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開催決定!

 アクセルを踏む足は重い。今までこんなに気乗りしないドライブは異世界に来てから初めてだ。

 光治郎は王都へとアコードエアロデッキを走らせていた。車はいろいろあるが、最近はこれがお気に入りらしい。


「ずいぶんゆっくりなのね」

「そんなことないさ。待望のレースができるんだし」

「嘘」

「……仕方ないだろう。市販車の草レースで十分だったんだがなあ」


 サーキットを作ったのは光治郎。

 レイアウトを鈴鹿そっくりにしたのも光治郎。

 だが、本格的なレースをやるつもりなどなかった。


 ゆくゆくは、とは考えてはいたものの、一発目からF1なんて想像の埒外である。


「GTカーで十分じゃないか。F1だけがカーレースじゃないだろう?」

「まだ、言ってる。諦めなさいな」

「…………」


 今回も付き添いはパレッタ。

 最近はすっかり光治郎の愚痴を聞く係になっている。


 心の躊躇いとは裏腹にアコードは順調に街道を走り抜ける。


「休憩所ができてから、道も整備されてるみたいだな」

「ほんとにね。舗装されているわけでもないのにほとんど揺れないわ」

「陛下が交通局を創設して、王国全体の道路整備に注力したのがよかったんじゃないか」


 今はお飾りとはいえ、その交通局のトップなのにまるで他人事だ。

 確かに手柄は王国の交通局なのだろう。だが、彼らの組織が公正に運営できているのは、交通ルール細則を作った光治郎がいたからこそである。


 パレッタだってそんなことはわかっている。

 光治郎は拗ねているだけなのだ。


「冴えない顔ね。そんなんじゃ、陛下に開催を却下されるわよ」

「それは好都合だな」

「また、そんなこと言って。……そろそろ王都よ」

「へいへい」


 王都をぐるっと取り囲む塀が見えてきた。

 門番に挨拶するとそのまま中へ。当然、顔パス。今や光治郎自身が貴族様だし、隣にいるのはパレッタである。


 繁華街を避け、いつもの道を進むとガレージはもうすぐだ。立てた時は王都臨時ガレージだったが、現在は毎日錬金術師たちがレストアに精を出している。

 シャッターは開いている。

 顔を出すとマゼンタたち錬金術師三人組が出迎えてくれた。


「久しぶりです、コージロー。いよいよですね」

「なにがだ?」

「いやだなあ。F1ですよ、やるんでしょ? 我々もロータス79で出るつもりなんです。もちろんマリオ・アンドレッティの車で。いいですよね?」

「も、もちろんさ」

「あの美しい黒に金のライン。模型とか作りたいです。あっ、でも、全部金メッキにしたら黒が無くなっちゃいますね。ハハハ」

「あ。ああ。そうだな。…………パレッタ、荷物置いたら王宮に行くぞ」

「ん? ゆっくりでいいのに。まあ善は急げね。それじゃあマゼンタさん、ほかのみなさんも」


 早々に退散。

 盛り上がっているのはいいことなのに光治郎の顔はさらにくもっている。


 王宮につくと要件も言わないうちから、案内が「謁見の間にどうぞ」と言う。

 ここまでお膳立てができていたら、もう仕方がない。


「コージロー殿がお見えになりました」

「扉を開けい」


 光治郎とパレッタは王の前へ歩いていく。

 いつも通りに礼をしてひざまずく。


「よく来たな。光治郎、パレッタ。ああ、楽にして良い」

「陛下、今日はお願いがあって参りました」

「わかっている。F1だな。それは書状を送った通り、こちらからもお願いしたいところだ。うむ、今回は少し話を詰めておきたい。別室を用意せよ」


 あっという間に話は進み、すでに開催は決定。

 光治郎もここまで来ると流石に「開催したくない」とは言えない。


 案内された部屋は応接室ではない。椅子や机は豪華なものが運び込まれていたが、部屋の作りは作戦会議をするためのものである。

 あとは細かいことをどうするか。


 会議の参加者は陛下、光治郎、パレッタのほか、街道の休憩所作成に携わった交通局の者が数名。文官も同様である。


 壁には光治郎に下賜された領地の地図。そして、完成間近のサーキットの図がピン留めされている。余白が多いと言うことはこれに決まったことを書き込んでいくつもりなのだろう。


