表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/73

決着!

 光治郎が管制室のドアを開けた。

 オフィシャルとして協力している王国の文官が声を掛けた。


「どこ行くんですか? 裁定と表彰台(ポディウム)どうするんです?」


「ちょっと奥の間に行くだけだ。すぐ戻るから」


 部屋を出た後、廊下の一番奥にある小部屋に入ると光治郎はカギをかけた。

 これから ”お供え” をして、神様に相談するところなのだ。


 しかし、その必要はなかった。

 部屋はその雰囲気を変え、正面が白いモヤに包まれ、やがて人影が現れた。


「神様、直々にいらっしゃるとは」

「相談したいことがあったからの」

「あまり、時間は取れないのですが……」

「ああ、それなら気にすることはない。この扉を閉じた時から何時間話をしても時は進まぬ」

「わかりました」


 光治郎はそれから、今行われているF1の表彰台が用意されていないこと。

 そして、正聖と翼竜の二台の裁定で迷っていることを神様に告白した。


「ふむ。表彰台の件はこちらでなんとかしよう。なに、あのブルーシートを剥がすだけで良い。バックボード、安全手すり、シャンパンテーブル、トロフィー、アクセス階段にレッドカーペットを用意しておく」

「助かります。裁定はどうしましょう」

「それはワシの預かり知らぬところだ。お前の好きなようにするが良い。……それより光治郎。問題はこのレースの後だ。この国は大きく車社会へと舵を切ることになるだろう。当然、お前の立場も大きくなる。小さなガレージにこもって車を直している暇はなくなるはずだ」


 この熱狂を見れば当然である。

 レースを見たものは車の有用性だけでなく、その娯楽性、先進性に魅せられるに違いない。それに比べて馬車はみすぼらしく、前時代的でひどく効率が悪いものに見えるはずだ。


「わかっています。しばらくは仕方がないでしょう。でも、王国を完全に車社会にするつもりはないのです」

「それはワシも同じだ。このやり方には歪みがある。彼らは確かにレストアの技術を身につけつつあるが、その仕組みを完全に理解したものはいない。そして、何より車を生み出す力がない」

「そうですね」


 一瞬、間が空いた。

 横にある小さな机には地図が丸めてあった。


 光治郎はそれを広げてみる。

 王国は南北に長く、西には山脈がありその向こうに何があるかはわからない。東には森があり、その向こうは海だ。


「他の国に行こうかと考えています」

「それは厳しいぞ。ワシも王国以外ではガレージを与えてやることはできん。第一、この時代の船では隣国に渡る前に沈む可能性は高い」

「ですが、このままここにいるのは」

「王国のためにならないというのか」


 神様は声を遮り、その続きを述べた。

 光治郎は苦笑する。


「その通りです」

「…………わかった。では、あと一年我慢するが良い。その後、お前をどうするか決める。心配するな。悪いようにはせんよ」

「ありがとうございます」


 頭を下げた後、前を向いた時、すでに神様はいなかった。

 部屋は元の通り、時を刻み始めており、いつの間にか鍵も開いていた。



 光治郎は小部屋を出て管制室に戻る。


「待たせたな。表彰台の件は片がついた」

「片がついたとは?」

「ブルーシートをとってみればわかる」

「……了解しました。裁定はどうします」

「それは俺が発表する。混乱を避けるため、レース後になるがな」



 

 51周目。西ストレートでフェリスティンはERSを解放した。


「おおっと、RB19が翼竜のMP4/4をパス。前の正聖も射程圏内にとらえているぞ!」

「騎士団の二台は激闘のダメージがありますにゃ。最高速が伸びていません」


 130R。立ち上がり加速が違う。

 RB19は正聖をパス。トップへ躍り出た。


 シケインを超えて52周目。

 誰もがフェリスティンの優勝を疑わなかった。


 ところが、RB19はメインストレートでMP4/4の2台を突き放すことができない。


「どういうことでしょう。サティさん」

「ERSの使いすぎです。マシン性能はすでに互角。あとはドライバーに委ねられましたにゃ。決着は最終ラップまでもつれます」


 観衆は湧き上がっていた。

 勝負がついたと思ったトップの3台の差は僅差である。


 必死に耐えるフェリスティン、かろうじてメインストレートを持ち堪え、コーナーワークで、デグナーカーブまで先行を許さない。しかし、ヘアピンで横に並びかけられ、200Rを超える頃には抜かれるのは時間の問題に。


