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痕を残したい


 隠れ家のようなサロン。リアムさんに来てもらっていた。リラックスできるように、寝間着姿で。俺はまあ、ダル着で。


「……うむ」


 彼には椅子に座ってもらっていた。緊張しているのか、視線が彷徨っていた。可愛いな、おい。


 よし、十分に冷やした――リアムさんの耳たぶを。両方ともばっちりだ。


 ――今夜、リアムさんの耳にピアスを開けることにした。


 リアムさんの綺麗な耳に、痕を残すことにしたんだ。


 髪も染めたこともない。タトューも、うん、ないだろうな。そういったものが無かった体に。


 俺が、つけるんだ。


 本当はさ、ちゃんとした病院とか施設とかでやった方がいいのにな。


 ……俺がそうしたかったから。


「もうちょい待っててな?」


 準備にかこつけて、俺は彼に背をみせた。ああ、にやけが止まらない。


「……ありがとう、ユーマ」

「いや、別に?」


 リアムさんの幸せそうな声。俺は普段の調子で答えるけど、今の顔は見せない。見せられない。こんな、歪んだ笑い顔なんて。


「お待たせ」


 必要な器具を手に持って、俺は彼に近づいていく。彼に合わせて、体を屈めていく。


「それじゃ――開けるな」

「頼む」


 消毒も十分だ。開ける位置もしっかり確認済みだ。ピアッサーにあたる器具を強く握る――一回で貫通させる。


「……っ」


 反射的になのか、リアムさんは瞳を閉じた。それから、切れ長の瞳をゆっくりと開く。


「おお……」


 リアムさんは鏡を通して、しきりに感心していた。本当に可愛いな、おい。


「ああ、ようやくだ。待ちに待ったんだ。今なら――」


 あと、なんか懐に手を突っ込んでる? なんで? ……あ。


「アンタさ、前にあげたヤツ着けようとしてる? あれ、ファーストピアス向きじゃないから」

「ふぁ、ふぁーすと……?」


 リアムさんは首を傾けていた。レアだ。とことん可愛いな、おい。


「いや、首傾げないで。元に戻して」

「う、うむ……」


 彼は素直に聞いてくれていた。よし……今の彼の耳に相応しいものを装着させた。


「うん、よし……消毒もコッチでやってくな。自分でも出来るだろうから、教えてもいくから」

「ユーマ……どういうことだ? 何が何やら分からないのだが」


 そうか。まあ、消毒のやり方じゃなさそうだな? リアムさんがひっかかってるのって……おっけ、了解。


「うん、説明するわ。最初のって、なんでもつけられるわけじゃないんだよ」

「なんだと……!」


 リアムさんは衝撃を受けていた。期待していたのか……。


「一か月は外さないように。で、さらにセカンドピアスってな。あ、俺があげたのは着けられるからな? それ、しまっとこうな?」 

「……むむ?」 


 リアムさんは疑問を抱いているようだった。なんで?