「まずは、サーキットの名前だがどうする。ローネスト高原にちなんだものにするか」

「そうですね。スズ……いや、スーズケインなんてどうですか」


 一同沈黙。

 どう見ても「こいつ、何言ってるんだ」という顔である。


「鈴鹿じゃないんですか」

「鈴鹿ですよね」

「鈴鹿以外ありえません」

「コージロー。取り繕っても無駄よ。みんな夢で見てるんだから」


 光治郎は開いた口が塞がらなかった。

 パレッタに説明されるまで忘れていたが、そうだった。ここにいる全員が知っているのだ。


 実にやりにくい。


「それは元のレース場の名前ですので。ここはSuzookeinn(スーズケイン)とします」

「まあ、コージロー殿がそういうなら」

「いいでしょう」

「これ、お前たち。コージローを困らせるでない」


 陛下に取りなされてスーズケインで決定。

 やりにくさはMAXである。


 だが、それ以外はスムーズに決まっていく。


* 開催地:三峰光治郎車爵領ローネスト高原

* 主催:三峰光治郎車爵

* 運営責任者:三峰光治郎

* 安全管理責任者:パレッタ

* オフィシャル統括:王国交通局・王都文官団

* コース全長:約5.8km(鈴鹿準拠)

* レース距離:53周(約307km)

* スタート方式:グリッドスタート

* 予選方式:一発タイムアタック(時期については、未定)

* ピット制限速度:80km/h

* フルコースイエロー(FCY)採用

* 黄旗期間追い越し禁止

* セーフティカー導入(ドライバーはピート、車種はフェアレディZ)

* 黒旗・ドライブスルー・タイムペナルティあり

* ピットレーン出口ラインカット禁止

* コース外走行によるアドバンテージ取得禁止

* ジャンプスタート失格

* タイヤ交換義務なし(実質上は通常2回)

* 給油は1回以上(通常1回)

* リタイヤ後もマシン回収までFCYまたはSCの対象


「予選はどうするのじゃ」

「普通はレースの前日なんですが、今回は走行会を見て決めようと思います」

「走行会?」

「ええ、今回は何せ初めてのレースですし」


 光治郎が一番危惧しているのがここである。

 すでに神様とは車やピット関係の資材や練習場について話をまとめていた。その際に一番気になるのは、本当のサーキットでの練習をどうするか、である。

 彼らが見た夢は日本で開かれた本物のF1の姿である。と言うことは、チームが来日した後、数日の練習走行しか頭にないはずなのだ。


「今回は各チームに練習用のオーバルトラックが用意されることになっているのですが、さすがに不安があります。そこで、サーキットを開放し何ヶ月かの練習走行会を実施しようと思うのです。予選はその練習を見ながらいつにするか決めようか、と」

「うむ、それが良い。だが、本レースまでそんなに時間をかけるのか?」

「ええ、サーキットができたと言ってもコースだけですからね。ピットはすぐにできるとしても管制塔。観戦用のスタンド、バックヤードや売店、王国全土からくる自動車や馬車などの駐車スペースなど作らなければならないものはたくさんあるんです」

「なるほど、それはどれくらいになる」

「そうですね。少し余裕を見て七、八ヶ月」

「走行会に必要になる施設については?」

「最低限ピットとレースカー移動用のトランスポーター用の駐車場を作ればいけるのかと。ひと月ちょっとあればできます」

「うむ。ピット周辺の設備が整ったところで告知をすることにしよう。練習走行会自体は六ヶ月。予選については、少なくとも開催の一カ月前には告知ということで各チームに通達する」


 光治郎はホッと胸を撫で下ろした。

 隣ではパレッタも大きくうなづいている。今回、レースをするにあたり一番怖いのは事故である。地球での開催とは違い、緩衝地帯を完全に用意することは不可能だ。それを補うのは異世界ならではの魔法しかない。光治郎はすでにそのことについてパレッタに相談していた。


 彼女はそれを請け負った。

 彼女自身もF1の夢を見たのだ。しかも、多くのものが見たのとは違う夢。鈴鹿に限らず世界中のレースの特定の場面についてである。


 それは事故シーンだ。

 パレッタはそれを見た後、数日寝不足になったという。

 どうすれば安全にレースを行えるようになるか、その答えがMaloである。


「パレッタ。それでいいかな」

「うん。私も走行会は見学するわ。このレースの安全は私が守る。各チームにMaloを搭載するにしても、調整は必要だもの」

「いいだろう。光治郎、そしてパレッタ殿。王国も安全面について全力でサポートする」


 光治郎もパレッタ一人に任せるのは心苦しいと思っていたのだ。

 相談の結果、王都の魔法師数人がMaloの開発と当日の魔力管理に携わってくれることになった。


 あとはスタンドとかバックヤードについてである。


「その辺はまだ計画ができてなくて……。一応の計画しかないので、作りながら相談していく形でどうでしょう」

「わかった。では、最後だ。参戦チームはどうなっている」

「アルトト村の村長、消防団のエミリア、あとクレモテス村のゾンバから。あと、さっき聞いたばかりなんですが、うちの王都ガレージの錬金術師チームから参戦希望が上がっています」

「うむ。王都には、正聖と翼竜の二つの騎士団から要請があるな。王宮チームとしてフェリスティンがハンドルを握るつもりだったのだが、三つは多すぎる。どうにかならんか」

「それなら、騎士団チームは2台体制で参加はどうでしょう。マシンは同じにしてもらわなければなりませんが」

「それで行くとしよう」


 この会議の後、王国全土に正式にレース開催が発表された。

 結局、参戦チームは9。騎士団チームのみ2台体制で計10台と決まった。


 開催に先立って、マシンと整備環境、練習場が貸与された。

 いずれも光治郎が神様に頼んで実現したものであるが、各チームにはパレッタと王都魔法師により供給されたことになっている。


 ◼️事前準備と特記事項

 * すべてのチームに異空間ガレージをすでにマシンを格納した状態で貸与。

 * マシンはすべて当時鈴鹿を走行する直前の状態で保存されたもの。

 * ガレージ奥には練習用オーバルトラックを設置(ガレージ最奥の扉から行くことができる。異空間に設置。チームごとに別)

 * 事前自由走行会を開催。本レース六ヶ月前から直前2日前まで。

 * 予選により決勝グリッドを決定。(実施時期については後述)


 以上が告知された内容だが、それ以外にも各チームには神から大きな力が与えられていた。

 * ドライバー及びピットクルーには、神により夢の中で当時の技術と経験が継承されている。

  特にドライバーには魂の一部が宿り、元のドライバーを引き継ぐドライビングが期待できる。

 (但し、それは練習あってのこと。いくら魂を引き継いでも練習を怠っている場合、実力の発揮は難しい)



 参加希望は王都の会議後、二週間後に締め切られた。

 参加一覧は次のとおりである。(チーム名、ドライバー、マシンについては年度、マシン名[オリジナルのドライバー])


01 チーム・アルトト ロンダーク村長(1992 ウィリアムズ・ルノー FW14B[ナイジェル・マンセル])

 ・アルトト村のチーム。メカニックは村民。

 ・電子制御の怪物である。立ち上がり加速が異常。


02レスキュー・レーシング エミリア(1976 ティレルP34 [ジョディ・シェクター])

 ・ラクタルの町の消防団チーム。メカニックは消防団員。

 ・6輪。ブレーキングとトラクションが抜群。


03クレモテス・スピード ゾンバ(1976 マクラーレンM23[ジェームス・ハント])