「ヘアピンから200Rで、先頭3台がテールトゥノーズ! 次のカーブ正聖が行くぞ!!」

「『スプーンを制すものは鈴鹿を制す』ですにゃ」


 フェリスティンは、正聖に抜き返された。

 バックストレートではダメと分かっていながらもERSに頼るしかないRB19。スリップストリームから飛び出した翼竜が並びかけ、ついにオーバーテイク。

 最強マシンRB19がまさかの3位。


 最終周。

 すでにエネルギーは空。130Rではさらに差が開き、最後のシケインで逆転を狙うだけの力はRB19には残っていなかった。

 正聖、翼竜、フェリスティンの順でゴールライン通過。


 だが、その瞬間。

 電光掲示板にトップでチェッカーを受けた正聖に失格の裁定が。


 ざわめく観衆。

 喜びを爆発させる翼竜のピット。対照的にオフィシャルに食ってかかる正聖の面々。


 そこに光治郎が。


「お前たちもあの過去の映像を夢の中で見ただろう?  順番は逆になったが、歴史的なあの判定自体に間違いはない。それが全てさ」


 正聖のピットクルーはみな、うなだれ、裁定を受け入れた。



 ブルーシートが剥がされ、表彰台があらわれ観衆のボルテージは最高潮。

 バックボードには、サーキット名、大会ロゴ、スポンサーはいないので、王国の印章と最高神を崇める宗教の印、さらにはこの領地の主である三峰家のマークがデザインされていた。


 チェッカーフラッグが振られ、ウイニングランを終えたマシンがパドックに戻り、場内スピーカーから高らかに表彰式の開始が宣言される。


「サーキットにお集まりの皆様、大変お待たせいたしました! これより、第一回スーズケインサーキット開幕レースの表彰式を行います! 今日の激戦を制したトップ3のドライバーたちが、いま表彰台へと向かいます!」


 観衆がサーキット内になだれ込んできており、ドライバーたちは急いで階段を登っていく。

 光治郎はマーシャル全員に「怪我さえなければ、いい」と告げていた。


「魔法師、前へ。手筈通りに」

「はい」


 一斉に魔法を唱えると、観客はふんわりと押し返される。

 その隙にロープが張り巡らされ、皆が落ち着きをとり戻した。

 

 事故を抑えるための工夫が最後にもう一度、功を奏したのである。




 その様子を見計らったアレクがアナウンスを再開した。


「まずは見事、3位表彰台を獲得!バーミルズ・ブルー、バルレイズ男爵!」


 先頭に絡めはしなかったが、粘りの甲斐があり表彰台に。


「続いて、激しいバトルの中、惜しくも2位!しかし、その活躍は間違いなく本レースの主役でした。 グレース・レーシング、フェリスティン選手!」


 あの村長の強烈な追撃に手を焼きERSの無理な使用。

 さしもの最強マシンも最後は伸びを欠いた。


「そして! 今日の栄光のウィナー! 見事な逆転勝利を挙げたナイツ・ユニオン・レーシング、翼竜騎士団長です!」


 プレゼンターはなんと陛下自らが、トロフィーを贈り、翼竜騎士団団長は恐縮していた。


「さあ! お待ちかねの瞬間です! ドライバーの皆さん、シャンパンをお持ちください! ……『シャンパンスプラッシュ』、スタート!!!」




 こうして初めてのレースは幕を閉じた。

 最終結果は以下の通りである。


| 順位 | Pos| ドライバー | マシン | 最終結果 / タイム |

|---|---|---|---|---|

| *1|↑ 1 | ナイツ・ユニオン・レーシング/翼竜騎士団長 (セナ) | MP4/4 | Winner |

| *2|↑1 | グレース・レーシング/フェリスティン (フェルスタッペン) | RB19 | +1.1s |

| *3|↑1 | バーミルズ・ブルー/バルレイズ男爵 (アロンソ) | R25 | +6.2s |

| *4|↑2 | アイアン・スピリッツ/ドワーフ長 (シューマッハ) | B194 | +29.3s |

| *5| ±0 | レスキュー・レーシング/エミリア (シェクター) | P34 | +29.9s |

| *6|↑1 | マグス・ミラージュ/マゼンタ (アンドレッティ) | ロータス79 | +1 Lap |

| *7| ↓1 | ノブレス・オラージュ/パットリア伯爵 (ラウダ)| 312T2 | + 2 Lap |

|DSQ |±0 | ナイツ・ユニオン・レーシング/正聖騎士団長 (プロスト) | MP4/4 |失格|

| RT |—| チーム・アルトト/ロンダーク村長 (マンセル) | FW14B |Crash |

| RT |—| クレモテス・スピード/ゾンバ (ハント) | M23 | Crash |



「終わったな」

「ええ、なんとか。よくやったんじゃないんですか」

「ああ、関わったすべての人に感謝だよ。陛下や王宮の文官、非番の騎士団の人たちまで総動員してくれたからな。特にあちこちの補修やら、事故対応やらで働き詰めだったドワーフたちにはボーナスを弾まないと。もちろん、浩史、そしてパレッタ。実況のアレクやサティだって」


 すでに観客も全員が引き上げ、今や数人が残るのみ。


「明日からが大変ですね」

「ああ、だがあと一年だ」

「一年?」


 思わず浩史が振り返る。


「ああ、恐らく王国で車のレストアや修理をしていられるのは、それくらいになるはずだ」

「そのあとは、またどこかに行くんですね」

「浩史は残ったっていいんだぞ」

「いえ、お供します」


 二人の会話を誰も聞いていなかった。

 たった一人パレッタを除いては。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