「いやさ、持ってきてんだろ? 一か月後にはつけられるからさ?」

「……いや、君からの贈り物では」

「なに、どういうこと?」

「……うむ、観念するか」


 むしろ俺が疑問を持っていたところで、リアムさんは懐から取り出した。

 ――二つの、シックに包装された小箱を。


「私からの贈り物だ。開封してくれないか」

「……俺に? もらっていいの?」

「何故だ、ユーマ。君以外に誰がいるというのだ」

「あ、はい。そっか、プレゼントか……びっくりしたけど」


 とんだサプライズだ。俺の顔は緩みっぱなしだ。


「ありがとう、リアムさん。普通に嬉しい」


 俺は丁寧に包装をといていく。ワクワクが止まらない。


「……綺麗だ」


 パールのピアスだ。それも――オレンジ色の。


 オレンジ色のパール。火焔模様もあるんだ。うん、見てて飽きない。


 彼のことだ、時間をかけて真摯に選んでくれたんだろうな。そういや、前に髪色を褒めてくれたよな。それに似た色を見つけた時の表情とか。


 ほんとさ、想像をしては愛しさがこみ上げてくるんだ……。

 ああ、本当に綺麗だな……。


「……私と揃えてみたのだが。こちらも一か月、待たねばならないのだな」


 しょぼんと肩を落とすはリアムさん。


「あー……」


 いや、それはさ……俺は心を鬼にして告げることにした。ごめん……。


「すげぇ心苦しいけど、言うわ。それ、セカンドピアスの次かも……? 二か月は待ってもらわんと」

「な、なんだと……!!」


 彼はさっきよりさらに衝撃を受けていた。目もかっぴらいていた。


「……」 


 ショックで放心しているようだった。声、かけてみるか?


「……私よ、しっかりするのだ。このふぁーすと、とやらもユーマからの贈り物だ。ピアスも開けられるようになったのだ」


 あ、自分で立ち直っていた。なんか言い聞かせて……いや、いいか。


「せめてユーマが着けてくれればよい。頼む、見せてくれないか?」

「うん、そうだな。俺も着けてみたい」


 俺はさらっと返事した。俺だってアンタに見せたいし――。


「……ああ、似合うと思っていたんだ。君の為に存在しているも同然だ」

「それは言い過ぎ。でも、ありがとな。大切にするから――さてと」

「ユーマ!?」


 俺はあっさりと外した。リアムさんの衝撃は続いたままだ。どれだけショック受けてんだ。


「今回は着けさせてもらったけど。俺、アンタと一緒のタイミングがいい」


 俺は笑いかけた。そして――。


「はは、アンタも似合ってる。その時が楽しみだ」


 外したピアスを、彼の耳元にあててみた。ああ、楽しみで仕方ない。浮かれて素直になるくらいには。


 笑顔が止まらないくらいには――。


「――ユーマ」


 彼が、俺を呼ぶ。熱を伴った声で。

 頬に添えられたのは、大きな手。そっと触れられている。


「堪え性がなくて申し訳ない。愛しさが止まらないんだ……」


 情欲は隠されてないのに、慎重だ。ギリギリのところで踏みとどまっているんだ。いつだって優しかったよな、リアムさんは。 

 俺のこと、大事にしてくれているんだ……うん。


「……さて、と」


 ピアスはサイドテーブルに避難させて、と。


「……あのさ、リアムさん?」


 困り顔のリアムさんに笑顔を向けて、それから両肩に手を置く。


「――これからするの、ノーカウントってことで」


 アンタがルールを破ることはない。そこは安心してほしい。


「……軽く、だからな」


 ――俺からのキスだった。

 アンタからしたわけじゃない。だから、ノーカンなんだ。俺理論だ。やけくそだ。


「……」


 キスは一回重ねるだけで終わらせた。ピアス開けたてだからとか、他の意味でも刺激はしたくないからとかで。俺はこれだけでも恥ずかしいけどな……。


「……ふう」


 唇を離し、体も離した。おっ、今日一番衝撃受けている顔だ。


「はい、これで終わり――」


 コッチで切り上げようとしたところで。


「……は?」


 なんという早業なのだろうか。


「はぁっ!?」


 気がつけば――彼の膝の上に座らされていた……!? いつの間にだった……?


「どこまで私の理性を揺さぶる気だ」


 彼の、獰猛な目が光っていた。


「……すまないが、もう我慢の限界だ」


 リアムさんはギリギリだったんだ。そうだ、なんだかんだで耐えてくれた。でも、それはさっきまでの話――今となっては、もう。


 迫るは、彼の顔。コッチは全然、心の準備が出来てないんだ……! 


「ほら、落ち着こう? 待とう、な?」

「悪いが、待たない――」


 ――『ノーカウントだろう?』と。


 そう不敵に笑う彼と。逃げる姿勢のままの俺の。


 ――二人の唇は重なった。


 激しく……ということはなかった。そこは遵守してくれたようだ。ピアス開けたばかりだしな。


 時間をかけて。ゆっくりと。じっくりと。


「ユーマ……」

「ん……」


 触れ合っているところから、溶け合うみたいだ。


 俺は長い時間、彼に愛されていた――。


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