旦那様、余裕の歓迎……?
翌日。務めから帰ってきたリアムさんは、神妙な顔をして語っていた。
「――納得がいかない。何故大騒動にまで至ったのか」
「あー……」
いかにも着けなさそうな人が……だもんな。堅物どうこうっていうより、このリアムさんがってなるよな。騒ぎ、想像つくわー……。
「――して、ユーマ? 君からの贈り物の方は……やはり駄目なのか?」
「ごめんだけど、だめだ。まだまだ先だな」
「くっ……焦らされるものだな。だが、このピアスとて。ピアスとて……!」
「そうだそうだ、俺がプレゼントしたんだけど?」
「くっ、正論ではあるが……くっ」
リアムさんは唇を強く噛みしめていた。まあまあ。
「まあ、いくらでも待っててやるよ」
慰めにはならないかもだけど、俺は彼の肩を軽く叩いていた。
「……そうだな。君と揃いで出掛けられる日、それを励みとしよう」
「あー……外で着ける感じ?」
「そうだろう?」
「あー……うん。決定事項ね、決定事項」
「そうだ、決定事項だ。毎日装着を願いたいところだがな」
それもそうだ。特別な日限定、とか。高そうでもあるし、それもアリだけどさ?
「――してやるよ、普段使い。もちろん、アンタのタイミングに合わせてだけど……って」
なんか、抱きしめられていた。なんで?
「照れ屋な君がそうしてくれるとは……私はなんて幸せ者なのだろう」
「お、言ってくれんじゃん? 俺のどこが照れ屋だってんだ?」
「……うむ、自覚がないのか?」
「自覚も何もねぇっての。俺は一般的な感覚だ。まったく……まあ、恥ずかしいけどさ」
顔だって真っ赤だ。俺がこんなになるのも。
「……アンタ相手だからだよ」
なんて、声に出してみた――。
この日は邸全体が浮足立っていた――俺の友人フィクトルが遊びに来るからだ。
それに張り切っていたのは、特にメイドたちだった。
『まあ、ユーマ様のご友人ですね! 全力で歓迎いたします』
『いやいや、気持ちは嬉しいけど。普通でいいから』
それで、この至るところにある歓迎の看板や垂れ幕だ。ここまで気合入れてもらって……。
邸の人たちとの距離も縮まってきた。俺も敬語を使わなくなった。友人の来訪に喜んでくれるの、嬉しいものだよな。
あとは、フィクトルが来るのを待つばかりだ。俺も久々に会えるから嬉しいんだ。頃合いになったので、玄関入口付近で待っていた。
「――望むところだ。いつでも来るがよい」
「……リアムさんさぁ」
別の意味で気合が入っている人がいた。俺の隣で腕を組んで待ち構えていた。すげぇ威圧感……どうした?
なんでも一張羅の礼服を用意したとか。髪だって休日だっていうのに、とことんセットされていた……なんで?
俺もまあ、きっちりとした服装を指定された。他にも――。
「ありがとう、ユーマ。ああ、いつ見ても似合っているな?」
「あー……仕方なくな?」
俺は例のオレンジパールのピアスを着けていた。いやさ、アンタと一緒にって話だったのに……めっちゃ懇願されたんだ。まあ、アンタが望むならだし。
――ドアベルが鳴った。扉が開かれた。
「――ようこそお越しくださいました、フィクトル様」
先じて迎えにいっていた執事長と共に――フィクトルの姿があった! 久しぶりだなぁ、おい。緊張しているようだけど、元気そうで良かった。
「此度のご来訪、歓迎する。当主のリアム・ブリーヴィオだ。ユーマが大変お世話になっているようだな? 感謝する」
リアムさんは威厳をもって挨拶をしていた。邸の従者たちも一斉に頭を下げた。
「……」
なんだ、この緊張感。俺、気軽にやりたいんだけど……アイツだってやりづらいだろ。
「ぼ、ぼくは……」
ほら、体を震わせていた……俺でもビビるよ。リアムさんは普通にしてるんだろうけど、圧がすげぇんだよ。鬼軍曹か。
……普通にしてんだよな?
「……」
……フィクトル。アイツ、いつものボサボサがなくて、綺麗な天然パーマになっていた。服も『ちゃんと準備しますから』と手紙での宣言通り、スーツ姿だった。初めて見た。
瓶底眼鏡はいつも通りだった。そこは大事だもんな。
――よし、俺がこの空気をぶっ壊す。ダルいゆるい雰囲気に変えてやる。隣の鬼軍曹は置いておいて、フィクトルの元へ。
「よーう、フィクトル」
「あ、ユーマ君だ……」
お、良かった。フィクトルの雰囲気が柔らかくなった。顔見知りいると安心するもんな。
「つか、髪質いい感じだな? なんか変えたりしたのか――」
……おっとぉ、いつもの流れで髪を撫でるとこだった。あっぶね。後ろからの圧もすげぇ。
「はい、今度教えます。よし……僕も頑張ります。本日はお招きにあずかりまして、ありがとうございます。僕は――」
「いいぞ、フィクトル。その調子だ」
俺は彼の隣に立って応援していた。フィクトルは照れくさそうに笑っていた。
「……?」
で、リアムさん? ――なんで片方の眉が上がってるんだ?
「――本日はよろしくお願いいたしますっ」
勢い任せにお辞儀をして、フィクトルは体を起こした。ガチガチなままだけど、よく頑張ったな……あんな仰々しい態度をした人相手に。
「……って」
俺の目がいったのは、フィクトルの頭頂部だ。そっか、フィクトルの方が背が高いんだな。リアムさんだって相当デカいのに。
「……ん?」
リアムさんもだけど、フィクトルのスタイルの良さを再認識した。二人共、顔ちっさ。手足だって、なっが……。
「……おほん。ユーマ、何か気になるのか?」
「……いんや、別に?」
「……そうか」
リアムさんに気づかれたかも。気になってしまったのは、ごめん。
「……ともかく。フィクトル、よく来てくれたな」
「こっちこそ、お招きありがとうございます。会えて嬉しいです……!」
「おう、そっかそっか」
フィクトルは全身で喜びを表していた。こうも喜んでくれると、こっちも悪い気がしないんだ。
「……素直なことだ」
リアムさんがボソっとなにか。つか、なんかピリピリしてない? 微々たるものだけどさ?
一方で、邸の人たちは微笑ましい表情をしてくれていた。そっか、俺の友人の存在が嬉しいもんな。俺も笑顔になった。
「「「……トゥンク」」」
いつぞやのフィクトルのセリフ。それが、邸の人たちも加わっていた……?
「……ユーマ、何故だ。何故、どこまでも愛らしいんだ……!」
と、忌々しそうにリアムさんが言っているし? なんでキレ気味なんだよ? つか、どこに愛らしい要素があった?
「……私よ、案ずることはない。そうだ」
「?」
リアムさんは俺の耳を注視していた。あ、ピアスか。
「……ああ」
これ、きっと俺の自惚れとかじゃないと思う。このピアスがあれば……妬かずにいられる、とか。
「あー……」
俺はもう呻くしかなかった。ぎりぎり顔は赤くはならなかったけど……耳だけ、赤くなってしまってる。
「……?」
機嫌を直したリアムさんだけじゃない。視線は――フィクトルからもだった。それも強い視線……?
その瓶底眼鏡からは、意味は問えないままだった――。




