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序盤から中盤へ

 レースは10周を経過。


 フェリスティン (RB19)はトップを堅持。変わって上がってきたのがロンダーク村長 (FW14B)だった。

 タイヤに熱が入っておらずスタート時は苦戦したが、ここで本領を発揮。8周目トップスピードでメインストレートを駆け抜けると1コーナーでR25をパス。

 落ちてきたP34にS字で追いつき、ヘアピンで仕留めると、バックストレート入口でロータスの真後ろにピタリ。

 スリップストリームから飛び出すと一気にオーバーテイク。ポジションを3つ上げた。


 順位を下げたのはエミリア (P34)。

 縁石に乗り上げた際、リンケージに異常。ギアも3速に入りづらくなっているらしい。


| 順位 | Pos| チーム / ドライバー | マシン | タイム差 |

|---|---|---|---|---|-

| *1 | ±0| グレース・レーシング/フェリスティン(フェルスタッペン) | RB19 |Leader |

| *2 | ↑4| チーム・アルトト/ロンダーク村長マンセル | FW14B | +4.5s |

| *3 | ±0| マグス・ミラージュ/マゼンタ(アンドレッティ) | ロータス79 | +8.2s |

| *4 | ±0| バーミルズ・ブルー/バルレイズ男爵アロンソ | R25 | +12.0s |

| *5 | ↑1| アイアン・スピリッツ/ドワーフシューマッハ | B194 | +16.5s |

| *6 | ↑1 | クレモテス・スピード/ゾンバ(ハント) | M23 | +19.0s |

| *7 | ↓5 | レスキュー・レーシング/エミリア(シェクター) | P34 | +21.5s |

| *8 | ↑2 | ナイツ・ユニオン・レーシング/翼竜騎士団長セナ | MP4/4 | +25.0s |

| *9 | ±0 | ナイツ・ユニオン・レーシング/正聖騎士団長プロスト | MP4/4 | +26.2s |

| 10 | ↓2 | ノブレス・オラージュ/パットリア伯爵(ラウダ) | 312T2 | +35.0s |


 

