「……!?」
俺は衝動的にページを閉じかけた……なんとか留まった! 微妙に視線はそらされたままだ――リアムさんの水着姿が、そこにあったから。
なんか周りに盛り立てれられて? 特に姉上とかにも乗せられて? なんか、俺もハイになっていたのか? ……写真、撮ったんだよな。
「でもって、まあ……」
なんだかんだで動揺しきっていたんだよな……写真はブレブレだった。かろうじてリアムさんか……って、わかるくらい。
「……」
堂々と裸体を晒していたよな……そりゃ、あれだけの肉体美ならな。筋骨隆々なのに、しなやかでもあって。彫刻そのものだった。
直視は出来なくても、視界には入ってきたからな……ずっと、つきっきりだったし。
同性同士、野郎の裸。ここまで意識することもないだろうに……なんて、無理ゲーなんだよな。俺はどうしたって意識してしまうんだ。
……好きな人の体、だし。
「……っと」
一人で恥ずかしくなってきた。次に目に入ってきたのは、まあ、俺の水着姿だ――ウェットスーツの。
長袖長ズボンで完全ガードだった――隣の堅物のたっての願いだった。肌の露出は控えてほしいだとか。俺も律儀に聞くこともないだろうにな……聞いてしまうんだよな。
「……ま、腹がなぁ」
俺の腹部には紋様が残ったままだ。さほど大きくないとはいえ、えぐい見た目もしているし。家族や邸の人たちが目にして気分が良いものでもないしな?
呪いはセーブ出来てるとはいえ――消えたわけではないから。呪いはまだ、俺と共にあるんだ。
まあ、泳げればいいんだよな。俺もぷかぷか水面に浮かんでいた。あれは至福の時間だったな。気づけばリアムさんも一緒にだった……うん、安らいだな。
夏休み、ずっと一緒にいられたわけじゃなかった。それでも、過ごせるだけ過ごせたんだ。
特別な夏だったんだ――。
「……って」
俺は今になって気がついた。俺ばっか喋っていたのもだけど。
「君は見ていて飽きない――うむ、目の前にいてこそだな」
「……っ」
リアムさんの視線はとっくにアルバムじゃなくて――俺自身に向けられていた。どれだけ見られていたんだ……。
「……しかし、海か。かけがえのない時間だったが……」
「どした?」
「……いや、ほとんど二人っきりになれなかったなと」
「あー……」
そうだな、確かにそうだった。海でぷかぷか浮いていた時くらいだったな。しかもその後に、うちの兄上たちに耐久水泳挑まれていたしな。といっても、勝ったのすごかったな。さすがリアムさん。
「……そっか」
リアムさん、やり残したのかな。それは俺もだった。
「あのさ、リアムさん。俺、やり残したことあるんだ。もっとアンタの写真撮っておきたかったんだ」
「ユーマ、私もだ。もっと君と海を堪能したかった」
俺たちは顔を見合わせた――やり直そうと。
「出掛けようか。秋の海もまた、風情があるだろう」
「お、いいのか? 遅い時間に出掛けんの」
「明日は休日だ。私もついている。問題なかろう」
「お、話がわかんのな」
堅物様もご納得済みだ。それなら――行くとするか。