 ・アルトト村と敵対しているクレモテス村のチーム。メカニックは村民。

 ・豪快。オーバーステア気味。荒っぽい。アクセル全開タイプ。


04グレース・レーシングフェリスティン(2023 レッドブル RB19[マックス・フェルスタッペン])

 ・王宮チーム。陛下には絶対勝てと言われて若干プレッシャー。

 ・空力最強。全コーナー速い。タイヤマネジメントも圧倒的。


05 ナイツ・ユニオン・レーシング 正聖騎士団長(1988 マクラーレン・ホンダMP4/4[アラン・プロスト])

 ・騎士団連合チームだが、反目しあって実質別チーム。車種は同じ。こちらは正聖騎士団チーム。

 ・完成度最高。最高速も速い。鈴鹿の主役。


06 ナイツ・ユニオン・レーシング 翼竜騎士団長(1988 マクラーレン・ホンダMP4/4[アイルトン・セナ])

 ・騎士団連合チームだが、反目しあって実質別チーム。車種は同じ。こちらは翼竜騎士団チーム。

 ・完成度最高。最高速も速い。鈴鹿の主役。


07 マグス・ミラージュマゼンタ(1978 ロータス79 [マリオ・アンドレッティ])

 ・錬金術師3人組のチーム。あとの二人シェルストフとイェリスだけでは足りないので土産物屋の店員がスタッフに。

 ・鈴鹿S字の王者。


08 バーミルズ・ブルーバルレイズ男爵(2005 ルノーR25[フェルナンド・アロンソ])

 ・男爵領である南部バーミルズ高原のチーム。高原で一番の町レイズシティの領民がスタッフ。

 ・全域でバランスが良い。タイヤに優しい。終盤が強い。


09アイアン・スピリッツ ドワーフの長(1994 ベネトンB194[ミハエル・シューマッハ])

 ・王都のドワーフのチーム。主に光治郎を手伝って道路やサーキットを造成していた連中。

 ・テクニカル区間最強。切り返しが速い。


10ノブレス・オラージュパットリア伯爵(1976 フェラーリ312T2[ニキ・ラウダ])

 ・パットリア伯爵、ルービタン公爵、レンネル子爵が中心の貴族連合。

 ・かつて陛下にロールスを贈った光治郎に「自分にも車を」とねだってきた連中。意識だけは高いのでチーム名も「高貴なる嵐」である。

 ・ 安定性最強。壊れにくい。タイヤにも優しい。



 この歴代名マシンが参戦する大会には問題があった。

 彼らが見た夢では自分のマシンこそ最高なのだが、実際にはマシンに大きな差があるのだ。


 そこで、神による均衡が図れることになった。

 各チームに言い渡したのはGoPという性能差をなくす処理が施されていることのみ。


 その詳細は伏せられていた。


 ◼️神様特別規定(GoP)※各チームには伏せられている詳細

 * God of Performance(GoP)適用。

  これは世界耐久選手権(WEC)におけるBoPと類似した機能である。

 * 全車の性能は神の天秤により”ある程度”均衡化される。

  具体的には最新最強であるRB19を基準として、各車に見合う強化が行われる。

  BoPと異なる点として、最強性能を落とすのではなく、劣った車を引き上げることができる。

  (例:ティレルP34の最高速360km/hなど)

 * GoPの内容は公開されない。(が、実は光治郎だけはこっそり教えてもらっている)

 * GoPへの異議申し立ては禁止。

 * 魔法によるマシン性能向上は禁止。

 * 違反した場合は失格。


 各チームの所在地には開催決定の翌日、ピットガレージが忽然と姿を現していた。

 人々は最初驚き、だが怯むことなく練習を開始した。彼にとってそれは夢の中で見た光景そのものだったのだから。

 ドライバーたちはオーバルトラックで走行練習に励み、クルーたちはタイヤ交換や修理内容の把握に明け暮れた。


 来週にはスーズケインでの練習走行会が始まる。

 初のレースに対する期待が王国全土で高まりつつあった。


荒唐無稽ですが、まあ「異世界での夢の話」ということで……。

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