 トップ争いは膠着状態。順位も落ち着きを見せ始めた。


 管制塔に詰めていた光治郎は、会場を視察して回ることにした。

 まずはメインスタンド。陛下と護衛の者たちがいる一角である。


「陛下。よくお越しくださいました。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません」

「おー、コージロー。レースとは凄いものだな」

「ええ、周りのみんなが頑張ってくれてここまで漕ぎ着けました。観客も喜んでくれているようですし、あとは無事に終わってくれればありがたいのですが」

「心配性だな。まあ、責任者というものはいつでも最悪の事態に備えるという意味では正解なのであろうが」


 陛下の言いたいことが今ひとつわからない。

 目はサーキットを走る車を追っているが、完全にレースに入り込んでいるようには見えない。


「警備の件、ありがとうございます。思ったより観客が詰めかけたので、騎士団の方々のご助力がなかったら大きな混乱に巻き込まれていたかもしれません」

「それなんだがな……」

「それと言いますと」


 陛下は光治郎の方へ向き直り、一枚の紙を取り出した。

 陳情書である。内容は車の注文がなかなか受け入れられないというある貴族からのものであった。


「このようなものがすでに数十通、王宮に届いておる。多くの町や村からも同様に車を求める声が上がっている」

「申し訳ありません。こちらも今抱えているバックオーダーを裁くのでせいいっぱいで」

「わかっておる。決してお前がえこひいきをしているわけでも、サボっているわけでもないということはな。だが、これを見るがいい」


 陛下が指さしたのはスタンド、そして芝生席。


 観客は熱狂していた。

 アレクの実況に一喜一憂し、電光掲示板で順位が入れ替わるたびに歓声が上がっている。


「今日のこのイベントが終わったら、車を求める声はさらに大きくなるだろう」

「……そうですね。なんとか増産できればいいのですが」

「ドワーフたちは協力的なんだろう? 馬車の需要は低下しているのだ。彼らをレストア人員にするのは問題なかろう」

「ですが、そうすると交通の主役が自動車に傾くことになりかねません」

「まずいのか?」

「まずいです」


 この異世界の文明を必要以上に加速してはいけないというのは、神様との約束である。

 すでに光治郎が神に関与していることは、公然の秘密ではあるが、それとこれとは別なのだ。


「わかった。理由は問うまい。だが、できる限り民の声には応えて欲しい」

「わかりました」



 15周を経過したところで、トラブルが出始めていた。

 ドワーフ (B194)のマシンに改造違反が見つかり、ドライブスルーペナルティ。最下位に沈む。


「サティさん。どんな改造を施していたんですか」

「はい。車軸に補助加速機能を追加していたようです。魔道具と魔石が見つかったそうです」

「痛いですね」

「ええ」


 さらに、異世界初めてのレースならではの格差があった。

 今回は「給油1回必須、タイヤ交換自由」。まずは、チーム間の練度の違いにより、ピット作業に大きな差が。


 これに乗じ騎士団の二台がジャンプアップ。

 ピットクルーはお互いを睨みつけあっており、実際の交換作業では隣には決して負けない、と電光石火でこなしていた。互いに競っていたのはドライバーだけではなかったらしい。


 燃費の悪いR25やMP4/4、M23がピットへ。逆に、GoPで「ピット1回分有利(燃費・タイヤ激優)」をもらった貴族連合(312T2)がピットに入らずステイアウトし、一時的に上位に顔を出す。

 ゾンバ (M23) のスピードが上がらず、ペナルティで最下位に沈んだドワーフ (B194)に先行を許していた。


「順位が目まぐるしく入れ替わっています。サティさん、各チームのピット作業を総括して下さい」

「フェリスティン (RB19)がタイヤ交換と給油を完璧に終えてトップを死守。そしてそれを上回ったのが、騎士団チームの二台、最後尾からすでに4位、5位まで順位を上げています。あと特筆すべきはロンダーク村長 (FW14B)です。ピット作業は平均的でしたが、新品タイヤでフェリスティンを猛追しています。逆にピットワークでもたついたのは、マゼンタ (ロータス79)ですにゃ」


 観客は最初何が起きたのか分からなかったらしい。

 なぜ快調にトップを取っていたマシンがピットに入ったのか。わざわざ給油が終わるのを待ってタイヤを付け替えていたのか。


 それをフォローしたのが、実況の2人である。

 各チームのピットワークを小冊子の内容を交えながら、このスピードでレースをしている以上、タイヤがもたないこと。給油一回は義務であることを解説していった。


「すげえ、競ってるのはドライバーだけじゃなかったんだな」

「ああ、あの必死な作業見てるとレースがチーム戦だってわかるよ」


 光治郎は観客の反応を見てニンマリしていた。



 レースは20周経過時点。

 順位は大きく変動していた。


| 順位 | Pos| チーム / ドライバー | マシン | タイム差 |

|---|---|---|---|---|

| *1 | ±0| グレース・レーシング/フェリスティン(フェルスタッペン) | RB19 |Leader |

| *2 | ±0| チーム・アルトト/ロンダーク村長マンセル | FW14B | +6.8s |

| *3 | ↑7| ノブレス・オラージュ/パットリア伯爵(ラウダ) | 312T2 | +18.5s |

| *4 | ↑5 | ナイツ・ユニオン・レーシング/翼竜騎士団長セナ | MP4/4 | +18.9s |

| *5 | ↑5 | ナイツ・ユニオン・レーシング/正聖騎士団長プロスト | MP4/4 | +19.6s |

| *6 | ↓2 | バーミルズ・ブルー/バルレイズ男爵アロンソ | R25 | +28.0s |

| *7 | ↓4| マグス・ミラージュ/マゼンタ(アンドレッティ) | ロータス79 | +33.5s |

| *8 | ↓5 | レスキュー・レーシング/エミリア(シェクター) | P34 | +35.5s |

| *9 | ↑1| アイアン・スピリッツ/ドワーフシューマッハ | B194 | +41.0s |

| 10 | ↓4| クレモテス・スピード/ゾンバ(ハント) | M23 | +48.5s |


「社長。ピット作業もそうですが、戦略を練ってきたところが強いですね。特にパットリア伯爵が3位まで上がるとは思っていませんでした」

「確かにな。でも、ステイアウトのツケをこの後払うことになる」

「そこで順位を落とす、と」

「そうなるだろうな」

「やはりチーム力で差が出るのは、地球のF1と同じですか。ただ、今回はかなりはっきり実力差が出ているような気がします」

「ああ、そこはしょうがない。何せこの異世界でレースは初めてなんだから。それより気になるのはあれの方だ」


 サーキットの直上にはまだ青空があるが、光治郎の指差した西の方角には黒い雲が大きくなってきていた。


「こりゃ、確実にひと雨きますね」

「ああ、このレースはこのままでは終わりそうにないよ」


 そう言った後、光治郎は「このままで済まないのは、レースの後もだけどな」とひとりごちていた。


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