激闘!終盤戦
終盤に差し掛かっていた。
上位勢を追うバルレイズ男爵のR25が4位に喰らいついている。「後半強い」と言われていたのはアロンソの魂を引き継いでいるからか。
逆に前半、ピット戦略で気を吐いたパットリア伯爵は名車312T2を活かせず、下位に沈んでいた。ペナルティを受け、エミリアのP34に先行を許したドワーフ長のB194は、粘りの走りで2秒差を保っている。
そして42周目。ここでまたレースが動き始める。
3位走行中のFW14Bがメインストレートで、RB19に先行を許す。
「フェリスティン、3位浮上。一瞬の隙をつきましたね。性能差でしょうか?」
「いえ、GoPがあります。今のは相手マシンがなんだったか失念していた村長の油断ですにゃ」
神様の差配でFW14BとRB19との差は、ほとんどないはずだ。
おそらく村長は、RB19のOTボタンの威力を見落としていたのだろう。
サティの指摘はそのことを指している。
このレースで一番意外なのは村長の走りだったかもしれない。
走行会で誰よりも走り込んでいたのは彼である。
予選では5位に甘んじ、決勝でもまた、騎士団の2台に遅れを取っている。
しかし、村長はそれを良しとはしていなかった。
逃げるフェリスティンを追い続けた。
何度もあったチャンスを見極めて勝負を掛けたのは46周目。
「開いていた差がヘアピンで一気に縮まっている!」
「村長は狙ってましたにゃ。200Rでは、GoPのおかげで性能差はありません」
それまでの数周を大人しく走っていたのは、このためなのだ。
スプーンで仕掛け、勝負は西ストレートと踏んでいた。
フェリスティンは、トップの二台を追うことに全力を注いでいた。
タイム差を考えれば、当然、西ストレートではなくメインストレートをターゲットにしていたはずだ。
となればERSパワーをここで使い切るわけにはいかない。
一方、村長は元のドライバーであるマンセルの魂を引き継いでいた。
ここは勝負どころ。少々の不利では引くことはない。
「おおっと、FW14Bがインを刺す。だが、スプーンの立ち上がりはまだ濡れた路面が残っているぞ」
「縁石に乗りあげてでもここでパスするつもりですにゃ」
「もつれるようにコーナーに入っていくぅぅ。あーーーーー、FW14Bコースアウト! そのままキャッチネットに一直線。村長、痛恨のクラッシュ!!」
ドーン、という大きな音ともに白煙をあげるFW14B。
フロントは完全に潰れ、右のタイヤは外れている。
管制塔の光治郎は即座に指示を飛ばした。
パレッタはすでに現場に向かっている。
「やるんじゃないかと思ってたんだ」
「村長、怪我してないですかねぇ」
「そこは大丈夫だと思う。今、出て行ったパレッタにも余裕があったし」
すでにゾンバの事故でMaloには全幅の信頼がある。
おそらくは擦り傷一つ負っていないはずだ。
二度目のFCYである。
幸いにして、本人は無事。車両の回収は素早く終了。
車から降りた時、観衆から大きな拍手が沸き起こった。
それに答えて手を振る村長。
「村長、人気ありますね」
「それだけ素晴らしい走りだったですにゃ」
「さて、事故について振り返ってみましょう。どこにミスがあったんでしょうか」
「恐らく、スプーン立ち上がりにまだ濡れていたイン側に飛び込み、縁石とウェットパッチに足を取られてサスペンションを破損したと思われますにゃ」
「なるほど、ギリギリの勝負だったんですね」
「ええ。でもこれ以上、事故は起こってほしくないですにゃ」
それは、実況の二人だけでなく全てのオフィシャルの願いだったはずだ。
ところが49周目。FCY解除の直後にドラマが待っていた。
逃げる翼竜、追う正聖。
この二人の争いはセナとプロストの魂同士と言うだけではない。
確執のある騎士団の名誉をかけた戦いなのだ。
130Rを超えた時、二台の差はほとんどなかった。
もつれるようにシケインに突入。
「おおっと、正聖が押し出されたぁぁ。コースアウトするもショートカットしてコースに戻るぅ!!」
「これは難しいことになりそうですにゃ」
電光掲示板に「審議中 (UNDER INVESTIGATION)」の文字と黄色い警告表示が一斉に点滅。
「ぶつかったことが問題なのでしょうか」
「いえ、恐らくコース取りについてだと思いますにゃ」
その実況を聞いて、浩史が叫ぶ。
「1989年の逆か!」
「浩史、気楽に言ってくれるな。これ審議するの俺たちなんだからな」
光治郎は浮かない顔で、リプレイを凝視していた。
50周終了時点の順位は以下の通り。
| 順位 | Pos| チーム / ドライバー | マシン | タイム差 |
|---|---|---|---|---|
| *1 | ↑1 | ナイツ・ユニオン・レーシング/正聖騎士団長 (プロスト) | MP4/4 | Leader |
| *2| ↓1 | ナイツ・ユニオン・レーシング/翼竜騎士団長 (セナ) | MP4/4 | +2.1s |
| *3 | ±0 | グレース・レーシング/フェリスティン (フェルスタッペン) | RB19 | +3.3s |
| *4 | ↑1 | バーミルズ・ブルー/バルレイズ男爵 (アロンソ) | R25 | +4.8s |
| *5 | ↑1 | レスキュー・レーシング/エミリア (シェクター) | P34 | +27.8s |
| *6 | ↑2 | アイアン・スピリッツ/ドワーフ長 (シューマッハ) | B194 | +29.5s |
| *7 | ↑2 | マグス・ミラージュ/マゼンタ (アンドレッティ) | ロータス79 | +1 Lap |
| *8 | ±0 | ノブレス・オラージュ/パットリア伯爵 (ラウダ) | 312T2 | + 2 Lap |
| RT |—| チーム・アルトト/ロンダーク村長 (マンセル) | FW14B |Crash |
| RT | —| クレモテス・スピード/ゾンバ (ハント) | M23 | Crash |
管制塔はすでにレース終了に向けて動き出している。
ところが、戻ってきたパレッタが深刻な顔をしていた。
「どうした。まさか、村長の容体が悪いのか?」
「違うわ。ないのよ」
「なにが」
「表彰台よ」
突貫工事の連続で、後回しになっていたのだ。
本来ならレースが始まるまでに整えられていたはずのそこはブルーシートがかかったまま。
2階席にデッキはある。
だが、頼もうにもドワーフたちは雨で崩れた急造の芝生席の補修に向かっていた。
呼び戻してもレース終了までに間に合うはずがない。
光治郎は追い詰められていた。
表彰台をどうするか。その前に騎士団の二台に対する裁定を下す必要があったのである。




